第3話 三人の珍道中
それから三日後、サンとニッケルは旅の準備を整えると、シスター・プラチナと再び合流する。
プラチナは半透明の玉がはめ込まれている杖の他にも、大量の荷物を抱えていて…その量にサンは驚いた。重そうだし持つよ、と言っても「私の荷物ですから」とプラチナは頑としてその申し出を受け入れなかった。
そして…ついに三人は南地域を支配する魔王、サイエン討伐に繰り出す。
サンの住むリトマス村から出発し、南にある洞窟の入り口にたどり着いたところで、一行は、洞窟に入る手前で野宿することにする。
「プラチナさん、野宿なんて大丈夫かな」
プラチナが向こうで寝息をたてているのを眺めつつ、火の番をしながらぽつりとこぼすサンに、ニッケルは寝袋に潜り込みながら答える。
「ま、本人は快く引き受けてくれたんだし…問題ないだろ」
サンはそれを聞いて思わず涙ぐむ。
「野郎二人と旅なんて可憐なシスターにとっては酷だろうに、野宿にも文句一つ言わず…。プラチナさんって、お
「お前、あのシスターにすっかりメロメロだな。確かに美少女だが、俺は清楚すぎて好みじゃねぇな」
ニッケルは呆れたように天を仰いだ後、ふと付け加える。
「ちなみに…アルカの前ではそれ言うなよ? あと、あのシスターの前でもアルカの悪口言うのはやめた方がいい」
「? アルカは分かるけど、なんでプラチナさんの前でもダメなんだよ」
「ああ、それは…なんとなく、ああいうタイプは悪口嫌いそうだろ? 言ってるとこ見られると『人の悪口言うような人だったなんて、酷いです』とか言ってサンのこと嫌うかもしれないと思ってな」
「た、確かにそうだな。気をつけるよ」
サンはニッケルの言葉に真剣に頷く。
そんなシスター・プラチナの冒険者としての実力はというと、魔法のコントロールが少々苦手なようで…。
洞窟内を照らす魔法をお願いしたところ、プラチナは杖を大きく振り回し、杖の先端に付いている玉の部分を洞窟の天井に思いっきりぶつけた。
その反動のせいか…杖は光を放ったものの、やけに眩しすぎるその白い光をもろに浴びた三人は目がつぶれそうになった。
「すみません! 眩しくしすぎました!」
笑って大丈夫だよ、というサンとニッケルに、シスター・プラチナは平謝りする。
(ちょっとポンコツっぽいけど、一生懸命なところも可愛いな…)
サンはそんなことを考えながら、思わず緩みそうになる頬を慌てて元に戻す。
また、シスター・プラチナの魔法は少々変わっている様子で…。
洞窟内でナメクジのモンスターに囲まれた時、それらをなんとか対処しつつ、大丈夫だろうかと思いながらサンがプラチナを見ると、プラチナは何か粉のようなものを撒いて退治していた。
(何かキラキラしたものを撒いたように見えたけど…あれも魔法なのか? 粉を出すなんて、見たことない感じの魔法だな…)
そしてシスター・プラチナはお茶を淹れるのが好きなようで、旅の途中、ティータイムの時間が時折設けられた(荷物の多さはそれが原因のようだ)。
プラチナの淹れる紅茶は格別で、戦いに疲れた心と体を癒してくれた。
「勇者様は、私の淹れる紅茶を本当に美味しそうに飲んでくれますね」
ある日、そう言いながらしげしげとこちらを見るプラチナに、サンは思わず口を滑らせてしまう。
「ああ、村にいた頃はそんなにお茶が好きではなかったけど…きっと、他でもないプラチナさんが淹れてくれるからだよ」
サンはそう言った後、自分の恋心が見え隠れするような台詞を言ってしまったかと気づいて顔を赤くする。
プラチナは驚いたように目を見開いて「まあ」と一言洩らしたが、意外にも恥ずかしがることはなく…そして何故か、その後の態度はどこかつんとした様子だった。
そんなこんなで一行は洞窟内を進み、洞窟の最下層にある地下迷宮をも突破すると、地下深くにある魔王の城が見えてくる。
その頃には、サンの実力もついてきていたようで…いつの間にか魔物を倒すのに苦労しなくなっている自分にサンは気が付いた。
(やっぱり、今まではただ経験がないせいで弱かったんじゃないか。旅から帰ったら、俺の実力じゃ魔王討伐は無理だって断言しやがったアルカを見返してやる!)
一行は魔王戦の前に野宿をして体を休めることに決め、ニッケルは安全確認のため周辺を見回ってくると言って一人席を立つ。
「勇者様、お疲れ様です」
野営の地に腰を落ち着けると、プラチナは早速恒例のティータイムの時間を設け、サンにお茶を淹れてくれる。
「ありがとう、プラチナさん」
サンがそう言ってお茶を受け取ると、プラチナは天使のような微笑みを見せる。
(もしかして、俺が強くなったのってプラチナさんのおかげなのかも…。これが、恋の力ってやつなのかな…)
サンがぼんやりとそんなことを考えながらお茶をすすると、プラチナが真剣な表情でじっとこちらを見ているのに気づいてサンはどぎまぎする。
「プラチナさん…ど、どうしたの?」
「あの…勇者様に渡したいものがあります」
プラチナはそう言ってサンの手をそっと握り、手の中に何かを掴ませる。
サンは柔らかい手の感覚にどきっとしながらも手を開くと、綺麗な虹色の小さな立方体が現れる。
「こ、これは…?」
「これは、神様からの頂き物の…『祈りの結晶』です。これを飲み込み、体に入れることで…勇者様の身を守って下さいます。実は、勇者様が、見込みのある人物ならばそれをお渡しするよう、神様から申しつけられておりました。なので、勇者様に貰って頂きたいのです」
プラチナはそう言った後、俯く。
「それに、私…勇者様に死んでほしくない。私はこの旅を通して、サンのことが…」
プラチナはそこから先は、言うには勇気が要るようで、口をつぐむ。
「サン」と初めて名前を呼ばれた時点で既に嬉しい気持ちでいっぱいだったが、プラチナの顔が真っ赤なことに気が付いてサンはその先の言葉を察し、さらに舞い上がってしまう。
「お、俺も、プラチナさんのことが…っ!」
サンは感極まって思わずプラチナを抱き寄せる。しかしその時、サンはふと違和感を感じる。
(え、この匂い…なんだかプラチナさんらしからぬ感じだけど…何の匂いだっけ…)
サンが静止していると、プラチナははっとした様子でサンから離れる。
「い、いけませんわ! 私は神様にお仕えする身ですから…」
プラチナはそう言って慌てて向こうを向き、サンから距離を置いてそそくさと自分の荷物の片付けをする。
サンは今感じた違和感について考えながら…プラチナにもらった「祈りの結晶」を口には入れず、じっと眺める。
「お前、何持ってんだ?」
戻ってきたニッケルにそう問われ、サンはプラチナに言われたことを説明する。ニッケルはにやりと笑い、サンに囁く。
「ふーん。お前が要らないなら俺が貰ってやろうか?」
「な、なんでお前が?」
「美少女からの贈り物要らないなんてもったいねーだろ? 彼女、俺には清楚すぎるって言ったけど、男たるものやっぱり美少女には惹かれるよな…」
「お、お前みたいな女好きにプラチナさんはやらねーよ。それにこれも…俺が貰ったんだからな!」
サンはニッケルに取られないようにと「祈りの結晶」を慌てて口に入れ、ごくんと飲み込む。
ニッケルはそんなサンの様子を見て…何故だか満足気な笑みを見せた。
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