第18話 ネタ切れ ※天川有加里視点

 直人くんが配信に出演してくれることになった一ヶ月前、私は彼と出会った。


 その時、私は悩んでいた。動画の企画や配信で話すネタが、ついに尽きてしまったから。


「あぁうぁぁ、どうしよう……」


 とりあえず、外に出て歩いてみた。行き詰まった時、散歩したりすることで生産性が高まると聞いたことがあったから。これで、何か思いつかないだろうか。


 しばらく、自宅の周りを歩いてみた。けれど、駄目。何も出てこない。


「うーん」


 今までに何度もネタに困ってきた。ギリギリに追い詰められた時、突然アイデアが降ってくる。そして、急いで収録したり配信したり。なんとか間に合わせてきた。


 だけど今回は、一週間ほど何も思いつかない。今までにないくらい追い詰められている。本当に、何も降ってこない。


 学生の頃から、ワチャワチャ動画というサイトでライブ配信を行ってきた。その時は、雑談で好きなことだけ話していた。学校であった出来事、流行っているドラマや映画、音楽の話など。その頃の視聴者数は数十人ほど。


 それから、男性についての妄想の話。理想の男性像や、想像デートプラン。男性とお付き合いする場合にどんなことをしたいのか。そういう話ばかりしていた。


 男性コンテンツは、とにかく人気だった。私の雑談なんかでも、じわじわ視聴者が増えていった。そして長く続けてきたからこそ、それなりにファンも出来た。


 高校を卒業する数ヶ月ほど前。将来どうしようか考えていた私は、WeTubeという動画配信サイトに移って収益化を狙ってみた。定期的に動画の投稿と配信を続けて、チャンネル登録者数を増やすことに挑戦してみた。


 その結果、無事に収益化することに成功した。


 妄想デートプランの動画が注目を浴びて、今まで応援してきてくれたファンも多く居て、動画配信だけで食べていけるぐらいの収入を得ることが出来た。


 高校を卒業してから、私は動画投稿と配信に専念した。動画配信者となったのだ。


 最初は順調だった。続けていくことが、とにかく大変だった。毎日、色々な企画を考えて動画を投稿した。雑談配信も繰り返した。


 最近、動画がマンネリ化していると言われるようになった。なかなか思うようには登録者数を増やすことが出来ず、動画の再生数や配信のリスナーの数も微減している状況になってきた。それでも、なんとか必死に続けてみた。


 けれど、動画や配信の新たなアイデアが尽きてしまった。次に何をすればいいのか思いつかない。


 最近は、ゲーム実況などが盛り上がっている。だけど私は、雑談メインで活動してきた。ゲームのプレイが上手いわけじゃないから、新たなファンを獲得するのは難しいだろう。


 男性に関する嘘の話を作って、配信で話そうか。それは、絶対に止めたほうが良いだろう。嘘だとバレた時、炎上しそうだ。今までに何度か、そうやって失敗してきた動画配信者を見てきた。それに今まで私は、妄想話という前提で話をしてきた。それを崩してしまうと、ヤバいことになるのは理解できる。


 嘘の話が駄目なら、本当の話はどうだろうか。どうにかして男性と出会って、その内容を動画や配信で話す。だけど、どこで男性と出会えばいい?


 政府の子作りサービスを利用して、それをネタにして話そうかな。それも駄目だ。あれを利用すると色々と制限があって、サービスを利用した時の様子や内容を勝手に配信で話したりするのは禁止されていたはず。それで、アカウント停止されたという話も聞いた。


 それ以外で、男性と出会える機会なんてめったに無い。どこに行けば、私なんかが素敵な男性に出会えるというのか。


 やっぱり、何も思いつかない。これは、とうとう動画配信者を引退するべき時期ということなのか。


 だけど、動画配信者を辞めて何をするのか。今までにアルバイトすらしたことない私が、やれる仕事なんてあるのだろうか。


「うぅわぁぁ、どうしよう……」


 先が見えず、明るい未来も描けない。不安に押しつぶされそうになって、私は道の真ん中でしゃがみ込み、頭を抱えた。その時、誰かの声が聞こえた。


「大丈夫ですか? どこか具合が悪いんですか?」

「え?」


 その時に声をかけてくれたのが、彼だった。

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