第21話 ファミレスで ※天川有加里視点

 悩みながら散歩している間に、私はかなりの距離を歩いていたようだ。落ち着いて話せる場所を探そうとした時に気が付いた。


 幸い、すぐ近くに良さそうなファミレスを見つけた。そこに2人を連れて行って、一緒に入店する。


 背もたれのあるテーブル席に案内されて、私は彼と向かい合って座った。斜めから女子生徒に睨まれる位置。


「さぁ、遠慮せずに注文して」

「直人。せっかくだから、あの女の財布にダメージを与えるぐらい頼みなさい」

「え? いいのかな?」


 目の前で、そんな会話をする2人。そして、彼のほうがチラッと私の顔色を窺う。遠慮せずにと言ったので、もちろん好きなように注文させるつもりだ。


「どうぞどうぞ、好きなように」

「それじゃあ、コレとコレと―――」


 メニュー表を開き、次々と料理を選んでいく彼。え、そんなに食べるつもりなの。食欲旺盛な女子中高生の三人分ぐらいありそうな量だけど。彼は食べ切れるのかな。


 彼の横に座っている彼女は、その注文量でも問題ないだろうという感じで受け入れているけれど。


 そして彼は、テーブルに運ばれてきた料理を次々と美味しそうに食べていく。その食いっぷりは、見ていて爽快感があるほどだった。こんなに大食いの男性を見るのは初めて。本当に、よく食べる男の子だ。


 食事しながら、お互いに自己紹介した。七沢直人くんと森住麻利恵ちゃん。2人はクラスメイトで、しかも幼馴染らしい。彼らの話を聞いたら、心の底から羨ましいと感じるような関係だった。


 自己紹介した後、私は自分の悩みについて彼らに打ち明けた。動画配信者である私は最近、なかなか上手くいっていないこと。動画の企画や雑談のネタなど、今までに何回も試行錯誤を繰り返していること。それでも、なかなか良いアイデアが浮かばなくなってきた。そういったことを、洗いざらい話したのだ。


「それで、これが私のチャンネル」


 スマホに自分のチャンネルページを表示させて、彼らに見せた。ここまでさらけ出したのは、今回が初めて。友人はもちろん、親にも見せたことがない。全てを見てもらおうと、そういう覚悟があった。


「WeTubeですね」

「知ってるの、直人?」

「うん。たまに動物の動画とか見てるんだよね」

「へぇ。私は、見たこと無いなぁ」


 直人くんは、ペット系の動画をよく見ているらしい。ペットと暮らす日常生活の様子を撮影した動画は人気だと聞いていたけれど、男性も見ているようだ。


 麻利恵ちゃんは、あまり興味がないみたい。男性に関するコンテンツが数多く公開されていて、女性が見れば存分に楽しめるサイトだというのに。身近に、直人くんという素敵な男性が居るから、彼女には必要ないんだろう。あぁ、羨ましい。


「男性に関する妄想? 付き合ったら行ってみたいデート? なるほど」

「ふーん。妄想、ねぇ」


 ぐうっ。私の動画のサムネをくだらない、というような視線で麻利恵ちゃんは見ていた。恥ずかしいし、羨ましい。直人くんが居るおかげで満たされている彼女には、理解できないのだろう。この私の、飢えた気持ちを。


 逆に、直人くんは興味津々だった。その反応も、ちょっと恥ずかしい。そんなに、まじまじ見られると照れてしまう。


 恥ずかしい気持ちを隠しながら、動画について軽く説明していく。それを、熱心に聞いてくれる直人くん。まさか、男性に自分の妄想について話す時がくるだなんて。これは、とても貴重な体験だった。しかも、色々と意見を話してくれた。


「このデートプランは面白そうですね!」

「欲望の薄い男性が多い世の中だから、この辺りから攻めていくのが良いかも?」

「僕は食べるのが好きなんで、僕のイチオシはこのデートプランです!」

「これはちょっと距離を詰めすぎかも……? 十分に関係が深い相手だと、良いかもしれませんね」

「このプランは、この部分を変えると面白いかも?」


 彼の言葉を聞き逃さないように集中して聞きながら、私は何度も頷いた。


「なるほど、なるほど!」


 私の妄想に対して真剣にアドバイスをしてくれて、好みのプランまで教えてくれる直人くん。思わず聞き入ってしまう。リアルな男性からの意見を聞いて、私は今までに無いほど強烈な刺激をもらった。


 今の私なら、どんどん妄想が捗りそう!

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