100m走

徒競走は、ほぼ実力がものを言う競技だ。負けるわけにはいかない。


ピストルの音が鳴り、一斉にスタートする。生徒全員が、歓声を上げ私たちを応援する。けど、応援なんて要らない。私は彼の声援だけが欲しい。彼が今どこにいるのか探す余裕は一つもない。先頭には、雫が走っていて私は3番手だった。


「まだいける...」


余力はまだあった。少しずつ走るスピードを加速させ2番手へと順位を上げる。雫との距離はまだ全然あった。けど、絶対に追いつけないわけではない。少しずつペースを上げ限界が近づいてきたときに、私は痛恨のミスをしてしまった。


「あっ!」


力みすぎたせいで、土で足を滑らせてしまった。受け身を取れるような余裕はなく、一瞬で地面に体が叩きつけられた。顔面から行かなかったのは不幸中の幸いだけど、膝に痛みが集中していた。グランド全体にざわめきが走り全生徒から注目を浴びていた。保健係の人たちが近づいてくる。


「このままリタイア...そんなのやだ.......」


折角、雅くんが私をここまで連れてきてくれた。その思いに答えたいがために、走ってるのに諦めたら雅くんに合わせる顔がない。だから、負けたくないし諦めたくもない。


「私は大丈夫だから....」


「でもそのケガだと........」


保健係の人たちが私の膝を見ながら、心配そうに声をかける。私も膝のほうへ目をやると左膝の皮膚は剥がれ真っ赤に染まり血が足先へと垂れていた。見るのも嫌になるくらいの見た目であり、相当な激痛が立ち上がるだけでもあった。

ゆっくり一歩一歩前へ足を進めゴールテープがある方へ走る。もう私以外はゴールしているか確認するために順位順に並んでいる場所を確認する。


「えっ?噓でしょ....」


そこには、雫の姿が居なかった。辺りを確認しようとした時だった。


「ほらっ、恋花行くよ肩貸して」


「まさかっ!ゴールしてないの?!情けは無用だって、真剣勝負だって話したのに、なんで助けに来たの?!」


「もう私はゴールしてるよ。ほらあそこ見てみて」


そういって目を向けた方向はさっき見ていた順位順に並んでいる場所だった。もう一度しっかり確認してみると一位の場所は開けられ、2位、3位と続いて座っていた。


「ほんとだ」


「さっきした約束だからね。最初は引き返すか迷ったけど恋花に怒られるかなって思ってゴールしたの」


「ごめん。早とちりしちゃった」


「気にしないで。謝る前に今はゴールのことだけを考えて」


「うん.......」


雫に肩を貸してもらい、足を引きずりながらも懸命に走る。いつも動かしている足がケガをするだけでこんなにも重くなるだなんて....

雅くんに、こんな惨めな私を見ないでほしいと祈りながら正面だけを見て進む。

...

......

..........どれくらいの時間をかけてゴールしたのか考える余裕もなかった。今日の体育祭で一番の歓声が上がる中、私は座り込んだ。すぐに保健係りの人達が集まり運ばれることになってしまった。




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