第26話 雑談配信4 ※天川有加里視点

 見られていないと思っていた。こんな雑談配信なんて、女性しか見ていないという固定観念があった。だけど、返ってきたメッセージには見ているという文字が。彼に見られていたのか。聞かれていたのか。いつから私の配信は見られていたのだろう。とんでもなく恥ずかしい。


チャット欄▼

:どうしたんだ?

:画面を戻して

:何があった

:急に叫ぶな

:怖っ


 私の叫び声に、チャット欄が何事かとザワつく。でも、私はそれどころじゃない。見られたのだ。何か、変なことを話していなかったか。彼にとって迷惑になるようなことは言っていなかったか。配信内容を振り返る。


「……」


チャット欄▼

:黙るな

:放送事故

:本当に何があった

:おーい!

:心配だぞ


 しばらく考え込んでいると、チャット欄に心配する声がチラホラと上がる。これは説明しないとダメだな。


「ごめんなさい。実は、彼からメッセージが返ってきて」


チャット欄▼

:どうだった?

:反応は?

:大丈夫そう?

:返信早いね

:驚いたということは?

:危ない感じか


「いや、えっと。つまり、この配信を彼も見ているらしくて」


チャット欄▼

:マジで?

:え、これを?

:ここに男性の視聴者が居るというのか!?

:うぉぉぉぉ! すげぇぇぇ!!

:このコメント見てるー?

:何か反応してー!

:チャット欄、キモすぎだろ

:まさか男性リスナーがいるなんて……

:いやいやまさか

:こんなの見せちゃダメだよ教育に悪い


 彼が配信を見ているらしいことを伝えると、チャット欄が騒然とする。書き込みの量が増えて、チャット欄が次々と流れていく。すると、手元のスマホが震えた。


「あ、また」


 彼からメッセージが送られてきた。こんな内容が書かれていた。


『チャット欄が盛り上がっていますね! 凄い。視聴者が2000人も居ますよ』


 確実に配信を見られている。チャット欄の盛り上がりに関して言われて、視聴者の数も把握されている。というか、いつの間にか視聴者数が2000人を超えていた。本当に凄いな。


 だけど、この結果は私の実力ではない。直人くんの存在が、これだけ多くの視聴者を集めて、チャット欄を盛り上げている。私は、彼女たちに伝えているだけ。現状について正しく把握しておかないと、調子に乗ってしまいそうだ。落ち着いて、配信を続けないと。


「彼から、またメッセージが送られてきたよ。視聴者も喜べ。チャット欄もバッチリ注目されてるから」


チャット欄▼

:本当に見られてるの!?

:危ないコメントをしないように気をつけないと

:うわ、なんか緊張してきたな

:見られているだけなのに、なんだこれ

:興奮している自分がいる

:お巡りさんこっちです

:迂闊にコメント出来なくなったじゃないですか!?

:この配信、ヤバくない?


 更に盛り上がりを見せるチャット欄を横目に、私は彼にメッセージを返す。かなり落ち着くことができたので、ここは無難な返事をしておこう。


『配信を見てくれてありがとう。君のおかげで、配信でも色々と話すことができた。感謝しているよ』


 即座に、彼からメッセージが返ってきた。本当に反応が早い。


『いえいえ、どういたしまして。これ以上は配信の邪魔になってしまうかもしれないので、返信は不要です。配信、頑張ってください! また、暇な時に2人でお話しましょうね』


 とても丁寧な返事だった。返信は不要と書かれていたので、私は既読だけ付けるとスマホを置いた。そして、彼に言われた通り配信の方に集中する。


 また、彼とお話をするチャンスがある。しかも、2人だけで。向こうから提案してくれた。その約束だけで、いくらでも頑張ることが出来そうだ。どんどん、やる気が出てきたぞ! 


「戻ってきました。これで見えてるよね」


チャット欄▼

:見えてる

:見えた

:遅かったな

:なんか元気になった?


 蓋絵を外して、配信画面に私の姿が映るように設定した。しっかり見えているようなので、良かった。


 でもまあ、配信で話そうと考えていたことについては既に話し終えていた。後は、この配信を締めるだけかな。


「ということで、みんなに話したかった出来事については伝えたかな。今日の経験を活かして、これから新しい動画を投稿する予定だから楽しみにしておいて」


チャット欄▼

:もう配信を終わるのか

:なんか声が無駄に元気じゃない?

:ウキウキやん!

:配信活動にやる気が出てきた?

:最近、やる気なかったけど大丈夫そう

:そんな体験があれば、私だって頑張れるのに

:新しい動画、楽しみにしてる

:はよ投稿しろ

:待ってるよ


「では、お疲れ様でした。またお会いしましょう、バイバイ」


チャット欄▼

:お疲れ様でした

:おつかれさま

:楽しかった

:おつ

:またねー

:面白かったよ


 簡単な挨拶を済ませる。配信終了のボタンを押して、完全に終了したことを配信のページを見て確認。カメラの電源を落としてから、配信結果をチェックする。多くの人達が配信を見に来てくれたようだ。


 こうして、直人くんと出会ってから行った私の配信は大成功した。彼に関する話を多くの視聴者たちが望んでいた。彼のおかげで、私は人気者になれたのだ。感謝してもしきれなかった。もっともっと感謝しないと。


 そして、これから私の配信は更に盛り上がっていくことになる。

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