【未完】男女比の狂った世界で愛を振りまく

第49話 父の暮らし

「うーん。やっぱり、ダメみたいだ」

　念のため父さんに電話してみたけれど、つながらなかった。タイミングが良ければ父さんが電話に出ることもあるけれど、今日はダメのようだ。なので、実際に会いに行って話すしかないだろう。

　ということで、父さんが暮らしている家に一人で行ってみる。

　目の前にあるのは、見上げるほど大きなマンションだ。外観も非常に高級そうで、用事が無ければ近寄るのを躊躇ってしまうような場所だった。ここに父さんが一人で住んでいる。

　実はこのマンションは特殊で、とある条件を満たした人しか住むことができない。その条件というのは、一人以上の息子が居る男性のみ。

　僕という息子がいる父さんは、このマンションに住む資格があるということだ。

　エントランスに入り、部屋の番号を押してインターホンを鳴らしてみる。しかし、反応がない。

「こっちもダメか」

　父さんが外出するのは稀なので、おそらく部屋の中に居ると思うんだけど。

　もう一度押してみるけど、結果は同じで反応がない。ここもタイミングが良ければ父さんが出ることもあるけれど、やっぱり今日はダメのようだ。

　仕方がないので、いつもの手段で行くことにする。僕は、エントランスの受付で待機していたコンシェルジュの女性に近寄って、話しかけた。

「すみません。いつものお願いできますか？」

「はい、いつものですね」

　僕がそう頼むと、彼女は慣れた様子ですぐに対応してくれた。

「今日も、お父様に会いに来たのね？」

「はい、そうです。ちょっと、父さんに話しておきたいことがあるので」

「なるほど。だけど君は、男の子なのに頻繁にお父様に会いに来て偉いわね」

「家族ですから。会わないと心配にもなりますし」

　１ヶ月に１回ぐらいのペースで父さんに会いに来ていた。僕にとっては頻繁だとは思えないような間隔だけど、他の人からするとそうでもないらしい。

「そうね。お父様も、きっと喜ぶわよ。それじゃあ、この書類に記入して」

「わかりました」

　コンシェルジュのお姉さんから渡された紙に、必要な項目を書いていく。名前とか電話番号を書いてから学生証を提示して、部屋に入るための手続きを行った。

　面倒だけど、この手続きしないとマンションの中に入ることが出来ないから仕方ない。部屋の中に居る父さんが応答してくれたら、こんな面倒な手続きをする必要もないんだけどなぁ。

「それじゃあ、スペアキーをどうぞ」

「ありがとうございます」

　手続きが終わって、父さんが生活している部屋のスペアキーを受け取った。

「そのスペアキーは帰る時に、必ず返してください」

「わかりました」

　今までスペアキーを返し忘れたことはないけれど、忘れないように注意しないと。もし返し忘れたり、失くしてしまったら大変らしいから気をつけないといけない。

　１階にある自動扉を受付で開けてもらってから、エレベーターに乗り目的の階へ。誰もいない静かな廊下を少しだけ歩き、スペアキーで部屋の扉を開けて中に入った。

　玄関から広々とした空間だった。照明が明るく室内を照らしていて、靴の脱ぎ履きも楽々と行える。

　とても一人で暮らしている部屋とは思えない豪華な作りになっていた。部屋の広さも、かなりある。１０人の大家族だとしても、余裕で暮らせるぐらい広い。

　これだけの広さ。一人で暮らしているのが、もったいないと思ってしまう。

　部屋の中にある長い廊下を歩き、リビングへ入る。テレビとテーブルとソファーが置かれているだけの非常にシンプルな内装。あまり生活感が無くて、なんだか寂しい印象を受けるような部屋だった。

　そんなリビングのソフィーに座ったまま、テレビもつけず静かにボーッとしている人の姿が見えた。

「父さん」

「……ん？　あぁ、直人。来たのか」

「うん、そうだよ。久しぶり」

　声をかけると、父さんはゆっくりとした動作で顔を少しだけ僕の方へ向ける。わずかに反応してから、すぐ前を向いてボーっとするのを再開した。

　いつもの様子だった。

「ちょっと、父さんに話しておきたいことがあって来たんだ」

「……どうした？」

　ボーっとしているけれど、返事はしてくれる。あまり興味がなさそうだけど、僕の話は聞いてくれそうだった。

　なので僕は、父さんの横に座って話を続けた。