第31話 曹長と姫と配達野郎Aチーム
24年1月16日より、Ver.1を削除してVer.2への更新を行っております。
2月9日に発売される書籍版第01巻の続きはVer.2準拠で更新していきます。
書籍には書き下ろしが沢山載っておりますので、どうかよろしくお願い致します。
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「一個一個解決していこう」
「賛成」
「俺もう何がなんだか……」
スマホの電源を切り、俺とマーズはコタツ机の周りにへたり込んだ。
姫だけは桃の皿を片付け、部屋から椅子代わりのバランスボールを持ってきてそれに座った。
「とりあえず、
「まぁ、だからこそ銀河中の組織がみかじめ料代わりに契約結んでて、そのせいで金さえあれば無限に戦争が続けられる状況になってるんだよね」
そんなにヤバい人達なのか……
俺は机の上に放り出された黒い封筒を見つめながら、唾をごくりと飲んだ。
「そういえば、この封筒はなんだったんだろ?」
「開けてみなよ、どうせろくでもないよ」
マーズが嫌そうな顔でそう言うので、俺は恐る恐る封筒の封を開けた。
「あれ?」
封筒を逆さにしてみたが、中には何も入っていなかった。
「入れ忘れかな?」
「入ってたんだと思うよ、多分」
「それって……」
「話がついたから消えたんだよ、中身がね」
「そんなんできたら何でもありじゃん」
「だから何でもアリなんだって。あいつらを縛れるのは契約だけ」
バランスボールの上で足を組んだ姫が、冷めた目つきで床を見つめながらそう言った。
「なんか、ほんとにやばいのに目つけられたんだなぁ……」
「まぁ、やばいのはやばいけど、海賊より全然マシだよ」
「どういうこと?」
マーズはなんとも言えない顔つきのままで肉球でヒゲを撫で付け、パクパクと口を開閉してからゆっくりと話し始めた。
「あー、なんていうか……彼らは書面はもちろん、口約束でも、契約だけは絶対に守るんだよね。そういう意味では銀河中で一番信用のある企業なんだ……俺の古巣なんかよりもね」
「まーちゃんの古巣のマージーハってとこも凄い信用あったんだよ、五百年以上営業してて物資輸送の未配率が二割とかだったんだから」
「へぇ~、日本で言うネコネコ運輸みたいな感じ?」
「うーん、宇宙だと配送業って対海賊の最前線だから、配送野郎Aチームって感じかな。だからまーちゃんの曹長ってのはかなり凄いんだよ」
「まあでも、
肩をすくめてそう言うマーズの背中は、猫のように丸まっていた。
「じゃあ、あのドラゴンぐらいの魔物と引き換えに
「信頼とかじゃなくて、マジでくれるつもりなんだと思うよ。それに関しては」
「そういう意味では本当に、なんならどっかの星の王族なんかよりよっぽど信用できるんだよ。でも、あそこは信用はできても信頼は全くできないの、今回の件も絶対裏があるんだよな~」
姫は器用にバランスボールの上で姿勢を変えて寝転がり、腕を組んだまま天井を見上げてそう言った。
俺もなんとなく姫の視線を追って天井を眺めた。
あ、そうか……俺の居場所がわかってるって事は、ここが宇宙のどこかわかってるって事じゃん。
「あの、提案なんだけど。
「……そんな事、あいつらが素直に教えてくれるかな?」
「絶対無理、あいつら契約外の事は普通に罠にかけてくるから。こっちから何か求めたりしたらこれ幸いとカタに嵌めてくると思う」
「ま、そうだよね」
うーん……百戦錬磨の二人がこんなに警戒する相手なんだから、俺を騙す事なんかそれこそ赤子の手をひねるが如しだろう。
絶対に近づかないようにしよう。
「じゃあとりあえず、あの商会の事は無視でいいのかな?」
「いや、逆にさっさと竜手に入れて宇宙船貰っといた方がいんじゃね?」
「危険性が増えるからトンボには悪いんだけど、できたらその方がいいと思う」
「いや……いいんだよ! だって帰れるかもしれない大チャンスじゃん!」
なんだか申し訳なさそうにそう言うマーズに、俺はなんだかいたたまれたなくなってしまって慌ててフォローをした。
あのドラゴンともう一回戦えって言っているようなものだ、俺がマーズだって言い難いだろう。
だが俺は眼の前の猫型宇宙人を、彼の望みどおりに絶対に故郷に返すと心に決めていた。
これはマーズへの同情とかではなく……
俺が自分のために決めたことなのだ。
俺が決意も新たに一人で頷いていると、マーズはなんだか複雑そうな顔をして「そうじゃないんだ」と答えた。
「あの商会がこんな辺境の大学生にわざわざ損のなさそうな形で売り込みしてきたって事は、絶対に何かでっかい裏がある。その時、地上に釘付けだと本当にまずい事になりかねないんだ」
「あ、うん……」
「だから宇宙船は、トンボと姫のためにも今手に入れた方がいいと思うんだよ」
「たしかにそうかも……」
なんか、俺だけ気持ちが空回りしてたみたいで逆に恥ずかしくなってきたな。
「姫も同意見、絶対に何かある。あいつらの利益への嗅覚はヤバい。レベル四と持ち上げながら、トンボを獲得にかからなかったのが一番引っかかる」
姫は腕を組んだままバランスボールからずり落ちるように床に下りて、吸い込まれそうな金色の瞳で俺を見た。
「トンボ。あんた、本格的にロボット作ってよし」
「えっ? いいの? ていうかまだ魔石集めてる途中だけど」
「姫も手伝うから、さっさと魔石集めきっちゃお。さすがにパワードスーツだけで怪獣退治は危険すぎ、レーザーキャノン装備の元主戦兵器持っとけば死亡リスクも低減できるっしょ?」
ロボット作っていいのは嬉しいけど、前の竜退治はほぼ生身だったんですけど……
「とにかく、
「トンボの能力にもあんまり頼りきりにならない方がいいかもね」
「それに関しては保留かな、正直いざって時のための製造材料としての
宇宙の金塊、
あ、ていうかスキルの事聞いとかなきゃな。
「あのさ、俺のスキルの事なんだけど。スキルレベルって一体何なの?」
「ああ、そういえばこの星はそういう学問も全然進んでないんだっけ?」
俺がうんと頷くと、姫はジャージを引き上げながらあぐらをかいて、俺の額に指を向けてこう聞いた。
「んとね、トンボって
「え? そりゃ、便利なもの?」
自分が目覚めるまでは、遠い世界の話でもあった。
学校の友達と「もし自分にスキルがあるならどんなのがいい?」と話したのは俺だけじゃあないだろう。
ちなみに俺は何でも治してしまう治療の力が欲しかった。
横向きに生えた親知らずがあって、歯医者に行くのが怖かったからだ。
「じゃあ、人間がなんでそんな物を使えると思う?」
重ねてそう聞く姫に、俺はうーんと唸りながら、持っている限りの薄い知識を吐き出した。
「たしか外国とかでスキル持ちを解剖した国とかもあったけど、普通の人と何も変わらなかったって聞いた事ある。だからなんかその、魔法的な、マジカルな物なんじゃないの?」
なんとも纏まらないその言葉に、姫はウンウンと頷いた。
「それは正解でもあるし、間違いでもある。
「え? そうなんだ! じゃあ、俺は前世からこのスキルを使ってたって事?」
「そう。だから多分、
前世か、前世ね、あんまり知りたいとは思わなかったんだけど、急に足を掴まれた気分だな。
パッとしないぐらいならまぁいいけど、人の恨みを買いまくった大悪党とかだったらどうしよう……
なんて事を考える俺の目の前に、姫は左手の中指と人差し指と親指の三本を立てて説明を続けた。
「普通、
そう言って姫は親指を折り、手をチョキにした。
「ただレベル二でも制限はあるけど同じような事ができる人がいて、姫はトンボもそうだと思ってた」
「俺のジャンクヤードって、レベル四なんだっけ? レベル四のマーケットスキルってどんな感じなの?」
姫はチョキにした左手の隣に同じ形で右手を出し、ダブルピースで四を表した。
「うーん、レベル四以上の
「えっ? そうなんだ?」
がーんだな。
ようやくこのスキルの詳しい使い方がはっきりすると思ったのにな……。
「なんか俺のスキル、イマイチ使い方がはっきりしないというか、ずっと手探り感があるんだよなぁ……」
「傍から見てたら身の回りのもの何でも入れとける箱って超便利だと思うけどね」
「そーそー、しかもそれのおかげで姫とも出会えたんだぞ」
「俺ともね」
「ま、それもそうか」
たしかにこの二人と出会えたのは、このジャンクヤードのおかげだ。
それによくわかんないけど、凄くないよりは凄いほうがきっといいに違いない。
俺は
なんだかどっと疲れが来て、そのまま床に横になって目を閉じる。
ふにふにと肉球のようなものが額を触る感覚に擽ったさを覚えながら、俺は考え事をする間もなくすぐに眠りへと落ちたのだった。
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