第204話 偽りの大義
「やれやれ。せっかくの休みに父上の顔を見ねばならんとは」
公国の首都で
トバイアスは
公国軍の総大将であるビンガム将軍の屋敷は広く、使用人も多い。
いつもは
耳の負傷のため、トバイアスの頭には痛々しい包帯が巻かれていたのだ。
下女たちは
トバイアスは怒りに震えそうになりながら、拳を握り締めてこれに耐えた。
(このような
彼の耳を
元来、女性の顔を覚えるのが得意なトバイアスは、
「父上。トバイアス参りました」
「入れ」
無機質な声が中から響く。
老いてなお頑強な
「お呼びでしょうか。父上」
「おお。トバイアス。そのケガはどうしたのだ?」
息子の頭に巻かれた包帯を見てビンガムは
トバイアスは内心で舌打ちをしつつ、笑みを浮かべた。
「大したことはありません。
「そうか……大したことがないのなら良い。今日呼び立てたのは、そろそろまた、おまえの力を借りたいと思ったからだ」
トバイアスはここ最近の活躍により特別
アメーリアと共に死兵を
トバイアスはビンガムの
以前よりも明らかに老いて、その顔は
多くの
ビンガム将軍は妻と四男のディックを殺されて以降、憎しみに
だが、妻と息子を殺した犯人を捕らえて突き出したトバイアスは、将軍から一転して高評価を得るようになっていた。
トバイアスはビンガムが街の娼婦に生ませた落とし
しかしトバイアスが目覚ましい戦果を上げるようになったこともあり、将軍は彼を
だがビンガム将軍は知らない。
トバイアスが将軍の妻子殺しの犯人として突き出したのは、彼の従者であり愛人でもあるアメーリアが薬で廃人同然にしたまったく無関係の人物であり、トバイアスが仕立て上げた
そしてトバイアスこそが真犯人であることを。
トバイアスの実の母親は殺された。
愛人を憎むビンガム夫人が裏で手を回して殺させたのだ。
その
そして夫人の前で息子のディックをむごたらしく殺し、その後に夫人もさんざん痛めつけてから殺して、トバイアスは
ビンガムはそうとも知らずにトバイアスを
「コンラッド王子の殺害は見事だった。トバイアス。これで王国も重い腰を上げざるを得ないだろう。我が国と王国との長年に渡る
元々、ビンガム将軍は王国との戦には慎重派だったという。
しかし公国内で戦の機運が高まり、同時に妻子を殺した犯人が王国側の人間であることを知って、一気に王国への憎悪が彼の中に
ビンガムは先頭に立って王国と開戦することを押し進めるようになった。
これが将軍は人が変わってしまったと言われる
もちろん王国側は将軍の妻子殺しの犯人が王国の人間であることを否定している。
実際にはトバイアスがでっち上げたことだ。
だが、そんなことでは一度高まった緊張状態は
しかし王国に対する一方的な宣戦布告は、大陸の他の諸国に対して公国の印象を悪くする。
できれば王国側から攻め込まれる図を描きたいというのが、公国の
だが王国は意外にも腰が重く、戦を寸前で踏みとどまっている。
ビンガム将軍はそのことに
「あと一押しだ。あと一押しでこちらから宣戦布告をする大義が生まれるはずだ。そう思っていたところに、神の采配があった」
「神の采配? それは?」
トバイアスは本当は知っているにも関わらず、
なぜなら今から父が話す出来事は、あらかじめトバイアスがアメーリアに指示して演出させたことなのだから。
憎しみに
そんな息子の内心など
「我が公国領の南岸にダニアの大群が上陸した。そして漁村を
それは質問ではなく確認だった。
犯人はもう決まっているのだ。
真実などどうでもいい。
なぜなら真実とは人の手で作り出せるものだからだ。
「王国軍に
優秀な息子が学力試験で満点を取った時の父親の顔で、ビンガムは満足げに
そして彼はトバイアスに命じる。
「トバイアス。王国軍との戦の先陣を務めよ。おまえを前線部隊の大将に任ずる」
「
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