第38話 無謀と猫と怪獣退治

24年1月16日より、Ver.1を削除してVer.2への更新を行っております。

2月9日に発売される書籍版第01巻の続きはVer.2準拠で更新していきます。

書籍には書き下ろしが沢山載っておりますので、どうかよろしくお願い致します。






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「そんで姫、どっちに向かったらいいの?」


『ナビゲートを出すからそっちに向かって』



姫がそう言うと、全周囲ディスプレイの俺の目の前に3Dの矢印が浮かび上がった。


なるほど、これを辿ればいいのか。


ゲームみたいでわかりやすいな。



「はい出して~、ゆっくりね~、ビルにぶつからないように」


「教習所みたいだな」



俺が頭で行きたい方向を念じると、サードアイはチキチキと高く小さい音を立てながらゆっくりと移動を始めた。


『もっと早く』と意識をするだけで速度はスルスルと上がり、遠くにあるビルがぐんぐん近づいてきて凄いスピードで後ろに吹っ飛んでいく。


だというのに、俺の体には何の負担もかかっていない。


まるで部屋のテレビでドローンの映像か何かを見ているような感覚だった。



「これってさ、Gとか感じないんだけどほんとに飛んでるの?」



俺がそう聞くと、膝の上のマーズは不思議そうな顔で俺を見て、手の先から爪を出してちょいちょいと進行方向を指さした。



「重力制御で飛んでんだからさぁ、コックピット内にGが生じてたら問題だよ。ま、ハッチでも開けてみればコックピット内の制御が切れてさ、Gも感じられるようになると思うんだけど……」


『絶対開けちゃ駄目だからね! ステルス切れちゃうんだから!』


「あ、うん……」



三人で話している間にも、サードアイは街の上空を音もなくかっ飛んでいく。


温かい陽の光が差す東京の街をぼんやりと眺めていると、遥か遠くに真っ黒な煙が立ち昇っている場所が見えた。



「あの煙のとこ?」


『蛇は草加から東に移動中。自衛隊は市街地に向けてミサイルを撃つかどうかで揉めてるみたい』


「そんなとこに突っ込んでって大丈夫かな?」


「直撃は避けたいね、飛んでくる前に済ませよう」


「よし……よし!」



俺はパン! と音を立てて両手で挟むように自分の頬を叩き、そのまま両手の人差し指をピンと立て、その先を左右のこめかみに押し当てた。



「それ何?」


「集中してるの!」


『トンボ、首の根元にちゃんと当てればレーザーキャノン一発で終わると思うから、落ち着いてやって』


「この銃の事は……ビームライフルと呼んでくれ!」



俺はサードアイが右手に構えたライフルをぐっと引き付け、いつの間にか肉眼でも見えそうな位置に迫っていた巨大な双頭の蛇を睨みつける。


双頭の蛇は幹線道路をゆっくりと移動しているようだが、どこにも尻尾が見えなかった。



「……なんかあの蛇、体長くない?」


『長いよ、まだ草加ダンジョンから体が出切ってないんだから』


「え!? 何で!?」


『わかんない』


「この蛇といい、あのドラゴンといい、この星の生き物って変なのばっかりだよね」


「いや、あれもこれもうちの星の生き物じゃないでしょ……」



まあ、どれだけ長い蛇だろうと、頭を潰してしまえばさすがに大丈夫だろう。


俺は集中のポーズのまま、もう一度二つある蛇の頭を見た。



「上から撃つと人が避難してるかもしれない地下街に貫通するかもしれないから、下に潜り込んで空に向けて首を撃つんだよね?」


「それでOK! 炎も冷気もまるで問題ないから気にせず近寄って」


「よし……いぐぞっ!!」



口の端から泡を飛ばしながら、気合いを込めてそう叫び、俺はサードアイを双頭の蛇に向けて発進させた。


一呼吸前まで点景に見えていた街が一気に大きくなったかと思うと、一瞬で道路が視界いっぱいに広がり、サードアイは足から火花を散らしながらアスファルトの上を滑走していた。


ガアアアアアアアアッ! と無人の街中に響き渡る爆音と火花を上げ、サードアイは足の裏で幹線道路のアスファルトを削りながら双頭の蛇の首元へと接近していく。



「トンボ! 浮かせて浮かせて!」


「浮け! 浮け! 浮けーっ!」



押し当てた指でこめかみを突き刺しながら念じると、サードアイは地面から少しだけ浮き上がり……


そのままの勢いで、道路の真ん中に乗り捨てられていたワゴン車に激突した。


バッゴン! とでっかい音が鳴り、ワゴン車は横回転しながら二メートルほど跳ね上がって吹っ飛んでいった。



「うわっ! やっちゃった!」


『大丈夫、人は乗ってないよ』


「あんなとこに置いとくのが悪いんだよ」


「後で保険会社から連絡来たりしないかなぁ……って、来た来た来たっ!」



俺が頭を抱えている間にもサードアイは地面スレスレを飛び続け、俺達はあっという間に双頭の蛇に接敵していた。


八メートルの高さのサードアイに乗り込んでなお見上げる高さの蛇は、鎌首をもたげたままこちらへと向かって進んできていた。



「これ、マジであっちからは見えてないんだよね?」


「そうだよ」


「なんかさ、蛇には赤外線を見るピット器官ってのがあるんじゃなかった?」


『だから、その機体のステルスは目視でも赤外線でも超音波でも捕捉できないっつってんじゃん。大丈夫大丈夫』


「でもなんかこっち見てる気するけど……?」



気のせいだって、と笑う姫の言葉を信じたいが、俺にはどうしても蛇の二つの頭がじっとこちらを見ているようにしか思えなかった。


シュルシュルと舌を出し入れしながら、双頭の蛇は明らかにサードアイをめがけて近づいてくる。



「これマジで大丈夫!? 見つかってない!?」


『おかしいなぁ、ステルスはちゃんと動いてんだけど』


「トンボ、角度的にもう撃って大丈夫だよ」



ビームライフルを構えるために心を落ち着け、蛇の事をよく見ていると……


片側の蛇の喉元が、カエルのようにぷっくりと膨らんでいるのがなんとなく気になった。


そして次の瞬間、その口がパッと開いた。



「あっ……」



眼の前が一瞬真っ白に染まり、画面の中央がゆらゆらと揺れたように見えた。


それが近づいてきた蛇の口から放たれた紅蓮の炎だと気づいたのは、サードアイの周りの物が一気に燃え上がり始めた時だった。



「のわーっ!! 火ぃ吹かれてるーっ!」


『ええっ!? 何でだよーっ!? ステルスは動いてるのに!』


「大丈夫だから! 大丈夫! 大丈夫!」


「撃っていいの!? これ撃っていいの!?」


「撃っていいけど落ち着いて!」



どうしようもなくうろたえる俺の顔を、膝に座ったマーズの手がぴしゃんと叩いた。



「このぐらいの温度じゃ塗装も溶けないから、落ち着いて狙って」


「落ち着いて……落ち着いて……」



俺は息を整えながらビームライフルを構え、蛇の体が二股の首に分かれる前の根本の部分にゆっくりと狙いをつけた。


そのまま深く息を吸って止め、頭の中でことりと引き金を引いた。


瞬間、グワッシャアン!! と爆音が響き、画面全体が土煙で覆われて何も見えなくなった。



「当たった!?」


『……当たってない! 寸前で蛇が避けて左のビルに突っ込んだ!』


「左ぃ!?」



姫の言葉に視線を巡らせると、サードアイの左側からは土煙を割るようにして巨大な蛇の頭が突っ込んできていた。



「おわあああああああああっ!!」



ガゴッ!! と鈍く響いた音と共にサードアイは吹っ飛ばされ、視界がグルグルと回る。


そのまま耳をつんざくような破壊音が響き、飲食店のキッチンらしき場所や蛍光灯の沢山並んだ天井などが一瞬見えた気がした。



「……あれ? 止まった? どうなった?」


「思いっきり吹っ飛ばされちゃったなぁ……」



どこかのビルに突っ込んでしまったのだろうか、サードアイの動きが完全に止まった時には、視界が瓦礫で一杯になっていた。


今俺達が大穴を開けて破壊してきた先からはごうごうと響く風が吹き込んできており、風を受けた周りの瓦礫に霜が降りていくのが見える。



「霜……? これ、テレビで言ってた氷のブレスってやつ!?」


「落ち着いて、大丈夫。宇宙で使うロボットをいくら冷やしたって何のダメージにもなんないよ」



マーズがのんきな感じでそう言うが、絶対見えないステルスを見破り、虎の子のビームライフルも避けた相手なのだ。


俺はなんだかあんまり安心できる気がしなかった。



「それよりさっき、あいつビームライフル避けたって言った?」


『あー……仮説だけどさぁ。あの蛇、もしかしたら荷電粒子そのものを感知できてるのかも』


「ああ、たしかにそれならステルスを看破できてもおかしくないね」


「荷電粒子って何?」


「トンボがビームって言ってる奴の中身かな。ステルス系の根幹技術にも使われてるんだけど」


「え? じゃあビーム効かないって事?」



サードアイ、ビーム兵器しかついてないんですけど。

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