後ろにとビス去った

 ただしくは……いや、今回は正解がわからないのです。一応、原稿では「後ろに飛んだ」と直してあります。


 小さなネジが「じゃまた今度、お元気で」と帰っていったわけではないので、まず「ビス」がおかしい。

 後方にジャンプして相手と距離をとった、跳んで後ずさったという意味合いで書いたのですが、「そんな日本語あるもんかね」と打ち込んだ時点で違和感をおぼえたのでしょう。本物の原稿では万が一にも修正漏れのないようにと行あけをして、あからさまに目立つような工夫をしています。こんな感じ。



 腕を振り払い、後ろに


とビス去った


後ろに飛んだ。両手を(以下略)



 辞書をひいたところ、そもそも「飛び退る」という動詞がないようです。少なくとも手元の辞書にはありませんでした。今、〔とびすさる〕と打ったらスムーズに「飛び退る」となったのですが、これはおそらく「飛び」と「退る」であって、「飛び退る」ではないのでしょう。

 妙な変換が出てきた場合、そもそもそんな言葉がない、というケースを想定して、きちんと辞書にあたることは重要でしょう。


 ちなみに手元の辞書で「すさる」をひくと「後ろへ下がる」とありました。「すさる」自体に「後ろへ」という方向が含まれているのですね。

「待てよ、じゃあ〔後ずさる〕ってなんだ。“頭痛が痛い”的な言葉の重なりか」と「あとずさる」をひくと、項目がない。「あとずさり」はありました。意味は「あとじさり」。

「おーい、説明になってないやんけ」と「あとじさり」をひくと「前を向いたまま後ろへ下がること」とあります。

 これはあくまで私のイメージなのですが「あとずさりした」には「気圧されて顔と体の向きを変えないまま、じりじりと下がる」ニュアンスがあるように思っております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る