6. ただの冒険者

6. ただの冒険者




 サーシャはトボトボと街の外まで歩いていく。とりあえずギルドの魔物討伐の依頼を受けたみたいだけど……この子は戦えないわよね?どうするのかしらね?サーシャはそのまま木陰に座り込んでしまう。


 良くも悪くも世間を知らない元貴族令嬢のサーシャには辛い現状かもしれないわね……。


「はぁ……」


 ため息をつきながら、ぼーっとしているようだ。危ないわよあなた……。と言ってもサーシャには聞こえない。ふむ……このままでは良くないわね。


 サーシャは戦えない。ただ問題は私のほうにもある。それは今まで剣とか振るったことなんてないからだ。だから私は魔法でサーシャを助けることは出来ても、剣術では助けることが出来ない。本当になんで私はただの『アイアンソード』に転生しちゃったんだか……


 そんな事を考えていると、そこにゴブリンが近づいてきた。ゴブリンは、サーシャを見つけるとニタニタ笑いながら、ゆっくりと近づいてくる。


「ひっ!?」


 サーシャは慌てて立ち上がり逃げようとするけど、腰が抜けて立ち上がれないようで、その場で固まってしまっている。


「どっどうしよう……剣を抜かなきゃ……」


 身体が震えている。それでも何とか私を抜いてくれたけど、到底戦えるようにも思えないし……ここは私の出来ることで助けてあげなきゃね。私は魔法でサーシャに語りかける。


 《サーシャ聞こえるかしら?》


「その声はアイリス様……!?」


 《落ち着きなさい。そんなんじゃあなた誰も助けることなんか出来ないわよ?》


「でも……怖い……」


 《それが……あなたがやろうとしていることなのよ。戦乱を止めるんじゃなかったの?自分が生き抜くためじゃなかったの?そんな覚悟ならすぐに死ぬわよ》


「うっ……」


 少しキツいことを言ってしまったかもしれない。それでも私はサーシャに強くなってもらいたい。私を救ってくれたのはあなただから。


 私も覚悟を決めたわ。正直、今でもなんで世界を救った大賢者なのにただの『アイアンソード』に転生したのか?とか文句は山ほどあるのは事実。


 それでも……私がこの時代に『アイアンソード』として転生した意味があるのならその証を残したい!私はサーシャを強くする!いやこの世界で最強にしてみせる!


 《サーシャ。立ちなさい。自分の足で踏み出しなさい!生き抜くために!》


「アイリス様……はい!私は強くなる!」


 サーシャはそう言って立ち上がり私をゴブリンに向けて構える。もう震えはない。


 《良く言ったわ。安心して、あなたは私が守るから。私に続けて詠唱しなさい。そしてその後、剣を振り抜きなさい!行くわよ!》


「えっ?あっはい!」


 《我に力を貸せ!風の精霊!我が求めに応じ、今こそ顕現せよ!》


「我に力貸せ!風の精霊!我が求めに応じ、今こそ顕現せよ!」


 そしてサーシャは私を思い切り振り抜く。すると風が巻き起こり、ゴブリンは吹っ飛んでいった。


「やった!やりました!ありがとうございます!あれ……アイリス様?」


 あら……魔法が解除されたわ。やっぱりまだ全然魔力がないのね……サーシャはまだ魔法を使えるほどの力がないわ。それに剣術もダメだし……こりゃ手がかかるわね……。


 それから毎日、魔物討伐をして稼いだお金で宿屋に泊まるを繰り返していく。もちろん私はサーシャと一緒にいる。


 そしてサーシャはどんどん強くなっていく。まずは体力をつけさせないといけないから、走って鍛えた。


 夜には夢の中で魔法で干渉し直接アドバイスをして、朝起きた時には忘れないようにメモを取るように言っておいた。最初は全然覚えられなかったみたいだけど、次第に理解していったみたいで、ちゃんと実践出来るようになっていた。あと少しだわ。


 そうやり続けて1ヶ月後くらいだろうか。ついにサーシャは自分の力でゴブリンを倒すことに成功したのだ。私は危険な時は魔法で助け、サーシャは次第に魔力量も上昇していき、魔法をある程度発動しても問題なくなっていった。






 そして月日がたち4年が過ぎたころ……。


「くそ……もうダメだ……勝てっこない……」


 一人の冒険者の男が森でオーガに襲われている。容赦なくその冒険者を殺そうとしていた。しかし、その時颯爽と現れ、銀髪をなびかせた一人の少女。その手には初級の冒険者が持つ、武器屋に並んでいて誰もが知っている『アイアンソード』が握られていた。


「大丈夫ですか?ここは私に任せてください」


 その少女は笑顔を浮かべると、そのままオーガに向かって走り出す。


「はぁあああ!!」


 そのまま一閃。見事にオーガを倒した。


「ふう……よかった……」


 少女は倒れている男の所へ駆け寄る。


「あの……お怪我はないでしょうか?」


「あ……ああ……助かったよ……君は強いんだね……しかもそのアイアンソードで魔物を軽く倒すなんて……」


「これは私の相棒なんです。これのおかげでここまでやって来れました」


「君は一体……」


「私はただの『アイアンソード』を使う冒険者ですよ?」


 これが私とサーシャの出会いと前日譚。そして私とサーシャの本当の旅がここから始まるのであった。

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