僕と乙女の家族構成

幼馴染

 僕の名前は雑賀さいがまもる。今は公務員をやっている。小さい頃から内気な性格で、いじめられてしょっちゅう泣いているような、そんな子だった。それを気にした両親が、少しでも強くなって、活発な子になればと、僕を隣の家の道場へ通わせるようになったのは、小二の頃だったろうか。

 隣の家は『朱鷺とき流武術』という、古武術の道場で、道場主の祖父と、小さい時に両親を亡くしたという孫娘が、二人で暮らしていた。孫娘は名を朱鷺乙女おとめと言い、僕と同い年だった。

 僕は道場に通うようになっても、性格はやっぱり相変わらずで、結局いじめられてよく泣いていた。そんな時に、乙女はよく助けてくれたものだ。

 助けてくれるといっても、乙女は道場の娘だから喧嘩に強いとかいうワケではなくて、単に勝気な性格なだけだった。そんな性格で、家が道場なんてやっていたら、やっぱり喧嘩も強いんじゃないかと思うかもしれないけど、全然そんな事はなかった。

 と言うのも、道場主で祖父でもある、朱鷺光吾郎みつごろうの口癖は、「強い婿を取れ!」と、「たくさん子供を産んで、朱鷺家を繫栄させるのじゃ!」で、乙女に道場を継がせる気はさらさらなかったからだ。朱鷺流武術の道場自体も、護身術程度の事を教えるのみで、級や段といったような階級すらなかった。

 乙女自身も、勝気ではあったけど、アウトドア派ではなく、インドア派で、道場を継ぐ事など、全く考えていなかった。

 そんな乙女は小さい頃に初めてパソコンを触って以来、パソコンにすっかりはまってしまい、かなりのPCオタクに育った。小さい頃は先刻さっき言った通り、いじめっ子にも立ち向かっていくような子だったため、周りから頼られたりもしたけど、人付き合いが下手で、僕もいじめられない程度には強くなった事もあり、僕をいじめっ子から守るというような、勝気な性格を外で見せる事も少なくなっていき、結果、目立たず、友達も減り、インドアな部分が加速し、乙女は益々パソコンにのめり込んでいく事になった。

 そんな僕と乙女は、幼馴染として育ち、小さい頃守られていた僕はもちろん、乙女も、数少ない親しい人間として、お互いにお互いを意識してはいたものの、特に関係が進展する事もなく、高三となっていた。


「守、今日誕生日だろ?」

 そう。その日は僕の十八才の誕生日だった。普段は幼馴染の僕にすら、学校で話しかけてくる事など皆無だったのに、その日は何故か僕に話しかけてきた。それまで誕生日を祝ってもらった事などもなく、僕は怪訝な顔で答えた。

「そ、そうだけど。何、乙女ちゃん?」

 僕はその頃、乙女ちゃんの事をちゃん付けで呼んでいた。

 すると乙女ちゃんは、無い胸を張り、ニンマリと笑みを浮かべて、フンと鼻から勢い良く息を吐いた。メガネがキラーンと光ったような気がした。

「どうせ祝ってくれる者もいないであろう守に、プレゼントをあげよう。」

「……」

 正直、嫌な予感しかしなかった。まあ、祝ってくれる者がいないというのは当たってた。断る理由も見つからず、と言うか、内心好きな子からプレゼントを貰えるというのは、それはやっぱり嬉しいワケで……

 学校が終わると、僕は乙女ちゃんの部屋へやって来ていた。しばらくぶりだけど、変わっていなかった。部屋中がパソコンの機材でごった返していた。とても女の子の部屋には見えない。

 そのごった返している中に、ゴーグルが二つあった。最近流行り出して、僕も似たような物を見た事があった。メタバースと言われる、仮想空間に入るのに使用する物だ。乙女ちゃんはそのゴーグルを手に取って、一つを僕に渡した。そして乙女ちゃんに言われるままに、メタバースの世界へと僕はログインした。

 そこには、浴衣を着て、狐のお面を頭に斜めに付けた、小さい女の子がいた。その女の子が、こっちを見てニッコリと笑った。

「乙女、ちゃん?」

 そう。アバターと言うやつだ。

「見た目は気にするな。これは自分のメタバースを創れるソフトの、既存のアバターの一つだ。」

「…って事は、この世界は、そのソフトで乙女ちゃんが創った、メタバースって事?」

「そうだ。」

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