第11章 ーまた話そうー

「まったく、男って奴は・・・血気盛んで嫌だねぇ。私達はのんびり行きましょ?」




シャオ・リーが余裕たっぷりにゆっくりとセツナに話かけた。




「あたしにのんびりってのは似合わないんだよ!!」




セツナは拳銃を相手に連射する。次の瞬間だった。シャオ・リーは避けるでもなく、音も無く目の前


から消えたのだ。




「上!!?」




上空をセツナは見上げた・・・いない!!周りを見回す。どこにもシャオ・リーの姿は見えない。


ただ木々を足で蹴り付けて移動する音だけが響く。




「クソ!速い!どこ行った!?」




そう言った瞬間、翠の眼が背後に生体反応をキャッチする。体を捻ってずらしたが、肩口から鮮血が


飛び散った。




「くっ!!」




セツナは肩口を押さえ、片膝を付いた。音もなくシャオ・リーが目の前に現れる。地面に着地したと


いうより、急に目の前に現れた感じだった。




「へー・・・腕を斬り落としたつもりだったのに・・・あんたのその翠の眼、なかなかの性能だね。


私、スピードにはかなり自信があったんだけど。」


「・・・そうみたいだね、この翠の眼がなかったら反応できなかったよ。」




セツナはゆっくりと立ち上がった。




「じゃあ、次行くよ!!」そう言うが早いか、その姿は目の前になかった。セツナはチッと舌打ちをした。この相手に重火器じゃ、相性が悪すぎる。この翠の眼を使ってもすぐ近くに相手が来るまでは察知が出来ない。また木々の間を蹴って飛び回る、ダンッ!ダンッ!ダンッ!という音が聞こえる。来た!!今度は目の前、察知は出来たが防御が間に合わない!!と思った時、シャオ・リーとセツナの間に割って入る人影があった。ギィンという剣同士がぶつかり合う音。シャオ・リーは後ろに飛びのき着地した。


セツナの目の前には橙の瞳の男が立っていた。




「お前!!助けてくれたのか!?」


「何だ、お前は?」シャオ・リーが尋ねた。が、橙の男はその質問を無視して


「ニギリメシの礼だ。それに・・・」橙の男は肘から下のない、包帯が巻かれた左手を見た。


「あのタチカゼという男に、この左腕の礼を返さないと気が済まん・・・だから礼を返すまでは


お前達に付いて行く事にした。」


「・・・ま、あたしが狙われてる訳じゃなし、そこは好きにしておくれ!正直あたしとあいつじゃ相性が悪すぎる、助かるよ。あんた、今あいつの剣を受け止められたって事はあいつの動きが見えてるのかい?」セツナは尋ねた。


「いや、お前の目線から奴の位置を特定した。」橙の男は大剣を構え直した。


「なるほど!じゃあ、あたしがあんたの眼になるよ。攻撃の方、たのまぁ!!」


「・・・あんたじゃない」


「え?」


「俺は型式番号Z-001『シンラ』だ・・・」シンラは敵を見据えながら答えた。


「型式番号Z!?なんだそりゃ!?そんな番号聞いた事ないよ!しかも番号の後に名前も付いてるのか!?その橙の眼といい、あんた一体何なんだい!?」


「・・・自分でもよく分からん。今は断片的に思い出せる事を言っているだけだ。」


「・・・よく考えたらニンゲンヘイキなんて分からない事だらけだもんな、真実を知るのはDr.キューブのみ・・・か。分からない事は後回しだ!今は目の前の相手ぶっ飛ばすよ、シンラ!」


シンラは何も答えずフゥーと呼吸を整える。




「2人になった所で何か変わるかねぇ・・・まぁ、いたぶる相手が増えて私は嬉しいけどさぁ!!」




シャオ・リーは妖艶な笑みを浮かべ、大剣をビュンと一振りした。




####################




キバカゼとタチカゼは向き合ったまま動かなかった。キバカゼから仕掛けて来る様子はまるでない。


まるでこっちを試してるようだ、とタチカゼは感じた。ただ静かに佇たたずんでいるだけの


キバカゼから感じる、何か得体の知れない重圧・・・。呼吸をするのが苦しい。


タチカゼはフゥゥゥゥ―――と長く長く息を吐き出した。覚悟は決まった。


タチカゼは正眼の構えから少し切っ先を下げて構え、力強く地面を蹴った。




『この技は・・・勝負に出たか、タチカゼ!』




キバカゼはそう思い、カタナの柄を握り直す。




『不知火流、絶技・千華万来せんかばんらい!!!』




絶技・千華万来・・・ニンゲンヘイキの常人を超えた筋肉・瞬発力・太刀筋の正確な操作・そしてフェイントなどの剣技を全て使って一振りのスピードを極限まで高める事により、相手には一振りの太刀筋が3か所からの同時攻撃に見えるのである。その攻撃が全方位から襲ってくる。これを連続で行う事によりカタナを振り終わる頃には相手はズタズタに斬り刻まれ、動かなくなっている・・・故ゆえに『絶技』である。




キバカゼを三か所からの太刀筋が襲った。だがその太刀筋すべてを捌ききる。それでも攻撃を緩めないタチカゼ。超高速のカタナ同士のぶつかり合いが続いた。何時までも続くかに思えた太刀筋の乱打だったが、こんな連続の全方位攻撃が何時までも続く訳がない。タチカゼのカタナの太刀筋が段々鈍って来る。その隙をキバカゼは見逃さなかった。ふいにおもいっきり体を捻り、タチカゼに背を向け横薙ぎの一撃を繰り出した。




『一刀・遊独楽!』




タチカゼは強烈な一撃に吹っ飛ばされ、一回転してそのままカタナを地面に刺して勢いを殺して止まった。


ハァハァと苦しそうに息をしている。さすがのキバカゼも汗が頬から零こぼれ落ち、フゥーと


息を吐いた。




「いやぁー、驚いたぞ!タチカゼ!!『千華万来』まで使いこなせる様になっているとは!昔は


太刀筋が同時に2本までが限界だったのになぁ」




キバカゼは感心してうんうんと頷いた。




「ハァハァ・・・遊独楽・・・は・・・相手の体制・・・崩してからって・・・ハァハァ・・・


自分で言ってたじゃ・・・ねぇか・・・」


「俺ぐらいの不知火流の使い手になると、そんな小手先の技術はいらんのだよタチカゼ君!」


「ハァハァ・・・言ってくれるぜ・・・まったく」




タチカゼはゆっくりと立ち上がった。少しずつ息も整ってきている。キバカゼが、こちらが体制を整えるのを待っているのは明らかだった。




「さて・・・」キバカゼは正眼の構えから少し切っ先を下げた。


「我が弟子が成長した姿を見せてくれた礼だ、『千華万来』の極みをお前に見せてやる。」




キバカゼはそう言うと地面を力強く蹴った。




『絶技・千華万来・乱らん!!!』




キバカゼの太刀筋が正確にタチカゼを襲う。が、タチカゼにはその太刀筋が見えていた。3本の刃の太刀筋を躱し、捌さばき切る!・・・だが4本目の刃がタチカゼの胸を抉った!




「な!?4つ目の太刀筋!?」タチカゼは顔をしかめる。


「まだだ!」そうキバカゼが言うと、次は5本の刃が同時にタチカゼを斬り裂く。


後はキバカゼの独壇場だった。終わりのない全方向からの刃の嵐がタチカゼの体を包み込んだ。


斬られては再生し、再生した場所がまた斬り割かれる。その繰り返しが続いた。しかしタチカゼも


ダメージを受け過ぎたのか、再生速度が段々遅くなっていった・・・。




キバカゼが袈裟斬りを最後に繰り出し、そのままタチカゼの横を通り抜けた。




「く・・・かっ・・・あ・・・」タチカゼの手からカタナが零れ落ちた。立ったまま痙攣している。


「どうだ?こんだけ斬られりゃ、再生も追いつかないだろう?」




キバカゼはカタナを鞘に収め、腰を落とし脚を広げた。




「こいつで終わりだ・・・お前はこの技が苦手で使わなかったな。」




キバカゼは地面を蹴って、タチカゼに接近しながら鞘からカタナを抜き放った。




『抜刀・一閃!!!』タチカゼの体を、鋭い牙が食いちぎっていった。


そのままタチカゼは膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。キバカゼはゆっくりとカタナを鞘に収めた。




「今日はここまでだな・・・タチカゼ。また話そう、その時までにもっと強くなっている事を願うよ」




キバカゼはフードを頭まで被った。




「後は王妃直属護衛の2人に任すとしますか・・・」




キバカゼは夜の闇の中へと、タチカゼの方を見る事もなく去っていった。


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