第19話 御門が来てしまった。

「相変わらず、突拍子とっぴょうしもない格好だねえ。月姫は」

「ク! リ! ス! ティーナ! 三世ですの!」


 甲斐かい学園長がシスター姿のさつきさんを一刀両断した。


 今まで、誰も指摘出来なかったのだけれど。


 姉御肌あねごはだの学園長だからこそね。


「ここに集まってる皆は、事情を把握はあく済みだよ。だから、そのもっちり大罪司教? の真似まねはしなくて良い」

「もっちり大罪司教ですって! おほほほ!……がるるる! ばうばう!」


 意気揚々いきようようとしていた人物が。


 狂犬きょうけんに一瞬で変化してしまった。


 今までの歓待かんたいを台無しにされそうで。


 生徒会長の月影つきかげさんが……鋭い眼光で学園長をにらみつける始末だ。


「警察官の格好の方が? 大体的に捜査しちゃいます? 特殊部隊も呼びますの? リクエストちゃんですの?」


 かなり、過激な発言。


 さつきさんなら、やりかねないのだから。


 冗談には聞こえないわね。

 

「……どちらかと言うと。そうしてくれた方が」


 ぎょっとする事を。


 ボブメイドの揚羽あげはさんがつぶやいてしまった。


「まあ! こちらにも、コスプレをしている方が! エクセレントボブメイドですわ!」

「は、初めまして。本庄ほんじょう 揚羽あげはと申します。渦中かちゅう赤羽あかばねの友人です」


 いきなり、興味の対象にされて。


 少し緊張気味に自己紹介をする彼女。


 助けを懇願こんがんする様に。


 私に視線を送って来ている。


「さつきさん? 査察隊ささつたいの他のメンバーは?」


 些細ささいな質問だけれども。


 話題を変えられるなら十分ね。


「や、山奥のカーブで酔った方が。少々、お手洗いにですわ!? おほほ!?」

 

 確かに、この学園は山奥に位置している。


 その為、幾度となくヘアピンカーブに差し掛かるのだ。


 車に酔いやすい人なら……拷問ごうもんのアトラクションかもね。


 誰かは知らないけど、お気の毒に。


真理亜まりあ、お願い」

「はい、会長。しかるべき対応を」

「へ、平気ですわ!? わざわざ、相手にしなくても!?」


 副会長さんがすみやかに退出。


 それを妙に気にする、さつきさん。


 学園の実態調査なのだから。貸し借りを作りたくない?


 言葉が悪いけど、取り込まれる心配を?


「ご足労感謝するよ、月姫つきひめ。有名人は忙しいだろう?」

「ここ最近は、世間を騒がす事件はありませんから。普通ですわ」

 

 約二ヶ月前に。


 世間では連続女児殺人事件が発生した。


 通り魔的犯行で目撃者も見当たらず。


 捜査は難航なんこうしてしまった。


 何もかもがの事件だった。


 解決に至る出来事も――犯人の正体も。


甲斐かい学園長こそ、エクスプロージョンしてませんわね? カーニバルしませんの?」

「誰が爆発するんだい!? アタシだって時と場所をわきまえているさ!?」


 ぼんやりと二人のやり取りを眺めていると。


『マリアンヌは……』


 学園長室の外側から。


 無機質むきしつな声がする。


 まるで、ボイスチェンジャーの様な。


 それに。


 マリアンヌ。


 先ほど退出した副会長さんの名前。


 綺流きりゅう 


 彼女に対して――そんなふざけた愛称を言う人が居るのだろうか?


 視界がぐらぐらと揺らぎ始める。


 気持ちが悪い。酔いそう。


多華たか先生?……顔色が」


 私の異変を察知した揚羽あげはさんに。


 まともに、返答すら出来ない。


 心のどこかで。


 この事態をしていたのだ。


 御門のろい発現してしまった。


 



 

 


 


 


 



 

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