第14話 王女は報告を受ける

クリステルは、2時間ほど眠って目を覚ました。起きると、ジルが手を握ったまま眠っていた。


「ジル……起きて……ごめんなさい、ずっと手を握ってくれてたのね。疲れたでしょう?」


「いや、オレも心地よくて眠っちまった。悪りぃ」


「ジルもベッドで寝る?」


「いや、大丈夫だ。腹減ったろ? 食事にしないか? 露天で買った食事がたくさんあるし」


「ええ! 食べるわ!」


ジルは、毒味をしてからクリステルに食事を渡していく。


「ねぇ、ジル」


「ん、どうした? 冷めてて不味いか?」


「ううん、美味しいわ。そうじゃなくて、毒味って、要るかしら? 平民はそんな事しないでしょ? 目立たない?」


「カップルで分け合って食べてるように見えるから問題ないと思うが……毒味は嫌か?」


「そんな事ないわ。ジルの気遣いは嬉しいの。でも、もうわたくしは城に帰らないし、追手もかからないかなって」


「甘いですな、クリステル様」


天井から声がしてクリステルは震え上がってジルに抱きついた。


「ちょっと! クリスが怯えてます! さっさと出て来て下さい!」


ジルが怒鳴るのと同時に、天井から大きな人影が現れた。


「はじめまして、クリステル様。国王陛下の影を務めております、アーテルと申します。ずいぶん顔色が良くなられましたね。ジルはきちんと貴方を守っているようだ」


「はじめまして、アーテル様。クリステルですわ。今は、クリスと名乗っております。父上から何か伝言でしょうか? やはり、城に戻らねばなりませんか?」


クリステルは、硬い声でアーテルに聞いた。クリステルの言葉を聞いて、ジルも警戒し、アーテルを睨みつけた。


「そんなに警戒しなくていい。国王陛下からの手紙をお届けに来ただけだ。クリステル様の死は、もうすぐ城下に通達される。王都を出る商人が増えるから、急いで護衛を依頼した方が良いぞ」


「了解しました。じゃあ、急いで依頼して来ます。クリスも来るか?」


「護衛?」


「行商人は、冒険者に護衛を依頼するのですよ。商人だけで移動すると野党に狙われますからな。ジルがそこら辺の野党に負ける訳ありませんが、護衛無しで移動するだけでターゲットになります。避けられる危険は避けた方が宜しいでしょう。ジル、急がないとまともな冒険者が捕まらんぞ。クリステル様は俺が護衛しておくから、急いで依頼して来い」


「でも……」


「大丈夫。ジルが信用している人なら」


「まぁ、この人は安全だけどよ……。分かった。ダッシュで行ってくる。一瞬たりとも目を離さないで下さいよ!」


そう言って、ジルは部屋を駆け出して行った。アーテルは、ジルが出て行ったのを確認して手紙を渡した。


「クリステル様は、ずいぶんとジルを信頼なさったようですな」


「え……ええ」


「手紙は、読んだら燃やすようにとのご指示です。それから、ジルのいない所で読むようにと」


「分かったわ。今読んでも良いかしら?」


「もちろんです」


手紙は、簡潔にクリステルが居なくなってからの出来事が書かれていた。それから、城下街に残らずに出来るだけ遠くへ逃げろとの記載もあった。もうひとつ……看過できない事が書かれていた。


「アーテル様はこの手紙の内容をご存知?」


「……はい」


「ジルのご家族が……処刑されるのね」


「はい。表向きは、クビですが……我々が始末します。腕は立ちますから、大人数で念入りにやるつもりです」


「そう……。ジルには言わない方が良いわね」


「どちらでも構わないでしょう。ジルも予想している筈です。それに、クリステル様のご様子で感づくと思います」


「わたくしの様子で?」


「はい、ジルの観察眼は恐ろしく正確です。貴方様に限りますが、僅かな異常も看過されるのではありませんか?」


「先程、眠いのがバレてしまったわ。それに、お腹具合まで分かるみたいだし……ちょっぴり恥ずかしいわ」


「さすがですな。国王陛下が、大事な娘を託すくらいには信頼のおける男です。どうか、今後もジルをよろしくお願いします」

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