第49話 最高の権利
登校時間になり、俺と六道先輩はミルキーさんの運転で学校近くの人気のない道で降りた。
「送ってくれてありがとうございます」
「帰りはまた連絡するね~」
「はいは~い」
ミルキーさんを見送り、俺と六道先輩は別の道を行く。
「ホントにそんな遠回りするの?」
「一緒に登校して変な噂たっても困るでしょう」
「ボクは別にいいけどね~」
「俺が困るんです」
「でもさ! 登校中に襲われたらどうするの?」
「さすがに登校中攫って学業に支障が出るようなことはしないでしょ」
「う~……それは確かに」
「そんじゃ、また帰りに」
「ほいほーい」
登校時間と学校に居る時、マンションに居る時はひとまず俺が離れても大丈夫だな。
一番危ないのは帰宅の時だ。そこさえ何とかできればいい。
---
教室に入るとすでに綺鳴が居た。
見るからにご機嫌だ。鼻歌交じりにお菓子を食べている。
「元気だな。なにか良いことでもあったか?」
「いやぁ、瑞穂ちゃんとの共同生活が楽しくて楽しくて♪」
「アイツ、迷惑かけてないか?」
「滅相もない! 料理もしてくれるし、掃除もしてくれるし、洗濯もしてくれるし」
それはこき使い過ぎだろ……。
「なんだか新しい妹ができたみたいで嬉しいですよ。あと麗歌ちゃんも可愛いんですよ。麗歌ちゃん、妹が欲しかったのか瑞穂ちゃんにすごく構ってて。あの2人毎日一緒にお風呂入ってるんですよ。麗歌ちゃんってば自分のお古とか瑞穂ちゃんに着させて写真撮ったり、ペアルックしたりして……」
「……麗歌はそんなタイプには見えないけどな」
「意外におこちゃまな部分あるんですよ、麗歌ちゃんって」
とにかく上手くやれてるようでよかった。
……そうだ、綺鳴にあの質問をぶつけてみるか。
「……なぁ綺鳴。お前はさ、Vチューバーやる上での目標とか、夢とかあるか?」
小声で俺は聞く。
綺鳴は特に考える素振りを見せず答える。
「1人でも多くの人が、私の配信を見て笑ってくれたらいいなぁって思いますよ。楽しい私を見て楽しくなってくれる人がいる、それってとっても素敵なことだと思いませんか」
カッコつけているわけじゃない。
純粋な笑顔で、綺鳴はそう言った。
その笑顔に対し可愛い、美しいと感じる前に、尊い、神々しいと感じてしまうのは俺が月鐘かるなのファンだからだろうか。
「……そうだな」
呆れたように俺は同意してしまった。
そうそう、そうだった。月鐘かるなはそういうVチューバーだった。俺が惚れたVチューバーはそういう女の子だった。改めて聞くまでもなかったな。
---
悪魔は昼休みに現れた。
「たのもーっ!!」
意気揚々と弁当かっくらう2年3組に現れたのはツインテの美少女だった。
「……あれ、生徒会長」
「……近くで見るとさらに美人だな」
「……かっわいい。あれスッピンじゃないよね? 化粧してるよね?」
いいえ、アレがスッピンです。
男子たちが“俺に会いに来たんじゃ?”と期待を膨らませる中、六道先輩は俺の方へとまっすぐ歩いてきた。
「す~ばるん。ちょっと来て」
「え? あっ、ちょ! 俺のコロッケ弁当~!!!」
首根っこ掴まれて俺は引きずられる。
なんか昔見たアニメでこういうシーンあったなぁ……と思いながら教室を出る。最後に見えた綺鳴はパンを咥えたまま固まっていた。なにが起きているのかわからない感じだった。
「さて」
「……なんすか。俺からコロッケ弁当取り上げてまでの用ってなんすか」
連れてこられたのはもう見慣れた屋上。今更ながら生徒会長が校則違反していいのかよ。
「……決戦の日は決まった」
「決戦?」
「次の日曜日、朝10時からエグゼドライブの事務所でライブのリハーサルをするの。これさえ終われば後はライブの日まで隠居してればいい」
ライブをするにあたってリハーサルは絶対に欠かせない。
ライブには当然他のエグゼドライブメンバーとのコラボもある。コラボの練習はリハーサルの時しかできないそうだ。
逆に言えばリハーサル以外は1人でできる。極端な話、どこかの山奥でもできるわけだ。
リハーサルさえ乗り切れば後は楽だ。
「……でもきっと、リハーサルの日はパパにバレてると思う。あの人の情報集能力なら間違いなく、ね」
「それじゃ、日曜に向けてあっちも本腰入れてくるってわけですね」
「そゆこと! ねぇ、すばるん。今更で悪いんだけどさ」
六道先輩はバツの悪そうな顔で、
「やっぱり今回の件、危険そうだし。キミはここで――」
「続けますよ」
俺は六道先輩の言葉を叩き切る。
「任せてください。ライブの日まで、俺が絶対に六道先輩を守りますよ。約束です」
「すばるん……でもミルキーちゃんからの連絡によると、今までとは別格に強い人を投入するとか……」
「今までの相手なんて別にそこまで脅威じゃなかった。アイツらより別格に強いって言ったってたかが知れてますよ」
六道先輩はしゅんとした表情をする。
「なに殊勝な顔してるんすか? 似合わないっすよ」
「……言うじゃないのさ」
六道先輩は「よし、決めた!」とガッツポーズをとる。
「そこまで言われちゃ、ボクも一肌脱がないとね! もしもすばるんがボクを守り切れたら、とっておきのご褒美をあげようじゃないか!」
「へぇ、ご褒美ってなんですか?」
「ボクの体の好きなところに触れる権利」
「――――へ?」
六道先輩は自分の胸に指を押し当て、
「だ~か~ら、ボクの体の好きなところ、どこか一か所だけ触らせてあげる。好きなだけね」
六道先輩は俺の胸倉を掴み、背を低くさせ、耳元で呟く。
「どこでも、だよ?」
「どこでも……ってことは、どこでもってことは! えっと、その……どこでもってことですかぁ!?」
「そう。どこでもってこと」
頭の悪い会話を終えると六道先輩は屋内へ入っていった。
「頑張ってね。すばるん♪」
絶対に負けられない戦いがここにある。
――――――――――
【あとがき】
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『続きが気になる!』
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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