第九話 第二次侵攻


俺はICAの第二次侵攻計画のブリーフィングに参加している。


「グルリ諸島のパスペカ国は軍事力はさほど高くない。むしろ先日攻撃したボジルよりも低い。今回の攻撃ではドローンは30機未満で軍事施設を中心に攻撃を行い、政府中枢は人を使って叩く。

あと、要人についてだがより精巧な捏造データを作るために、今後の攻撃では可能な限り射殺せず拘束しろとのお達しだ。

今回も強襲揚陸機で政府施設前に向い、そこから制圧作戦を実行してもらう。ただ今回は、広い道がなく航空機が着陸できないため、ホバリングしながら、君達にはロープを使って降下してもらう。まぁ、元々狭い国だからな。」


指揮官がそう嘲ると、話を聞いてた傭兵からも「ハハハ」と笑いが起きる。


「これでブリーフィングは終わりだが、質問は?」

指揮官は辺りを見渡す。


そこで一人の男が挙手をする。

「何だ?」指揮官は問いかける。


「マクシロス大佐。俺達はなんのために戦ってるんすか?」


この戦争の根拠にして核心をつく問い。

大佐は面食らったようだが、すぐ質問に答える。

「俺もよくわかんねぇんだが、お偉いさんは世界の幸福のためって言ってるよ。」


「分かりました。、、、。」


場がおかしな雰囲気になる。

大佐は手を2回叩くと、

「ほら、終わったぞ。戻った戻った!」

と無理やり空気を変える。

兵士達は立ち上がり、各々ホールから退出する。

俺も特に用はないので自室に戻ることにした。



早朝、俺は自分の所属する部隊の面々と隊列を組んで、飛行場へと向かう。いつもと同じFC1が俺達を迎える。

いい加減この光景にはうんざりだ。

俺は飛行機へと乗り込むとシートベルトを装着する。すると反対側の席にディップが着席していて、こちらに向かって手を振っていた。

「おい。ひでぇじゃねぇか。作戦の決行は今日だってのに明日任務があるからって嘘つきやがって !」

ディップは不満気にこちらを見る。

「悪かったな。疲れててすぐ休みたかったんだ。」と俺は受け流す。


「それよりもディップはなんで一緒に来てるんだ?」

ディップは今回の作戦には参加しないはずだが、、、

「あぁ。前一緒にいたやつで被弾したのがいたろ?ソイツの弾の当たりどころが悪かったのかくたばったらしくてな、、、。ソイツの代わりってわけさ。」


「なるほどな。」

確かに撃たれた奴がいたような気がするが、ソイツがどうなったかまでは知らなかった。

俺は納得すると

「まぁ、よろしくな。」と挨拶をする。

「あぁ、ライム!」

予定時刻になりハッチが重々しくゆっくりと閉まる。

ここには滑走路はない。

ICAの航空機は全てが垂直離着陸能力を持っているからだ。

飛行機はエンジンを真上に傾け、徐々に機体を宙に浮かす。

「昔は、滑走路を使って飛ぶ飛行機が多かったらしいが、やっぱスペースを取るから減ったんだろうな。」


ICAの兵士の癖によく喋る。

ICAの傭兵でこんなに喋るのはディップとオーダーズの奴らだけだ。

オーダーズとは、ICAの審議官、ダッチ・ドランが経営し、ICAに傭兵を派遣している会社の名前である。オーダーズの兵士はなぜかガサツで元気な奴が多い。おそらくバックに審議官を据えて舞い上がっているからだろうが、、、


「どうした?」

俺は首を振り、

「いや、何でもない。」と答える。


3機の強襲揚陸機、FC1は、海を横断し、パスペカへと向かう。

窓の外の景色はいつも海と空で単調だ。

「偶には、陸を横断する任務にも着きたいな。」

そうこうしているうちに飛行機はパスペカに到着し、ハッチが開く。


俺はシートベルトを外し、ロープをつたって降下する。

「いつも手際がいいな。」

俺はICAのあまりに戦いに慣れた様にいつも驚かされる。

遠くには攻撃されたのであろう、あってないようなこの国の軍事基地らしき建物から黒煙が上がっている。

だが、それとは対称的に街の人々は困惑はしているものの混乱はしておらず、それどころか俺達のことを自国の軍のイベントだろうと思っている様子だった。


「酷い平和ボケだな。」


俺は皮肉を込めた感想を吐き捨てる。

俺達はいつも通り政府庁舎の敷地に侵入し、衛視や警官と多少銃撃戦を行ったものの、容易に制圧する。

建物の中に入ると打ち合わせ通りディップの班と俺の所属する班とで二手に分かれて行動し、要人達を次々と拘束していった。


俺達は確保した要人達とともに建物から出ると、味方同士で合流する。


「海上の強襲揚陸艦の到着が遅れている。しばらく街なかで待機するように。」


今回俺達は強襲揚陸機で来たが、着陸するスペースがないため海を使って帰投する他ない。

俺は溜息をつくと捕虜に気を配りながら、少し休むことにする。


「キャー」


突然だれかの叫び声がする。

すると若い女がICAの兵士に襲われていた。


「オーダーズか。」

ディップは舌打ちすると、襲っている傭兵の元へ向い、女掴んでいる手を引き剥がす。

「何だてめぇは?」

「邪魔すんじゃねぇぞこら!」

オーダーズの兵士達は声を荒あげて、ディップを威嚇する。

するとディップは奴らの一人に強烈な腹パンをお見舞いする。

「クソがっ!」

「調子のってんじゃねぇぞこら!!!」

向かってくる二人に対してディップは怯むことなく顔面にそれぞれ強烈な一発をかます。

二人はドサッと地面に崩れ落ち、苦悶の表情を浮かべる。

「お前らのことはICAの監察委員会に報告する。」

ディップはそう吐き捨てると、

若い女に「大丈夫か?」と声をかけ、

「はっ、はい!」

女はディップに助けられたことがよほど嬉しいのか、元気よく返事をする。

俺達が侵略兵じゃなかったら、もしかしたら新しい恋が始まっていたのかもしれない。


その後は、無事に強襲揚陸艦の中から出てきた車両が到着し、俺達は帰投を開始する。

その道中で、パスペカはとうもろこしの生産が盛んらしく、一面に広がるとうもろこし畑を眺めながら、

「久しぶりに、窓の外から海と空以外のものを見たな。」

と苦笑した。


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