雫とのデート
とうとうこの日がやってきた。
カーテンを開けると快晴の青空が視界の一面に広がっていた。
もう朝食も済ませ、後しなければならないことは着替えるだけだ。クローゼットを開き今日着て行く服を取り出す。
いつもの私服だと黒系統の服装しか持っていなくて見た目がいつも暗めになってしまっていた。けど今回は、姉貴に服装について相談に乗ってもらいたこともあり清潔感のある見た目になっていた。
鏡で身だしなみを確認し、姉貴にも確認してもらう。僕自身は、完璧だと思っていたが姉貴はどこか不服そうに僕の服装や顔を眺めていた。
「もしかして、おかしいところあった?」
「別におかしくはないけど、一つだけ確かめてみたいことがあるんだけど良い?」
その質問に頷き姉貴が服装に手を加えるつもりでいると思っていたが全然違った。前髪をいきなり上にあげ顔をじっくりと見られる。
「やっぱ、前髪あげたほうが良いな」
そう言って姉貴は、ポケットからワックスを取り出す。洗面台にあったワックスが姉貴の手元に元からある時点で試すつもりでいたのか...素人同然の僕が口出しするよりも姉貴のほうが美容関係に詳しいはずだから従うしかない。
「ちょっとだけ目を瞑って」
姉貴に言われるがまま目を瞑り、終わるまで待つことにした。僕の前髪を姉貴が弄っているのが感覚として分かる。大分時間がかかると思っていたが数分で姉貴の手は離れた。
「終わったから目を開けてみて」
目を開けてみると、スマホのカメラ機能を鏡として利用する。そこに映っていたのは前髪を上げた自分の姿。予想以上の出来で、違和感もなく綺麗に整っていた。
「これが僕?」
「髪を上げるだけでも、印象が相当変わるな」
姉貴はスマホをポケットにしまい、逆にもう一つのポケットから長財布を取り出す。千円札を3枚取り出し、僕に差し出してきた姉貴に対し、返そうとした。何故なら姉貴がバイトして貯めたお金を貰うわけにはいかないからだ。
「行ってこい。あっあと、夕食の買い出し忘れるなよー」
あっ.......僕の勘違いだった。さっきまで、お小遣いかもと思っていたのが恥ずかしい。
だけど、いつも通りな姉貴を見て緊張が少しだけほぐれた気がする。
雫と外に出かけることがあっても小学校以来だし、デートではなく遊びに行く感覚だった。だからこそ、いつもと違う雰囲気に緊張してしまう。待ち合わせ場所は、最寄りの駅の屋内になった。
スマホの待ち受けを確認すると30分も前に到着してしまっていた........早すぎたかと思っていたが雫を待たせるよりかは遥かにマシだ。駅の中に入ると複数人が足を止めて何かを眺めているようだった。その視線の先に何があるのか気になってしまい、僕も視線を移動させる。そこに居たのは、今日待ち合わせしている雫だった。けど、いつもと違う雰囲気だった。雫の私服を見るのは、小学校以来だし、コーデ服が雫とマッチしすぎていた。それに限らず、いつもはロングの髪型がポニーテールにもなっていることにより、見慣れない雰囲気がまた、彼女の可愛さを引き立てているように感じる。
僕に限らず、周りにいる人たちが立ち止まるのにも納得してしまう。そんなことを考えている内に、向こうも僕の存在に気づき大きく僕に手を振る。
「雅、おはよー!」
「おはよ.......」
周りの視線を気にしつつ彼女のもとへ近づく。だが、近づくにつれ彼女の頬が紅潮しているのに気づく。もしかして、この格好とか髪型は似合わないか......笑われているのかと思っていたが予想外な感想を彼女は口にする。
「...直視できない.........」
「やっぱり、ダサいよなこの格好。」
「違うの....」
ボソッと呟く雫にもう一度聞き返す。
「その格好似合ってるから直視できない」
まさか、褒められるとは思わなかった。一人舞い上がった彼女は、深呼吸をし平常心を取り戻す。
「ありがと。雫も似合ってるし、可愛いよ」
「ありがと.......けど、雅が先に褒めるべきなんだよ」
雫自身、自覚がないかもしれないが、会ってからというものずっとにっこりしている。僕に注意している間もこんなに明るい彼女を今まで見たことがない。
「ごめん、次からは気を付けるから」
「うんっ!分かってくれたならよろしい」
何故か、男性からの視線だけなく女性からも見られている気がする。しかも、それが雫にではなく僕に向けられている。雫と僕では釣り合いが取れていないからか、それとも雫のことを見ているのに対して僕が勘違いしているからか?これ以上気にすると雫とのデートで支障をきたしてしまう。だとしても、雫をただ一点と見つめても同じことだった。いつも一緒に居るとはいえ、あまり見ない彼女の仕草や雰囲気の違いだけでもドギマギしてしまう。
「予定よりも早いけど、雅とより多く楽しみたいし行かない?」
「ここで待つよりかは、行ったほうが良いな」
時刻表を確認してみると、予定していた時間の電車より三本も早いのに乗ることになった。改札口を抜けエスカレーターに乗ろうした時だった。雫が僕の袖をくいくいっと軽く引っ張る。それに気づき隣にいる雫を見ると左手を差し出していた。
「......あの.........雅が嫌なら断ってもいいんだけどさ、一緒に手繋がない?」
「そうだな。今日はデートなんだし....」
雫の左手を取り、恋人繋ぎとまではいかないが彼氏彼女と間違われてもおかしくないくらいにはお互い頬を赤くしていると思う。雫の手は、小学校の時に繋いだ手より大きくなっている。けど、僕の手なんかより遥かに小さく、少し力を加えただけで壊れてしまうのではないかと錯覚してしまう。けど、そんな不安をかき消すくらい彼女の手は暖かく落ち着く。さっきまであった緊張感もなくなってホームに上がった頃には普段通り、おch字ついて会話が出来るようになっていた。
「そういえば、駅に着いたのってどれくらいなんだ?」
雫のことを待たせるわけにはいかないと思い、30分も前に着いたにも関わらず彼女はいた。いつ頃から、雫はあの場所で待っていたのか?どうしても気になってしまい思わずその話題を出す。
「えーっとね、楽しみ過ぎて1時間前からあの場所で待ってたの」
「そんなに早くからっ?!待たせてしまってごめん」
「ううん、全然大丈夫だよ。雅を待ってる時間もそれはそれで楽しかったから。それに、雅だって予定時間より早く来たんだからお互い様でしょ。」
楽しそうな声音で雫は語っていた。辺りからの視線が気になるが、雫に関しては一切気にしてない。
「今日は、目一杯楽しもうねデートなんだし」
「そうだよな。それじゃ、もう少しデートらしくするか」
彼女の握っている手を絡ませ、恋人繋ぎへと繋ぎ方を変えた。いつも雫には、揶揄われてばかりで引けをっている僕がいるが、今回だけは負けてばかりで居られない。
「...............っ!!」
雫は、いきなりすぎる出来事に声を上げそうになった。顔を赤らめていて恥じらっているが、それは僕も同じことだ。周りの視線や手汗を気にしてしまうが、雫と今一緒に居られるってだけで心が温かくなる。
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