8. 大魔種討伐

8. 大魔種討伐




 私は目覚める。サーシャは私が初めて剣の精霊と言って魔法で夢の中で会話をしてから私を離すことはほとんどなくなった。周りから見ればこの子は『アイアンソード』と共に寝ているようにしか見えない。


「うーん……私は強くなりたい……」


 あら?可愛い寝言ね。でも、その気持ち分かるわよ。私もサーシャくらいの頃は強くなりたかったしね。


 ふふっ。思わず笑みがこぼれてしまう。あぁ、こんなにも可愛い子が強くなるために頑張ってるんだと思うと私も頑張らなきゃって思える。そう思うとまた眠気が襲ってくる。さてもう一眠りしようかしら。私はその睡魔に身を任せた。



 ◇◇◇



 私が次に目を覚ますとそこは森だった。見渡す限り木しかない。どうやらサーシャはギルドの依頼を受けているらしい。私が周りを確認すると、ヴェインも一緒のようだ。


「本当にこの森に大魔種がいるんですかね?」


「ああ。もう何件も目撃されているからな。間違いないだろう。だからギルドの中でも実力のあるオレたちが派遣されたんだ」


 大魔種。それは、通常の魔物よりはるかに強力な魔物だ。人間の住むところの近くには通常存在しないのだけど……今回のような特殊な条件下だとたまに現れることがあるのだ。


 そして、現れた大魔種は例外なく討伐しなければならない。もし放置しておけばさらに被害が出るからだ。それに、冒険者として経験を積むには丁度いい相手でもある。


「よし!じゃあ行くぞ!サーシャ!」


「はい。おじ様!」


 二人は森の奥へと進んでいく。しばらくすると、開けた場所に出た。そこには、大きめの狼がいた。あれが大魔種のようね。二人は戦闘態勢に入る。


「グルルルッ……。」


「来るぞ!サーシャ!」


 二人が武器を構えると同時に大魔種が飛びかかってきた。だが、それを難なく避ける二人。そのまま二人は連携して攻撃を続ける。


「そこだ!」


 ヴェインが攻撃を繰り出したが避けられてしまった。やはり素早い。ヴェインの攻撃を避けたところを見るとかなりの強敵かもしれない。


「くそっ!速いな!」


「はい。ならこれはどうですか!?」


 今度はサーシャが動き出した。ヴェインよりも速く動く。そして、大魔種の後ろに回り込むと剣を振るった。だが、それも大魔種は避けてしまう。


「グギャァアアッ!!」


「そんなっ!?」


 突然の大声に驚きながら二人はその場を離れる。どうやら大魔種は魔法を使うみたいね。二人はそれぞれ別の方向に離れる。


「おい!サーシャ!大丈夫か!?」


「はい!大丈夫です!」


「ならよかったぜ!だが……こりゃまずいな……。」


 二人の言う通り状況は悪い。大魔種は魔法を使い、俊敏性も高い。その上強い魔力を感じることからおそらく上位個体だろう。これはかなり厄介な依頼になりそうだわ……。


「グゥルルルッ……。」


「ちぃっ!!やっぱり当たらねぇな!」


「はい……。」


 それから二人はひたすらに攻撃を仕掛けるがなかなか当たらない。大魔種の動きをよく観察しているけどそれでもギリギリでかわされてしまう。このままではジリ貧だわ。なんとかしないと……。そう思った時だった。


「グァウッ!!」


 大魔種が突然吠えると地面から石でできた槍のようなものが現れた。それがサーシャに向かって飛んでくる。私は魔法でサーシャに急いで話しかける。


 《サーシャ!急いで私と同じ詠唱をしなさい!》


「え!?アイリス様!?」


 《早くしなさい!死ぬわよ!?》


「は、はい!」


 サーシャはすぐに行動に移った。さすがにすぐに理解してくれたようで安心したわ。そして、大魔種が放った石の槍は魔法で発動した光の盾に守られた。


「なっ!?どういうことだ!?」


 驚くヴェイン。まぁ無理もないかしらね。でも、サーシャはまだまだ甘いところもあるから鍛えないとね。私はサーシャに話しかける。


 《サーシャ!あの大魔種は今のあなたたちじゃ倒せないわ。力を貸してあげる。出来るわね?》


「はい!頑張ります!」


 《それじゃあ行くわよ!光の精霊よ!我が呼びかけに応えよ!そして、我に力を与えよ!貫け……『ブリューナク』!》


「光の精霊よ!我が呼びかけに応えよ!そして、我に力を与えよ!貫け……『ブリューナク』!」


 私と同じくサーシャが詠唱する。すると剣先から強力な閃光の槍が現れた瞬間その大魔種を貫く。そして一撃で絶命させる。ふふっやっぱり私の魔法は最強ね!その威力の高さから反動でサーシャは尻餅をつく。


「ふえぇ~!?」


「な、なんだそりゃあ……?」


 2人とも驚いている。やりすぎたかしら……。でも、仕方ないわよね。こうでもしないと倒せなかったし。私は悪くないわよ?


「おいサーシャ……今のは神聖魔法じゃないのか?」


「へ?」


「賢者クラスしか扱えない高等魔法だぞ?しかもあの威力……大賢者クラスのレベルだ……」


 本来の光属性魔法の上位の聖属性の神聖魔法を扱えるのは聖職者だけだ。そして、神聖魔法の使い手は歴史上に数えるほどしかいない。そして、その中でも高位の聖属性の神聖魔法を扱う者はさらに少ない。


 つまり大賢者であるアイリス=フォン=アスタータ……私クラスでなければ扱うことはできないはず!やっぱり最強よね私の魔法は!


「えっと……これは剣の精霊様のアイリス様が使ったんです!私じゃないですよ!おじ様!」


「剣の精霊様は魔法を使うのか?そんなわけないだろ?お前の力は計り知れないな?」


「本当に違うんです!おじ様信じて!」


「分かった分かった!信じるって!しかし……まるで伝承で伝わる、大賢者様のような魔法だった。」


「大賢者……そう言えば……英雄伝の大賢者様って……」


「ん?どうかしたかサーシャ?」


「ううん……なんでも!それより大魔種を解体しましょう!おじ様」


 あら……もしかして何か気づかれちゃったかしらね……。やっぱりやり過ぎたかも?

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