第15話 印象が変わる ※市本花怜視点

 助手席に座る彼は、とても積極的に話しかけてくれた。車を慎重に走らせながら、私は彼と会話した。プライベートなことを色々と聞かれて、向こうも隠さずに色々と教えてくれた。常に笑顔で接してくれて、女性に対する警戒心が薄い。大丈夫なのかと心配してしまいそうになるくらい。


 このまま目的地を変えて、私の自宅に連れて帰ってしまおうか。家に閉じ込めて、外に出られないように監禁する。そうしたら、ずっと一緒にいられる。それが可能な状況だと思う。


 いやいや、絶対にやらないけれど。犯罪だから。男性を誘拐するだなんて、非常に重い罪になるから。犯罪じゃなくても、やっちゃダメだろう。彼を怖がらせるなんてダメだ。だけど、ちょっと考えてしまうぐらいには魅力的な彼。


「ここね」

「あ。もう、到着しちゃいましたか」

「道が空いていたから」

「そっか」


 目的地に到着した。彼と会話したり考え事をしていたからなのか、あっという間。早く到着することが出来て、良かったと思う。非常に危ない思考が漏れそうになっていたから。気をつけないと。


 先に車から降りた私は先回りして、助手席のドアを開ける。そして、彼が頭を当てないように補助してあげながら、丁寧に車から降ろしてあげる。


「どうぞ」

「ありがとう」


 何かの本で読んだ、男性をエスコートする方法を思い出して実行してみた。


 こうすれば男性にモテるらしい。この知識を活用する場面に、今まで遭遇したことがなかった。今回が初めてだ。さりげなくエスコートすることが出来たのだろうか。それは、分からない。


 だけど、彼は笑顔でお礼を言ってくれた。この方法で正しかったんだと思う。




「わぁ! かわいい」


 あれは、この施設のマスコットキャラクターか。駐車場から歩いてくると、そこに全身緑色で口の大きな狸が立っていた。あれが可愛いのだろうか。私には分からない感性だった。もしかすると、男性だけが理解できる可愛さなのかな。


 七沢くんは喜んでいるようなので、まぁ良いか。彼が楽しんでくれているのなら、それが一番だ。


「写真、撮ってもらいましょう!」

「あ、うん」


 手を握られる。非常に距離感が近い。今までにない近距離だった。こんなの夫婦の距離じゃないか。私達って、もしかして夫婦だったのかもしれない。そう錯覚をしてしまいそうなほど、彼の方からグイグイ来てくれた。


 いやいやいや、勘違いしちゃだめだ! 調子に乗って私から接近しようとしたら、嫌われてしまうかもしれない。とにかく冷静に、落ち着いて行動しないと。


「ありがとうございます!」

「いえいえ。ぜひ、楽しんでいってください!」


 七沢くんが、公園のスタッフと楽しそうに会話していた。写真を撮ってもらって、感謝しているだけ。それは分かっている。だけど、モヤモヤした気持ち。私以外に、話しかけてほしくない。一瞬で、そんなことを思ってしまう。


「さぁ、中に入りましょう」

「そうだね」


 だけど、すぐに七沢くんが戻ってきてくれて機嫌が良くなった。とても単純な私。先程のスタッフが、私を睨んでいるのがわかる。せっかく楽しく会話していたのに、邪魔だと思われているのだろう。公園のスタッフという仕事も放棄して、男の子との会話を優先する。なるべく長く、話したいと思っているはず。女性は常に、男性との触れ合いに飢えていた。


 入場料を支払い、公園の中に2人で入る。


 彼が訪れてみたいと言っていた公園を、私も一緒に見て回る。彼は本当に楽しそうな笑顔で、様々なものに興味を示していた。男の子が、こんなにはしゃいでいる姿を見たのは初めて。彼を連れてきて本当に良かった。楽しんでくれて、私も嬉しい。


「面白いですね」

「あぁ。なかなか、興味深いね」


 普段は訪れないような場所だった。彼が連れてきてくれたから、この場所を訪れることが出来たのだ。来てよかったと思う。七沢くんが一緒だったら、どんな場所でも来てよかったと思えるだろうけど。


 しばらく、七沢くんと一緒に歩く。結構歩いたけれど、彼はまだ元気そうだった。健康的な肌で、意外と体が頑丈なのかもしれない。体力もありそうだ。


 私が今まで見てきた男性は、かなり色白で細かった。とても弱々しくて、ちょっとしたことで壊れてしまいそうな人ばかり。でも、目の前にいる彼は違った。健康的で、しっかりとした体つきをしている。筋肉がしっかりしていて、運動も出来そうだと予想できる。彼のように素敵な男性の子を産みたいと、本気で思った。


「ちょっと、歩き疲れましたね」

「ん? そっか。えーっと、どうしようかな」


 やばい。歩き疲れてしまったことに気付くべきだった。元気そうに見えていたが、やっぱり彼も男性だったのか。女性である私が、ちゃんと気遣ってあげないといけなかった。とにかく、どこかで休憩しないと。


「あそこにカフェがありますよ。あそこに入りませんか?」

「そうだね。そうしょう」


 彼の提案に、私はすぐに賛成した。ちょうどいいタイミングでカフェがあったので助かった。あそこで、七沢くんを休ませてあげよう。

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