第60話 レベル上げ

 ——翌朝、カルラとゲイルは進軍している魔族軍に合流するため、魔都『ゾフ』を発った。

 カルラには『移動式魔法陣』を渡してある。

 これは俺達がカルラ達と合流するときに使うためのモノだ。

 ゴンヒルリムで作ってもらった『移動式魔法陣』は手元にあと1つしかない。

 時間ができたら、ゴンヒルリムへ補充しに行かないとな。


 俺達は魔王のドラゴンに乗り、霊峰シラカミの麓にある村へ移動中だ。


「これから行くところは、魔族がレベル上げをするための特別な施設だ。今も若い魔族が魔物と戦闘を繰り返している」


「どんな施設なんですか?」


「村にある戦闘場に1体ずつ魔物を連れてきて、魔族で取り囲んで倒す。それをひたすら繰り返すことでレベルを上げている。戦闘場は濃い瘴気溜まりがある地下洞窟につながっているのだ」


「なるほど、倒したあと魔石をすぐ地下に戻すことで、魔物を復活させるわけですね」


「そうだ。だから倒した魔物の魔石は持って帰らないようにな」


 Aランクの魔物を倒すと、Aランクの魔石が残る。

 魔石は『瘴気』を吸収すると魔物になる。

 つまり、『瘴気』が豊富にある場所なら、魔物を倒してもすぐに復活するわけだ。


「Aランクの魔物だと、どのぐらいで復活するんですか?」


「ここなら3日あれば復活するぞ」


 ……思ったより時間がかかるな。

 待ち時間が発生すると、レベル60になるのが遅くなる。


「くっくくく。心配は不要だ。ここで魔物に困ることはない。この地下洞窟には掃いて捨てるほど魔物が生息しているからな」

 

 ……顔に出ていたか。

 けど、それなら何も気にせず倒し続ければいいってことだな。


「エンツォさん、どうして魔族のみなさんは戦闘場で1体ずつ倒すんですか? 魔物から攻撃されないなら、地下洞窟の中で戦えばいいかと思って」


 ミアの疑問はもっともだ。

 地下洞窟を周回した方が効率は良いからな。

 

「カルラ達から聞いてないのだな。我ら魔族も、魔物を攻撃すれば反撃を受ける。こちらが何もしなければ、何もされないだけだ」


「だから取り囲んで、みなさんで一斉攻撃して倒すんですね。倒しきれないときは……」


「無論、反撃をうけるぞ」


 確実に勝てる相手をひたすら一撃で倒し続ける。

 これだと戦闘経験は積めない。

 あっ……もしかして、魔族で『力比べ』が流行っている理由はこれなのか?

 レベルを爆上げしても、その成長を試す場がない……とか。

 魔族は数が少ないから、死のリスクがあることは制限されている可能性があるからな。

 魔王としても、戦闘経験を積め対人戦の訓練にもなるし、死ぬ危険性も低いから放置していると。

 ……認めたくはないが、なんか納得してしまった。


 ◇


 ——俺達は一度施設のある村で降りたあと、地下洞窟の入り口まで歩いてきた。


 村の施設は魔物と本格的に戦闘することを想定して作られていない。

 余程のことがない限り、魔物を一撃で倒すからだ。

 魔族でない俺達が施設にいると魔物が暴れてしまうため、地下洞窟でレベル上げをする。


「この石が隠し扉になっていて、この魔道具で開閉できる。オレも一緒について行ってやるが油断はするな。あと、奥深くには行くなよ。瘴気でやられるぞ」


 俺とミアは頷き、魔王に連れられ洞窟の中へと進む。

 

 ——洞窟の中に入ると、あちらこちらに魔道具の灯りがあり、十分に戦える明るさだった。

 それにしても広い。天井まで20メートルぐらいはありそうだ。

 一番狭い道幅でも10メートルはある。

 ただし、道はかなり入り組んでいた。

 

「タクミとミアにこれをやろう。『携帯念話機』だけだと、はぐれた場合に合流できないからな」


「おおっ、これはゲイルがシラカミダンジョンで使っていた魔道具ですね!」


「知っていたか。自動で歩いた道を記録する魔道具だ。この赤いマルは自分がいるところを指す。この魔道具は魔族の者が起動すれば、魔石エネルギーが切れるまでは誰が持っていても動作するのだ。おまえ達の役に立つだろう。常に持ち歩けよ」


 これはオートマッピングの魔道具だ。

 マジで魔族の魔道具は便利だ。発想センスが良い。

 4つの種族の中で一番文明が発達していただけある。


「ありがとうございます。これは助かります!」


「は、早く行くぞ。無駄話している時間はない」


 プイッと背を向け、さっさと歩き出す。

 ミアがクスクス笑っている。

 なんだ……これはもしかしてツンデレ?


 ◇


「とりあえずAランクの魔物を飼育している区画へ行く。一度戦闘しているミノタウロスはどうだ?」


「肩慣らしに丁度いいですね。それでお願いします」


 魔王の案内で、しばらく歩くと魔王は足を止めた。


「この石扉の先がミノタウロスの区画だ。50体ぐらい居るはずだ。おまえ達は、まだAランクの適正レベルにいない。つまらんかもしれんが、まともに戦うなよ。とりあえずレベル45になるまではSPを温存する戦いを意識しろ。準備はいいか開けるぞ?」


「ミア、俺から先に入る。俺は左、ミアは右に展開。壁を背負うように。ライトセーバーはSP30消費で、念話もつなぐよ」


 俺達の合図を確認してから、魔王は石扉を開く。


「さてと、いきますか」


 俺は扉が開いた先の通路めがけて、ライトセーバーの光刃を伸ばす。

 7メートルの長さになった光刃を突き出す格好で通路を駆ける。

 通路の先は広い空間になっていた。

 俺はすぐに左に、ミアは右に曲がりお互いのバリアが干渉しないよう距離をとる。

 魔王は通路から少し出たあたりで待機していた。


 小学校のグラウンドぐらいの広さに約50体のミノタウロス。

 俺が戦ったミノタウロスより、2回りぐらい小さいな。

 アイツが特殊個体だったのか?

 まあいいか。

 

『声を出してこっちに呼び寄せよう』


 俺とミアは大きな声を出し、ミノタウロスを集める。

 こうして始まった戦闘は、圧倒的なリーチと火力の光刃を振り回すだけ。

 とても戦闘とは言えないただの作業だった。


 本当は戦闘経験も積みたいので、この空間を走り回りながら戦いたい。

 けど、魔王が言うようにそれは今じゃない。

 『心の壁』バリアは、油断するとSPが溶けるように消費する。

 ライトセーバーは、一度光刃を出せば消すまではSPは減らない。

 まずは、この戦法で1つ目の目標であるレベル45を目指す。

 

 ミノタウロスとの戦闘後、魔王は俺の意図がわかったらしく、短距離攻撃がメインの魔物を中心に回ってくれた。

 

 ——2時間後、俺とミアはレベルが45になった。


「今までの相手は単純なパワー型の魔物だ。残念だがもう残っていない。これからは癖のある魔物になるぞ」


 脳筋相手のボーナスステージは終わりか……レベルが45まで上がったのはラッキーだったな。

 

「今のおまえ達では下手すると死ぬ。ヤツらと戦う前に少しオレが鍛えてやる。くっくくく」



――――――――――――――――

10の倍数は告知スペースということで失礼します。


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