3-2

執務室の中にいる三人が話している時、突然部屋の外で慌ただしい足音が近づいてきたかと思うと部屋が大きな音でノックされた。


「入れ」


領主が声をかけると、1人の役人が部屋に入り領主に報告する。


「領主様、本日入港予定の商船が沈没したと報告がありました」

「なんだと!」

「本当ですか!」


顔色を変える領主とギルド長。

本日入港予定の商船は一隻で、急ぎ調達の依頼をかけた品が積まれている船である。


役人は、領主に促されて三人が座る机に広げた海図を指さしつつ報告を続ける。


「この位置で沈没した様子です」

「もう少しで入港できたものを」


役人が指さした位置を見ながら悔しげにつぶやく領主。

指し示された位置は港まで後1kmほどの場所である。


「周囲航行していた船から沈没直前に商船内で結界石が展開された様子が確認されています」

「なるほど、それならよかった、と言いたいが。じゃあなぜ沈んだ?ん?商船内だと?」


役人の報告に対して首を傾げる領主。

船に結界石を取り付ける場合、結界に海水も防ぐ対象として沈没対応とするのが慣例となっている。

そのため、結界が風船のようになり、海上に浮かぶはずなのだ。

しかし、その場合は船全体を結界が覆うはずで、船外に展開される様子が確認できるはずだった。


「どうも、船としての結界石は展開されず、乗員が持っていた結界石を船内で部屋を守るために展開された様子でして」

「そうすると、全体を支える規模の結界石ではないと言うことか」

「はい、船自体は沈没している様子です」

「船を海上に引き上げる方法は?」

「物体操作の魔法を使える魔法使いによって、儀式魔法の準備をしております」

「沈没船を魔法で釣り上げようっていうことだな。時間はどのくらいかかる」

「半日程度準備にかかると言うことです」

「半日か。もし部屋の中に生き残りがいる場合、持つと思うか」

「わかりませんが、1人ということはないと思われます。厳しいと予測します」

「なんとか、助けることはできないだろうか」


領主とギルド長、役人の三人が頭を抱えたその時、ユウヒがおずおずと手をあげて話し始めた。


「あの、空気石を使うのはどうかな?」


領主と役人は怪訝そうな表情でユウヒを向くが、ギルド長はそれに構わずユウヒに真意を問う。


「ユウヒ?」

「ボク、時々潜るよね。その時使ってる空気石ならどうだろ」


鞄の中から白い魔法石を取り出してギルド長に見せるユウヒ。


「これ一つで、ボク1人なら10日くらい息吸える。今予備含めて二つあるから、一つ届けるのはどうかな」

「なるほどね、確かにいい案だね」


説明するユウヒと会話するギルド長。

会話についていけない領主にギルド長が説明する。


「兎は配達で海中に潜る事があるのですが、空気を呼吸できるように循環させる魔法石がこれです」

「なるほど」

「一つで、ユウヒ1人なら10日間海の中で呼吸できます。予備があるので、それを船に置けば引き上げまで呼吸できるのではないでしょうか」

「うまくいくかは出たとこ勝負な感はあるが、他に手はなさそうだな。頼みたいところだが、大きな問題がある」

「なんでしょう、領主様」


ギルド長が確認すると、領主はユウヒに向かって問いかけた。


「届けられるのだな?」

「運び屋『兎』にお任せください」


うなづいて、ユウヒは堂々と言い放った。

その様子を見て領主は深々とため息をつきつつ、ギルド長に話しかけた。


「全く、とんだ初依頼になってしまうな。娘と仲良くしてやってほしいだけだったのだが」

「領主様、船内に取り残された者に信頼させるためにも、方針を書いた書面があると良いかと」

「なるほど、全くだなギルド長。すぐ書こう。石を使うこと、半日後に引き上げることを書けば良いな」

「お願います。兎が配送に成功すれば、位置特定もしやすくなるので魔法による引き上げ時間が短縮できる可能性もあります」


領主とギルド長で話し合いつつ、書面を準備。

配達物の準備ができたのを見て、ユウヒが声をかける。


「では改めて。届けるものは空気と文書。届け先は沈没船で良いでしょうか」

「任せる。費用についてはギルド長と話しておこう」

「請け負いました!」


書類を入れた箱を受け取ると、ユウヒは部屋を飛び出して行った。

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