第13章 ー表と裏ー
タチカゼはゆっくりと目を開いた。
どこまでも続く真っ暗な空間・・・白い霧のようにその空間を漂うナノキューブの粒子。
そこはいつもの『キューブコア』の中だった。タチカゼは起き上がろうとした。
・・・が、おかしい。力が入らない・・・外部で受けたダメージはここでは影響を及ぼさないはず。
ここはあくまで『データの世界』だからだ。
何とかよろめきながらタチカゼは立ち上がった。
「・・・キューブ・・・どこだ?・・・キューブ・・・?」
いつもの相棒の姿を探す。すると深い暗闇の中からコツコツと足音が聞こえて来た。
タチカゼはホッと安堵した。どうやらキューブには問題はないようだ。
彼の前に、いつものフードを目深に被ったキューブが姿を現した。ただいつもと違うのは
その両手にカタナを一本ずつ持っている。何かいつものキューブではない、違和感を感じた。
「キューブ・・・?」
キューブは何も言わず、片方のカタナをタチカゼに放ってよこした。
「カタナ?キューブ・・・何だよこれ?」
「・・・このまま入れ替わっても構わないんだけど・・・それは僕の流儀に反するからね。君にも
チャンスをあげようと思ってさ!それに何も知らないまま消えていくのは余りにも可哀想だと思って
ね・・・仮にも『相棒』だった訳だしさ」
キューブは鞘からカタナを抜いた。鞘はいくつもの立方体の形になって消えた。
「入れ替わる?消える?何の話をしているんだ!?」
タチカゼは訳が分からず困惑の様相を見せた。
だが、問答無用でキューブはタチカゼとの間を詰め、カタナを振り下ろした。タチカゼは鞘に収まったままのカタナでそれを受け止めた。
「・・・そうだね、さっき途中で終わったお姫様の話の続きからしようか?」
上からカタナで押さえつけるキューブ、段々押さえ込む力が増していく。
なかなか力の入らないタチカゼは、押し倒されないようにするので精一杯だった。
「お姫様の父君・・・イド皇帝は『マザーキューブ』と6つの・・・『オリジン・キューブ』を
手に入れたのさ。」
「オリジン・・・キューブ?」
「アストレア博士はキューブシステムの理論を元に6個のキューブコアを完成させていたんだ。それをイド皇帝が起源の《オリジン》キューブと名付けたのさ。」
「ふぅんぬぅぅぅ!!!」
タチカゼは何とかキューブのカタナを押し返した。キューブは距離を取り、着地した。
「今、運用されているニンゲンヘイキはマザーキューブに入っていたデータを解析して造ったものだ。だがその理論は今の技術者の理解力の遥か先をいっていた・・・。誰も完全にデータを解析する事が出来ず、一人のニンゲンヘイキの素体に一部の能力を付与するのが限界だった。僕は皮肉を込めて『コピーキューブ』と呼んでいる。・・・だが君は違う!」
「違う?何が違うんだ!?つまり俺も一部の能力・・・再生能力しか付与できなかったって事だろう!?」
「・・・君、思ったより理解力が早いんだね。少し驚いた。まぁ、いいや。ここからが重要なんだ。
君、キバカゼに出会った時レア物とか言われていただろう?」
「俺も蒼い眼のニンゲンヘイキは見た事ねぇからな・・・レア物なんて言われて当然だろ!?」
何か嫌な胸騒ぎがタチカゼを襲う。冷や汗を掻いていた。今はただのデータの存在のはずなのに
無駄にリアルに再現しやがる・・・そう感じた。
「そりゃそうさ・・・蒼い眼のニンゲンヘイキは『6体』しか存在しないからね!」
「!?・・・6・・・体・・・!?」
キューブは切っ先をタチカゼに向けた。
「ここまで言えばわかるよね?君の体の中にあるのがオリジン・キューブの一つさ!」
「それは可笑しいだろ!?俺がそのオリジン・キューブの所有者ってんなら、何故再生能力しか
使えないんだ!?俺はオッサンみたいな怪力もセツナみたいな発達した五感や精密計算も出来やしねぇぞ!」
「そこなんだよねぇ・・・」キューブは切っ先を下ろし、ため息をついた。
「オリジン・キューブの移植には成功したんだけど、何故か全員再生能力しか顕現けんげんしなかった・・・そこで技術者達は試行錯誤を始めた訳だ。」
キューブはタチカゼの周りをゆっくりと歩き始める。
「君には、『普通のニンゲンヘイキと同じように、自我を破壊し戦場に送り込む』という実験が行われる事になった。ものは試しってやつさ!けどその頃からニンゲンヘイキの中から自我が芽生えるモノ、君達の言う所の『覚醒者』が現れ始めた・・・。君がもし、自我を芽生えさせ逃げられでもしたら大変だろ?現に君は、今こうして対イド帝国ゲリラ特務部隊『蒼の風』の頭領をやっている・・・。技術者達はこうなった時の為に『保険』をかけていたんだ。」
「保険?」タチカゼは尋ねた。
キューブは足を止めた。
「君に謝らなければいけない事がある。僕が君の『行動サポートプログラム』と言うのは嘘なんだ。いや、半分は真実なのかもしれないね。君と共に戦場を駆け回る日々は中々悪くなかった・・・。
僕は君が自我に目覚めた時の監視役、後付けの別人格プログラムなんだよ。そして・・・」
キューブが目深に被っていたフードをゆっくりと下ろす・・・そこにはタチカゼと瓜二つな顔があった。ただ一つ違うのは、彼の左眼が緋色に輝いている事だった。
「な!?・・・オ・・・レ・・・!?」
「君が外でナノキューブの体を成長させいる間、僕が中でキューブコアとマザーキューブの解析を続けて来た。君と僕は表と裏・・・表裏一体という訳さ。これにて真実の話はお終いだ!
さて、じゃあ最後の仕上げといこうか。カタナを抜き給え、勝った方が真のニンゲンヘイキとして目覚める!!」
キューブが左手を前に出すとそこに立方体の束が集まり鞘になった。そこにカタナを収め、
得意の『あの技』の態勢をとった。
タチカゼは少し間があった後、カタナを正眼に構え少し切っ先を下げた・・・。
「それでいい。先に礼を言っておこう・・・ここまでこの体を育て上げてくれた事に感謝するよ」
その言葉が合図かのように二人同時に地面を蹴った。
『不知火流、絶技・千華万来!!!』
『不知火流、抜刀・一閃!!!』
二人が一瞬交差し、そのまま駆け抜けた。
・・・手からカタナが零れ落ち、顔は天を仰いだ。そしてそのままうつ伏せに倒れた。
キューブのカタナは立方体の束となって消えた。
すると闇の奥から何本もの鎖がタチカゼ目掛けて飛んできて体中に巻き付いた。
そのままずるずると床を擦こする金属音をたてながら、タチカゼ諸共漆黒の中へ消えていった。
「さよならだ、タチカゼ。君に会う事はもうないだろう・・・君の相棒をするのもそう悪くはなかったよ・・・」
キューブはそう言いながら、タチカゼとは真逆の眩い光の差す方へと消えていった。
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