第67話 コース変更

 俺達は、魔王から「まだ戦うのは早い」と言われていたAランクの魔物を狩っていた。

 この区画で4つ目になる。


「『スキャン』完了。魔物はリッチで数は4体。俺はいつでもいけるよ。ミアはどう?」


「はい。わたしも準備OKです」


 俺達はスキルを込めたざくろ石を分配し、自分の『収納バングル』に入れる。

 魔王からもらった『収納バングル』とざくろ石の相性はとても良かった。

 見た目ではざくろ石にどんなスキルが込められているかわからないが、『収納バングル』に入れるとスキルの内容がわかるのだ。

 『収納バングル』から取り出すときは、ざくろ石とスキルのセットが頭の中に浮かぶので、そこから選んで腕を振るだけで取り出せた。


「準備はできたようだな。前回同様、魔物の情報は教えない。自分たちで戦いながら見極めろ。対人戦は常にそういう戦いになるからな」


 俺達は頷き、区画にそっと入る。

 ローブのようなものを着たアンデッドの魔物がいた。


『奥に2体、左右1体ずつ。ゲームとかに出てくるリッチと同じなら魔法を使ってくると思う。遠距離攻撃に警戒して』


『了解です。光魔法や聖魔法が弱点でしょうか。わたしたち使えませんけどね』


『とりあえず左の1体と戦ってみるから、ミアは他3体をお願い』


 ミアは微笑みながら、指で作ったOKマークを俺に見せる。

 俺とミアは『ping』のざくろ石を使う。

 そして左右に分かれて行動に移る。

 

 ミアが『現実絵画だまし絵』の込められたざくろ石を、右奥の岩めがけて投げた。

 岩にぶつかったざくろ石は砕け、岩に俺が描かれる。


 4体のリッチの意識がタクミに向いている隙に、俺は自分に『ルーター』をかけた。

 ルーターの条件は『タクミへの攻撃を、左のリッチに行き先を変える』だ。

 そして、俺はライトセーバーで自分を勢いよく斬りつける。

 光刃が俺に接触する瞬間、ライトセーバーはリッチへ向かい高速に移動した。

 グリップを掴んでいる俺の身体ごと、光刃を振り下ろした速度でリッチ目がけて飛ぶように移動する。

 リッチが俺の接近に気づいたときには、ライトセーバーはリッチの胴体を水平に切り裂いていた。

 

『ミア、ライトセーバーで倒せる相手だ。右手前の敵をまかせる。俺は奥の2体に向かう』


『了解。あっ、タクミくん人形は敵の火魔法で爆死しました。他の魔法は不明です。油断しないでくださいね』


 マジか。俺に向けて魔法が放たれたときに『ルーター』で斬りつけるとカウンターをくらうな。

 この戦法の弱点は敵まで最短距離で移動するため、カウンターをくらいやすい。


 慎重にダミーを使うか……

 その瞬間、俺の後方に赤い靄が出現した。

 マズい。俺は『心の壁』バリアを発動し振り返る。

 目の前で八角形のバリアに火の弾が直撃し、爆発が起こる。

 俺はすぐにリッチとの距離を縮め、ライトセーバーで首を刎ねた。


 思った通りあの威力の魔法は連続して使えないようだ。

 短距離転移からの魔法攻撃とか、魔王の特訓なしで戦ってたらヤバかったな。


 さてと、残り2体もさっさと倒すか。

 ミアの方を見ると真っ黒な半球体なものが出来ていた。

 慌てるな。

 この前の区画では、ミアが危険だと焦ってしまい、逆に俺がピンチになったのだ。

 しかも、ミアは全然余裕で戦えていたのにだ。

 まずは状況確認。敵のスキルの効果を把握する。


『ミア、大丈夫か? なんか黒いものに包まれているけど』


『はい。真っ暗でまわりが何も見えないですけど、敵を2体倒しました。まだ暗いんですけど、どうしましょう』


 既に2体倒している……だと。

 これだよ。ミアは俺が思っている以上に強い。

 

『どの方向でもいいからしばらく歩いてみて。そしたら真っ黒な場所から出られると思う』


 少しするとミアが真っ黒な半球体から出てきて、俺に向かって手を振っている。


「急に真っ暗になって焦りましたけど、『ping』のおかげで相手の位置がわかったので大丈夫でした」


 話をしている間に、真っ黒な半球体は消えて魔石が2つ地面に落ちていた。

 その魔石を回収し、残り2体の魔石を取りに行こうと思ったとき、魔王が近寄ってくる。


「リッチは苦戦すると思ったのだが、おまえ達には余裕だったようだな。さっきの黒い球体は『闇結界』という魔法だ。あの中に入ると光が遮断され周囲は見えなくなる。状態異常の耐性があっても、魔法の効果は球体の中の光を遮断するだけなので防ぐことは出来ない。異世界人でも同様のスキルを何度か見たことがあるから覚えておけ」


 俺達は魔石を魔王に渡した。

 魔王は区画の奥へ行き、4つの魔石をおいて戻ってきた。

 こうすることで、三日後にはリッチが復活しているらしい。


「おまえ達が戦っている間に、カルラから『念話』があったので情報を共有しておく」


 教えてもらった内容をまとめると次の4つになる。

・魔族の戦争相手は、『エルフ族』『メルキド王国軍』『王都の冒険者ギルド』の3つの連合軍であること。

・アーサーがメルキド王の説得に成功し、ドワーフ族、魔族との同盟に前向きであること。

・アーサーが『メルキド王国軍』に合流後、タイミングをみて連合軍から離叛すること。

・カルラ達は魔族軍との合流予定地に着いたが、そこには誰もいなかったこと。

 

「魔族軍はどこに行ってしまったんでしょうか? エンツォさんもわからないんですか?」


「人族との国境までのルートには、何カ所か野営地があるのだ。そこに居ないとすると……何かあったのかもしれん。アレッサンドロというクソジジイが皆を率いているのだが、性格に難はあっても優秀なヤツだ。仮に何かあってもなんとかするだろうよ。カルラには明日からは自分の足で追えと言ってある。ドラゴンだと目立つからな」

 

「わたし達はどうしましょうか? 今のレベルは47だけど、徐々に上がりづらくなってきてます。カルラの身に危険があるなら、早く合流した方が良くないですか?」


「ミアよ。それはダメだ。おまえ達の今できることは、早くレベルを60にすることだけだ。娘のことを心配してくれる気持ちは嬉しいが、今はまだ足手まといにしかならん。特に対人戦の経験を積まないとな」


 ミアの話の流れで、しれっとカルラ達に合流できるかと思ったが、やはりダメだったか。

 けど、今のペースだと明日中にレベル60は厳しい。

 少し無理を通してみるか。

 

「エンツォさん、俺達にできることがそれだけなら、最短でレベル60になれるコースで修行をお願いします」


 魔王はいつになく真剣な表情で俺の顔を見る。


「……いいだろう。おまえ達に戦場を教えてやる。息つく暇もなく戦闘が繰り返され、周りに安全な場所など1つもない地獄。明日はそこで生き残って見せろ。俺が一度でも手を貸したら中止し、今までのペースで修行を続けるからな」


 俺達は明日に備えるため、今日の残りの予定は全て中止にして魔王の屋敷へ戻ることになった。


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