第55話 兎vs鷹
「はぁ……! はぁ……!」
冷房の効いた廊下、黒服たちが俺たちの戦いぶりに引いていた。
俺は喧嘩殺法、鷹峰は洗練された武術で対抗する。
互いに拳や蹴りを浴びせ合い、体中に痣を作っている。
拳の皮が剥けてきやがった……こんだけやって倒れなかったやつは初めてだ。
「肩で息をしているな。スタミナ配分を考えずに動くからだ」
鷹峰と俺のダメージは五分。だが鷹峰の息は上がっていない。
武術……特にボクシングで培ったスタミナ管理のスキルか。ボクサーってのは全ラウンド戦えるよう、スタミナにはかなり気を配るって言うからな。
「褒めてやる。同世代でここまで僕と競った男はいない」
鷹峰が拳による連打を繰り出してくる。
ガードを上げるも次第に剥がされ、空いたボディに拳を貰った。
「かはっ!」
怯んだ俺の顔面に回し蹴りが当たる。
俺は吹っ飛び、倒れ込む。
「……とても、
「……! お前、俺のこと」
「2021年4月10日、とある配信者グループにお前は暴力を振るった。これにより一週間の自宅謹慎。以来、6月のはじめまでお前は登校してこなかった」
「よく調べてやがんな……」
「生徒会の一員なのでな、問題児の情報は頭に入れている。――当時、お前はずっとこう主張していたらしいな。『女子が襲われていたから助けた。悪いのは自分ではない』と」
その日のことはよく覚えている。
コンビニの帰り。薄暗い路地で、フードを深く被った少女が5人組の動画配信者に絡まれていた。
その内の1人が持っていた看板には“美少女ナンパ! 100人するまで帰れません!”と書かれていた。明らかに少女は困っていたし、体を震わせていた。でも男5人に囲まれ、抜け出せない様子だった。
だから俺は少女を助けるため、少女と配信者の間に割って入った。特に相手を殴ったわけではない。軽く押しのけただけ……なのにその配信者は大げさに倒れ、『いってぇ! 骨折した! 暴力だ暴力!』と喚き出した。
俺は目線だけ隠されて全国に動画をバラまかれた。そして学校にもその動画が見つかり、髪型と髪色からすぐに俺だと特定され、謹慎処分になった。
「結局お前が助けた女子は名乗り出ず、お前は学校から信用を得られず処罰された。その時、お前はわかったはずじゃないのか? 人助けなど糞にもならんと」
「その言い方だと、お前は俺の言葉を信じてくれているみたいだな」
「その配信者は悪評が多いからな。だが――現実を見てみろ。いま、お前を貶めた配信者グループは人気を博し、テレビにも呼ばれる始末だ。良いことをしても報われるとは限らず、悪いことをしたからと言って罰せられるわけじゃない。この不条理こそこの世の条理だ。お前が如何に正しくとも、社長が如何に間違っていも、結局正義の天秤は権力のある方に傾く。お前がどれだけ足掻いても、六道晴楽はこの会社から逃れられ――」
「あー! 難しい難しい!! お前さぁ、成績いい癖に日本語下手なのな!」
「……なんだと」
「つまりこうだろ。これ以上傷つく前に諦めて逃げろって言いてぇんだろ? 優しいな。でもな! 傷だらけになっても俺たちには守らなきゃならねぇモンがあんだよ!」
俺は立ち上がり、拳を握る。
「……それはなんだ?」
「200万のバイト君の期待だ!!」
「??? バイト? 何の話を――」
俺は一息で鷹峰との距離を詰め、腹を殴る。
「がはっ!!」
「言っとくが俺は! あの時の行動に後悔なんてねぇ!!」
鷹峰の顎を殴り上げる。
「……後悔してんのは、教師や世間に信用されず、腐ったことだ!!」
俺は鷹峰の顔面を殴り飛ばそうとするが、右拳は鷹峰の右手に掴み止められた。
「……理解できんな! お前も、晴楽先輩も!!」
「がっ!?」
鷹峰の頭突きを頭に受け、額が割れて血が滴る。
鷹峰らしくない、合理的でない一撃だった。
「お前らには親に敷いてもらったレールがある。そのレールを、一時の気の迷いでなぜ外れようとできる!? ――誰のレールもない荒野を歩く恐ろしさを、お前らはわかってない!!」
鷹峰の腹を蹴り飛ばす。
「ははっ! 仕方ねぇだろ! 終着駅が望む場所じゃなかったんだからな!! どんだけ乗り換えても自分の望む場所に着かないなら荒野を歩いた方がマシってことだ!! 俺はともかく、六道先輩はそんな感じだろ!!」
「本当に理解できん……!」
「だから殴り合ってんだろ……!」
鷹峰は回し蹴りを繰り出す。俺は屈んでこれを躱す。
これだ。これがまずい。鷹峰の回し蹴りは威力が段違いだ。喰らうと一気に意識が遠のく。
――その時、
鷹峰は上着を脱ぎ、俺の顔を覆うように投げてきた。
視界が埋まる。
「やべっ――」
咄嗟に顔面をガードする。だが、それを読んでいたかのように、鷹峰の回し蹴りが脇腹に炸裂した。
「ぐ――!?」
俺は堪らず、膝から崩れ落ちる。
「クリーンヒットしたな。今度こそ正真正銘、終わり――」
鷹峰は目を見開く。
俺は膝を笑わせながらも、立ち上がる。
「なぜだ……」
鷹峰は心底信じられないという顔で、
「なぜ……! なぜ立てる!?」
「見えないか? お前には、俺の背後にあるモノが……!」
俺には見える。俺の背中を支える、無数の手が。
「200万のバイト君の魂が、俺の背中を押している! だから俺は――負けないっ!!」
俺は渾身の力を右拳に込める。
「うおおおおおおおおおっっ!!」
「ぐっ!」
鷹峰はガードを上げるが、俺は構わず拳を振り抜く。
鷹峰のガードごと、鷹峰の顔面を殴り飛ばす。
鷹峰は転がり、そして、立ち上がることはなかった。
「へへへっ……やっぱ最後に勝つのは愛ってことだ。よく覚えとけ。優等生」
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!
皆様からの応援がモチベーションになります。
何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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