第3話 魅了の呪いでも。作用しているのでしょうか?

本庄ほんじょう、お前も大変だろ? 赤羽あかばね劇場に巻き込まれてさ」

「退屈する事だけは、ありませんと。強がりを言わせて頂きます」


 響愛きょうあい学園大学の。


 学園長室。


 昨日の顛末てんまつについて。一通り報告した後。


 甲斐かい 裕子ゆうこ――学園長の言葉である。


 皮肉か、ねぎらいの言葉か。


 判断出来なかったけれど。


 取りつくろう発言が出来ないタイプなので。


 好感が持てる学園長ですね。


「まさに、カーニバルでしょうか?」

「リクエストかい? 残念ながら、準備しないと披露ひろう出来ないぞ?」


 今年の入学式――『響愛きょうあい学園カーニバル事変じへん』の主犯が。


 照れながら苦笑する。


 この人は、本当に。


 リオのカーニバルを彷彿ほうふつさせるサンバを。


 新入生に披露ひろうしたのだ。


 しかも、衣装も自前で用意する計画的犯行。


 学園長のルーツが。日系ブラジル人の血筋だと言う。


 新学園長就任挨拶と。

 

 入学式が重なった事も。


 原因だろうか?


 いや、これにも。


 残念な継子けいこ様が。糸を引いていたのだ。


 前生徒会の会長任期も終了。


 同日にも新会長に引継ぎ予定。


 となると。


 言われなくとも。想像出来てしまう。


 はあ。


 アホだ。


「アタシとしても。サンバを披露ひろうするには、場違いだと言ったさ」

「『僕が会長辞任して、しんみりさせちゃうから。それに、異文化交流も重要だろ!』でしたね。申し訳ありません。奴が真犯人でしたね」


 しまいには、継子けいこ様まで。


 衣装を着て乱入する愚行ぐこうを。


 まさに、カオス。


 お育ちの良い姫様方には、刺激が強すぎたのか。


 何故か黄色い声援で。


 倒れる人が続出した。


 継子けいこ様に対しての。


 意味不明な人気の賜物たまものでしょうか?


 他の人でしたら。


 退学でしたね。ええ。


 学園長のサンバも。刺激的だったのは否定出来ない。


 しかし、本気で披露する心意気が。


 素人の私にも伝わったのだ。


 踊り終えた時には、批判の声は一切無く。


 歓声と拍手で満たされていた。


 それだけ、学園長のパフォーマンス力が。一流だった証明だろう。


 気になるジンクスとしては。


 継子けいこ様がからむと。


 どんな愚行ぐこうでも、許されそうで。


 正直、気色悪いですね。


 魅了のでも。


 作用しているのでしょうか?


赤羽あかばねは天性の人たらしだからねえ。……だからこそ、不可解ふかかいだ」

「良くも悪くも……影響力だけは、ある方ですので」


 人知れず恨みを買ったとしても。


 安易に犯罪行為をする。


 生徒達では……ありませんから。


 問題行為をして人生を棒に振る――おろか過ぎる事を。


 この学園に入学している者なら。


 言われなくとも。


 すでに、まれているのだ。


 経済的な親ガチャを引き当てた。


 せめてもの――たしなみとして。


 だから、直接的に行動した犯人の。動機が理解不能だと。


 学園長も思っているらしい。


赤羽あかばねが死亡しなかったのが。せめてもの救いか」

「……はい。その通りかと」


 わき腹を刺されたけれど。


 傷が浅かったので。命を奪われる程では無かった。


 ですが、激痛にさいなまれて。


 病室での『同情してよお!』アピールが……うざかったですね。


揚羽あげはさん、付きっきりで看護して! 九死に一生のご褒美!』


 言われなくと。そうするつもりでしたのに。


 やはり、残念な人。


「それでだ。今後の学園としての方針――対処についてだが」

「あっ、はい」


 継子けいこ様の事を回想して。


 危うく聞き逃す所でした。


「簡単に言うと。経過観察けいかかんさつさ。赤羽あかばねと同じ様に」

「……は?」


 呆気あっけに取られて。


 今度こそ。


 私は耳を疑ったのだ。


 


 


 




 



 


 


 


 


 

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