第7話 “公爵”って、なんじゃい
そうなるか。なるじゃろうな。アリウスを害そうとしたのは、どう考えても公爵家内の権力争いじゃ。おおかた
小人のなすことは、どこも似たようなものじゃ。
“へーか、公爵、たすける?”
う〜む、それはいささか悩むところじゃな。
そもそも父親というたところで、公爵とは面識もなければ
このままアリウスとして暮らすとすれば、ゴタゴタが続くのも面倒なだけじゃ。
「エテルナ。いまミセリアたちがどうなっとるか、わかるかの?」
“わかる〜♪”
どうやら意識と能力を平行化した
わしの頭に王国の地図情報が映し出され、王都の北に光点が現れる。
“光ってる赤いのが、ミセリアたち〜”
もうひとつ、別の光景が映し出されとるな。なんじゃこれは……と思うたが、平行化したエテルナの見ておる景色じゃな。扉の隙間からするりと部屋に潜入。なかにいる連中に気づかれもせんとは大したもんじゃ。
「この怪しげな男どもは、廊下で倒した
“そー、アヴァリシア、公爵の宿、襲えっていってる〜”
命ぜられた者どもが、部屋を出て外へと駆け出してゆく。あやつら、下衆だけに己が利の絡む判断は早いのう。
「公爵の位置は」
“光ってる緑のとこ〜”
ふむ。王都の北西……
「騎馬で飛ばせば、着くのは夜中か。寝込みを襲うには、お誂え向きじゃな」
“へーか、どうする〜?”
エテルナは半分心配そうに、半分面白そうに尋ねてきよる。
こやつは賢く勤勉で強く、根が善良で優しい。魔界でそれは、必ずしも美徳ではないがの。わしも、こやつの同類じゃ。
「……せっかく手に入れた休暇じゃ。
“ふふっ♪”
公爵とやらがさほどの人物でなければ、そのときはそのときじゃ。
◇ ◇
王国中北部の宿場町、フェリキタス。かつては美しい森と湖を誇る景勝地だったが、水源が枯れてからは寂れて見る影もない。
公爵領と
「となれば狙うのは容易い、か」
公爵ともなれば王族の
いうても見守っとるのは、王都の公爵邸からじゃがの。
「ええぞエテルナ」
“はいなー♪”
分裂・平行化したエテルナは宿の周囲と屋根とに散らばり、公爵一行の動きを監視しながら敵の刺客を待ち受けておるわけじゃ。
「チラチラ人影が見え隠れしとるのう」
“きたみたい〜”
近くの物陰から黒づくめの男たちが現れ、宿の様子を伺うと静かに近づき始める。その数、十二。今度は魔導師抜きの暗殺者のみじゃ。
「宿のなかは、無事なんじゃな?」
“みんな、寝てる……あ”
「どうした?」
“ひとり、起きてきた〜”
部屋の窓が静かに開いたかと思えば、何者かがひょいと屋根によじ登ってきよった。屋根の上でエテルナの横に立ったのは、下履きひとつに
「なんじゃ、こいつは」
“えーと……”
信じられんことに、男は不可視の隠蔽魔法で姿を隠したエテルナに気づきよった。しかも首を傾げただけで警戒もせず、ぷにぷにと撫で回して笑いよる。
これは肝が据わっとるのか気が触れとるのか、どうにも判断に迷うのう。
静かにしとけとばかりにポンポンと手で押さえると、男は階下の連中に目を移す。面白がるような表情で、唇に歪んだ笑みを浮かべて。
「なッ⁉︎」
わしが驚いておる間に、宿の入り口に忍び寄ろうとした暗殺者たちを、男は踏み殺し、捻り殺し、叩き殺す。
音もなく殺し回る様は、まるで魔物じゃ。
裏口に回った連中が仲間の異変に気づいた頃には、男に背後から首をへし折られておった。
「……おい待てエテルナ、あれは公爵の敵か? 味方か?」
“どっちでもなくて……あれが、公爵”
「は?」
わしは手元のエテルナを見て、遠隔地からの光景で勝ち誇る野人のような男を見て、またエテルナを見る。
「嘘じゃろ」
“ほんと”
公爵は屋根の上に
「なんじゃそりゃあ⁉︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます