第5話 マネージャー

 麗歌の発言を受けて、表情筋がキュッと引き締まる。


「どうしました? 険しい顔をして」


「先に驚きますって宣言されると、自然とリアクションを抑えようとしちまうだろうが。悪いが、もうお前の予言通りにならないと思うぞ」


「どうですかね。試してみますか?」


「おう。なんでも言ってみやがれ」


「では」


 麗歌は小悪魔な微笑を挟み、


「実は私はエグゼドライブ6期生を担当するチーフマネージャーなのです」

「なにぃ!?(一回目)」


「それと、私の父はエグゼドライブの代表取締役、つまり社長です」

「はぁ!!?(二回目)」


「……これは本当に一部の人しか知りませんが、最初はお姉ちゃんじゃなくて、私が月鐘かるなをる予定でした」

「なっ!? ななななっ!!!?(三回目)」


 ヘビー級のストレートを三発貰った気分だ。完全にノックアウト。KO負けだ。

 膝から力が抜け、砂埃蔓延する床に背中から倒れ込む。


「せんぱーい、生きてますか?」


 なぜコイツがわざわざ俺が驚くと予告したかわかった。

 予告なしで言われてたら……ビックリし過ぎて心臓が止まっていた。


 俺はなんとか体に力を込め直し、立ち上がる。


「……えーっと、1つずつ処理していこう。まずお前がチーフマネージャーってことはあれか? よく6期生の話に出てくる鬼チーフマネージャーってのが」


「私です。6期生はお姉ちゃん以外の4人それぞれにマネージャーがついていて、私の役目はメインでお姉ちゃんのマネージャーをしつつ、6期生のマネージャーたちを束ねることです」


「よく学校に通いながらできるな……」


「スペック高いので」


「少しは謙遜しやがれ」


 コイツがマネージャーだって話は嘘じゃ……なさそうだな。


「2つ目、お前の父親がエグゼドライブの社長ってのは本当か?」


「本当です。通常、ライバーは面接や経歴などで決めるわけですけど……お姉ちゃんが面接なんて受けられると思いますか?」


「無理だな」


「でも父親が社長なら?」


「……悪く言えばコネで面接なしでいけるわけか。あいつがライバーになれていること自体が、お前らの父親が社長だっていう証拠か」


「そういうことです。あと私のような高校生がマネージャーをやれていることも、父が社長だって証拠になるでしょう」


「なるほどなぁ。そんで、お前が月鐘かるなだったっていうのはどういうことだ?」


「……父は6期生を立ち上げる時、私をライバーにして、お姉ちゃんにサポートをさせようとしていたのです。お姉ちゃん、ネット環境とかデジタルには強かったので、Vのサポートとしては優秀だったんですよね」


「そういやかるなちゃまは自作PCを持ってるとか言ってたな」


「でもデビュー当日になって私が風邪になって、声の似ているお姉ちゃんが月鐘かるなをったのです。最初だけお姉ちゃんに演ってもらって、風邪が治ったら私が入れ替わる……つもりでした」


 でも。と麗歌は寂しそうに笑う。


「これ以上は言わなくても、わかりますよね?」


 綺鳴の配信を見て、自分より綺鳴の方が月鐘かるなに相応しいと思ったのだろう。

 納得はしているが、名残惜しそうな……そんな表情だった。


「……まぁな」


 かるなちゃまの初配信は決して上手くはなかった。

 緊張しまくりで、嚙みまくり……拙い配信だったが、一生懸命配信に取り組むその姿は多くの視聴者の心を打った。


 俺もその1人だ。


 もしも麗歌なら、きっと器用にこなしていたと思う。でもきっと、そんなかるなちゃまはここまでの人気にはなっていない。

 かるなちゃまが大好きだからこそ、麗歌じゃなくて綺鳴がかるなちゃまを演じてくれて良かったと思っている自分が居る。俺のそんな自分勝手な思いを見透かしたように、麗歌はビジネススマイルを浮かべた。『気を遣わなくて大丈夫ですよ』とでも言いたげな笑顔だ。


「話は戻りますが、私は6期生を取りまとめるチーフマネージャーです。ゆえに、6期生が抱えるトラブルを積極的に解決していかなければなりません」


「あんな個性的なメンバーだ、手を焼いてることだろう。同情するぜ」


 同時に感謝する。

 おそらく麗歌のおかげで6期生は大きな問題には直面していない。6期生の面々が炎上した話はあまり聞か……いや、ヒセキ店長は結構やらかしてたか。主に下ネタとか型破りな企画で。


「これまでは何とかなっていたものの、最近6期生の抱えるトラブルが私だけでは処理できなくなってきました」


「他のマネージャーと連携しても無理なのか?」


「他のマネージャーさんはスケジュール管理や環境整備が主な仕事で、他のことには積極的に関与はしないのです。正直、手が足りてません。事務的な部分ではなく、プライぺート的なトラブルを処理しきれずにいる。そこで私は思いました、『ああ、1人でいいから私に忠実な部下が居ればいいな』……と」


 麗歌は俺に視線を合わせてくる。


「……まさか」


「トラブルの1つであるお姉ちゃんの不登校を、あなたはあっさり解決してくれました。兎神昴先輩、お願いです。6期生の――トラブルシューターになっていただけませんか?」


 俺が、6期生の!?

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