第4話
天気予報はちゃんと当たった。
まあおふくろに言わせると「最近の天気予報はほぼ当たるわよ」ってことらしいから信用してたけどさ。
でも、だ。
気温はちょっとバカになんないぐらい低かった。
数日前からちょっと例年にないほどの寒波が日本列島を覆って、ふだんは雪なんて降らない地方でもけっこうな量で積もったらしい。前日は終業式だったけど、テレビの向こうで南国と言われてるような地方の街が雪景色になってるのを、俺は朝メシを食いながら呆然と眺めてた。
これ、大丈夫なんだろうか。
「……なあなあ、ドット。こんな天気でもいけるの? 大丈夫?」
つい心配になってこそっと訊いちまう。うちの人間で、こいつがもとドラゴンだって知っているのは姉貴だけだからだ。幸い、おふくろはキッチンにいて何も聞こえてなかったらしい。
当のドットはちらりとこっちを見上げただけで、ぱたんと一回、長いしっぽを振ってみせただけだった。
そして、当日。つまり今日、二十四日。
今朝もかなりの冷え込みだったけど、俺と皇子はまず勉強のために町の図書館に集まった。図書館の自習室は予約制だけど、もちろんちゃんと事前に予約もとってある。俺は夜だけのつもりだったけど、皇子が「それではつまらないだろう。どうせなら一日いっしょにいよう」ってこういう予定に組み直したんだ。
世の中がどんなに「メリクリ」って浮かれさわいでいても、受験生の冬はやっぱり受験生の冬。自習室には俺たちと同年代らしい子たちがすでに席について、黙々と机に向かっていた。俺たちもほとんど私語もせず、午前中いっぱいは同じように頑張った。
お昼になって一旦皇子の自宅に戻り、そこでお昼を頂いた。これもまた「受験生だし、あまり不用意に人混みにでていって余計な感染症をもらってくるのもまずいだろう」という皇子の鶴の一声による。俺は一も二もなく同意した。確かにそれは怖いもんな。
少し食後の休憩をとったあとは、皇子の部屋でまた勉強。
……意外と、俺ってまじめだろ?
いやまあ俺の成績で、ここで浮かれて遊んでるような余裕はねえんだけどさ。ああもう、涙がでてくらあ。
五時ごろになってふたたび出かける準備をし、そこからふたりで、今度は俺んちへ戻った。いただいてばっかじゃなんだしってんで、夕食とケーキはここで食べることにしたんだよな。
玄関に入ると、すでに出かける用意をしたおふくろと姉貴が待ち構えていた。ふたりとも普段よりかなりお召かししている。もちろん姉貴はしっかりバッチリ化粧して、完全に「化けた」状態だ。
「栗栖くん、メリークリスマス!」
「こんばんは、お母さま。メリークリスマス。本日は大変お世話になります」
皇子がきりりと腰を折る。さすがは皇子、めっちゃそういうのがサマになる。
が、姉貴は速攻で爆笑した。
「皇子、固いかた~い! もっとリラックスしてちょうだいよ~」
ばっしばし皇子の背中を叩く。痛そう。ちったあ遠慮しろやバカ姉貴。
「あ、そうそう。これ栗栖くんへ。あたしたちからのプレゼントねっ」
言っておふくろが小さな箱を皇子に手渡す。
「あっ。ありがとうございます……!」
皇子は驚いたようだったけど、自分もコートのポケットからするっと自然にプレゼントを取り出した。薄手の箱が三つ。
「お二人にはこちらを。紺色のリボンのものは、よろしかったらお父様に」
「あらあ! ありがとう栗栖くん」
「こんな気を遣わせちゃって悪いわね~皇子!」
実はこれ、俺は事前に皇子から相談されてた。だいぶ悩んだ結果、無難にハンカチとかにしといたけどさ。三人、色違いのやつだ。俺はよく知らねえけど、そこらへんの店で買うのとはまったく違う、たぶんブランドものだ。
「さてと。そんじゃ健人、あとはよろしくね~」
「うーす」
「はよ行け」と声は出さずに口の形だけで言ったのに、案の定というか姉貴に後頭部へ強めの手刀を食らわされた。
「あいっって! あにすんだこの腐れ女子ぃ!」
「やかましい。あんたはいつもひと言多いのよっ」
「さあさあ、行くわよ
「はあ~い」
「健人、戸締まりはお願いね」
「了解~」
てなわけで、女二人は楽しそうに出かけて行った。これから、ずっと前から予約していた人気のホテルディナーらしいんだ。もちろん、親父もあとで合流するらしい。三人はそっちでケーキを食って酒盛りになだれ込む予定だろう。
俺たちは、おふくろが準備しといてくれたチキンやなんかで夕食をとり、今日のために準備してあった小さめのケーキにろうそくを立ててスマホで写真を撮った。もちろんドットも一緒に。
「はい皇子、笑って笑って~」
ケーキを真ん中に、手前にアホ面でピースした俺、奥にイケメン皇子の笑顔、そしてその隣にドット。
気のせいかもしんないけど、きれいに微笑む皇子と、なんとなくムスッとしたドットの顔との対比がすげえ。
ドットは相変わらず、皇子のことはあんまり気にいってないようだ。懐いているとはとても言えねえ。まあ理由はわかってる。俺を真ん中にして、お互い嫉妬してることが多いからな、こいつら。ドットもよく今夜のことオーケーしてくれたもんだと思うよ。
食事が終わって、俺たちはあらためてコートを着こみ、マフラーをぐるぐる巻きにして外へ出た。俺は大きめのトートバッグを肩に掛けている。中には温かいひざ掛けにくるまったドットが入って、顔だけちょこんと出している。
そこから俺たちはにぎやかな街の中心部とは反対の方向、普段からあまり
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