第58話 エンツォとゴン
「ところで、どうだこの街は? ここが魔族で一番大きく栄えている街だ。タクミ達は人族、ドワーフ族、魔族の首都を見てきたんだろ」
ここは中世よりも現代に近いヨーロッパって感じがする。
スタイリッシュで統一感のある建物が並んでいるのだ。
俺達がいるこの屋敷もそうだ。
ここは魔王の別宅という訳ではなく、ここが住まいなのだ。
つまり、この街には城がない。
ゲームでお馴染み魔王城は存在しなかった。
異世界人が魔王を討伐しに乗り込んできたら、さぞ驚くだろうな。
あとは魔道具だ。
例えばこの屋敷に石壁のようなものはなく、洒落たフェンスで囲われている。
王の住まいとしてどうなのかと思ったが、フェンスは魔道具になっており常時結界が張られているそうだ。
人族の城壁などよりも耐久性も高く、魔法も跳ね返すらしい。
いろいろと見た目と性能が違いすぎて、慣れが必要だがそのギャップが面白い。
そう説明すると、魔王とカルラ、ゲイルの満面に笑顔が広がった。
「カルラ、人族と魔族の戦争の話をしないと」
ミアがカルラに小声で話す。
「そうだったわね。ミアありがとう。お父様、人族への報復は中止してもらえましたか?」
「みんなカルラのこと娘みたいに可愛がってたからな。興奮していて止められなかった」
「え? それじゃあ……」
「最後まで話を聞け。オレに隠れて報復行動されるよりは、管理下においた方が安全だ。だからアレッサンドロに指揮を任せ進軍させた。アイツは今でも時間を稼いでるはずだ。カルラは合流して、戦争をやめるようアイツらを説得しろ」
なるほど。
確かにその方がコントロールできるな。
ただの戦闘狂かと思っていたが、さすがは王様ってところか。
「まあ、不幸にも戦争が始まったら、オレが止めにいくさ」
いやいや、それはマズいだろ!
魔王が参戦したら火に油だ。
戦場に冒険者がいたら、ラスボス戦のイベントと勘違いされる。
……それもちょっと見てみたいけどな。
「そんなわけで、明日にでもアレッサンドロと合流するため出発してくれ。ゲイルも頼んだぞ」
「わかったわ」
「エンツォ様、お任せ下さい」
「俺からもドワーフ族の大使として話があります。いいですか?」
「ああ。オレにとってはドワーフ族の大使の話よりも、タクミ個人の話の方が興味あるがな」
「俺と今からドワーフ王に会ってもらえませんか?」
「……今からだと? どれだけ時間がかかると思ってるんだ。それは無理だ」
「それなら、俺に1時間ほど付き合ってもらえませんか?」
「面白い。いいだろう。特訓でもするのか?」
俺は最後の台詞は無視して、ぬいぐるみのポケットから『移動式魔法陣』を取り出し仮置きした。
俺はタタラさんとドワーフ王に念話して、話をつける。
急なお願いだったが、二人とも快く了承してくれた。
まずはミアがお手本として石版に乗り、ゴンヒルリムへと転送した。
「それでは、この石版の上に乗ってください」
魔王はカルラが頷くのを確認し、石版の上に足を踏み入れ姿が消えた。
「ゲイル、ここで石版を見張っていて。お父様だけにすると危険だから、私もついて行くわ」
そして、カルラと俺もゴンヒルリムへ向かった。
◇
——ゴンヒルリムの入出管理室。
「ここは、まさか……本当にゴンヒルリムなのか」
「そうよ。これはドワーフ族とタクミとミアが開発したものよ」
「し、信じられん。こんな技術が生まれていたとは」
驚き呆けている魔王を連れて、入出管理棟の応接室に移動する。
しばらく魔王から質問攻めにあったが、途中からは目を輝かせ移動式魔法陣の運用について案を巡らせているようだった。
そして、応接室のドアが開き、ドワーフ王が入ってくる。
「エンツォ、えらく久しぶりだ。元気にしてたか?」
「ゴン。久しぶりだな。オレが知らない間に、何が起きてるんだ? えらく楽しそうじゃないか。オレにも一枚かませろ」
「ワッハハハハ。お主もタクミとミアに感化されたか? 閉鎖的な魔族がえらい積極的ではないか」
なんだこの2人、かなり仲がいいぞ。
このやり取りを見る限り、2人の仲は上辺だけの関係ではなさそうだ。
「なんか凄く仲がいいですね。エンツォさんとゴンさんでバチバチやり合うかと思ったんですが……」
「ミアもそう思った? ドワーフと戦闘狂って合わないと思ってたんだけど意外だ」
「あの2人は、古くからの付き合いらしいわ。私も詳しくは知らないけど」
その後、俺が魔王と戦った件も話題にあがった。
俺達の素性を確認するためと説明していたが、俺が死んだらどうするつもりだったんだ?
「エンツォさん、最後の攻撃を俺が防げなかったら、どうなっていたんですか?」
「そのまま死んでたさ……っていうのは冗談だ。『
「おい、エンツォ! 『
「ああ、オレにはそれでしか確認できなかったからな。『剣聖』と同じ威力の攻撃など、我ら魔族には呪いがあるから無理だ。もし攻撃できたとしても、制御できなければ危険だからな。あと、ミノタウロスの件はカルラが万全の備えをしていたと思うので、本人に聞いてくれ」
「それは……」
「魔物との力比べは、俺からカルラにお願いしたことです。カルラは魔族が納得し、俺が怪我しない最適な魔物を選んでくれた。最後の演出がなければ、特に問題はなかったです」
「た、タクミ……」
カルラ、気にするな。
俺が魔王にハメられただけだ。
「問題はなかったみたいだな。それにしても魔族から信用を得られたのは大きいぞ! 大使に選んだワシの目に狂いはなかった。ワッハハハハ」
魔王のヤツ、俺がカルラをかばうのを確信して、安全面の責任をカルラに振ったんだ。
俺本人の口から、問題なかったと言わせるために……なかなか手強いな。
その後、ドワーフ族と魔族の間で、技術と軍事同盟が結ばれることになった。
◇
——魔王の屋敷に戻ってきた。
「それにしても、この『携帯念話機』はすごい発明だ。本当にオレが1つもらっていいのか?」
「ええ、各種族の王には俺が人となりを確認してから渡すつもりでした」
「ということは、オレはおまえのお眼鏡にかなったわけか!?」
「いえ。正直渡すつもりはありませんでした。ただ、ドワーフ王から自分が保証人になるので渡して欲しいと頼まれたので」
「……まあ、今日の今日だ。信用されないのは致し方ない」
なんだ、俺の発言に凹んだのか?
カルラは唇をぎゅっと結び笑いを堪え、ゲイルはうつむき肩を震わせていた。
ドワーフ王の反応を見る限り、悪者って感じはしないんだよな。
『移動式魔法陣』は魔王に預けた。
とりあえず仮設置用の建物を準備するそうだ。
将来的には新しい街を作り、交通と物流の拠点にするらしい。
転送魔法陣を利用するには『ゴンヒルリムの通行証』が必要なので、その運用方法もドワーフ王と詰めていくことになるだろう。
「あんなに楽しそうなお父様を見るのは久しぶりよ。魔族は他の種族と交流がないから、魔物を育てて競わせるか、力比べぐらいしか娯楽がないのよ。今度からは街を発展させたり、他種族と交流したりと楽しみが増えるわね」
「そのためにも、他の種族にバトルを挑まないルールを作らないとね!」
そうだ。ミア。もっと言ってやれ。
カルラが「そうよね。みんな脳筋だから困るわ」みたいなことを言っているが、カルラもそこに含まれているからな。
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