第6話 映画館デート2 ※森住麻利恵視点
直人と二人で電車に乗って、映画館のある場所まで向かう。
本当なら、目的地までは車かタクシーなどに乗って連れて行ってあげたいけれど。私は運転免許証を持っていないし、タクシーで行けるほど所持金に余裕がなかった。なので仕方なく、電車に乗っていく。
今日は休日で、乗客も多い。席は全部埋まっていた。ドアの近くに立って、直人が他の乗客のイヤラシイ視線に晒されないように立ちふさがって守る。
「映画、楽しみだね!」
「う、うん」
そう言って、笑顔を浮かべて私に密着してくる直人。彼の魅力的な匂いが分かってしまうぐらいの距離感。思わずドキドキしてしまう。
……あぁ、もう! 可愛いなぁ。なんでこんなに可愛く生まれてきたんだろう? どうして、こんなにも私の心を揺さぶるのか。
やばい。こんな変態的な思考をしているなんてバレてしまったら、彼から嫌われてしまうかもしれない。だから、顔には出さないように気をつける。
電車に乗っている間中、ずっと直人はニコニコしていた。その表情を、私はずっと飽きることなく見ていられた。
「この駅で降りるんだね」
「うん」
あっという間に目的の駅に到着して、私たちは電車から降りた。改札を抜けて駅の外に出ると、すぐに映画館があるビルが見えてきた。
歩いていると、周囲の女性たちが直人に注目しているのが分かる。そして、一緒に居る私を睨んだりする人も居た。嫉妬だ。彼のような素敵な男の子と楽しそうにしている様子を見たら、そんな反応をしてしまうのも理解できる。逆の立場だったなら、私だって睨む人になっていたかもしれない。
「上映時間は、まだ大丈夫かな?」
「大丈夫」
「売店は、あっちだ」
「うん」
映画館に到着した。チケットは既に購入済みだったので、後は席に行くだけ。上映の時間まで、売店で何か買うことに。
「ポップコーンとコーラだね。前に、麻利恵から教えてもらったことを覚えてるよ。カフェインレスの飲み物と塩分を摂りながら映画を見ると、途中でトイレに行かなくても大丈夫なんだよね」
「うん。そうらしいね」
前に私が彼に話した知識。私が映画館で映画を見るときに実践しているトイレ対策を、しっかり覚えていてくれたらしい。そして今回は、一緒に実践してくれる。
「あ。私が払うよ」
「ありがとう!」
彼の分も支払う。ちゃんと女性らしく振る舞えただろうか。ポップコーンとコーラを購入してから、席に向かった。
「ちょっと待って。上映前に、トイレに行っておくよ。トイレ対策を万全にね」
「え、えぇ」
そう言って、男子トイレの前まで一緒に行く。
「ここで待ってて。すぐに済ませてくる」
「う、うん。あんまり慌てなくても大丈夫。上映時間まで、まだしばらく時間があるから」
「わかった」
購入したポップコーンとコーラを任されて、彼は男性用のトイレへ入っていった。トイレの前で待たされている間、とても気まずい。男子トイレの前に立っていたら、勘違いされないだろうか。別に、中を覗くつもりなんて一切ない。だけど、なんだか前に立っているだけで緊張してしまう。
早く帰ってきほしいけれど、ゆっくり落ち着いて済ませてほしい気持ちもあった。男性のトイレって、どれぐらいの時間が必要なのか。いやいや、そんなこと考えたらセクハラになってしまうかも。絶対に口に出してはいけない。気をつけないと。
「おまたせ。預かってくれて、ありがとう」
「い、いえ。全然、大丈夫」
どれぐらい待っていたのか分からないけれど、直人が戻ってきてくれた。預かっていたポップコーンとコーラを返す。
「麻利恵もトイレに行っておく?」
「う、うん。そうしようかな」
「じゃあ、今度は僕が預かるね」
「おねがい」
そして、今度は私が女子トイレに入る。彼を一人だけで待たせるのは危険なので、急いで済ませる。一応、鏡の前で身だしなみを数秒だけチェックして整える。
髪よし。服装よし。化粧も崩れなし。すぐに終わらせて、トイレから出た。
「おまたせ」
「じゃあ、席に行こっか」
「うん」
事前に購入していたチケットを直人に渡していて、上映スクリーンの中に入った。予約していた座席に座り、上映が始まるのを待つ。
「良い席だね。真正面にスクリーンが見えるよ」
「うん。見えやすいね」
「上映前のCMとか、結構好きなんだよね」
「私も。あと、新作映画の予告とか」
「うんうん! それも面白いよね」
他の人の迷惑にならないように顔を近づけて小声で会話する。それだけで楽しい。
しばらくして館内が暗くなり、予告編が始まった。そして、本編が始まる。直人はスクリーンに釘付けになった。
私は、彼に気づかれないようにチラチラと直人の横顔を見ていた。
実は今回見る映画は、私は既に鑑賞済みだった。公開日当日に見に行って、今日が二回目の鑑賞になる。
前回見たときは、ただ映画の内容を楽しむだけだった。でも、今は違う。隣に居る彼と一緒に見たいから、もう一度見に来たのだ。
楽しそうにリアクションする彼の様子を楽しむ。驚いたり、ワクワクしたり、感動したり。彼の楽しんでいる反応が可愛くて、私まで嬉しくなってしまう。
「……すごい! ……面白かった!」
あっという間にエンドロールが流れ始めて、場内が完全に明るくなると直人は興奮しながら言った。私は、その言葉を聞いて心の中でガッツポーズをする。
良かった。どうやら満足してくれたみたいだ。ホッとする。
「そうだね。とても面白かった」
「だよね!」
私も十分に楽しんだ。これから、映画を見た感想を彼と語り合いたい。
「この後、どこか寄り道したい場所はある?」
「うーん……。どうしよう」
映画館を出て、彼に問いかけられた。一応、プランは考えている。だけど、それを言うかどうか一瞬迷ってしまった。ここまでは順調だったけれど、次は成功するのか分からない。失敗したくない。どうしよう。
「じゃあさ、ちょっと行ってみたい料理店があるんだけど。一緒に行ってくれる?」
「え? あ、うん。大丈夫だけど……」
「じゃあ、行こう!」
直人はそう言って、私の手を引いて歩き始めた。行きたい場所があるらしい。私の考えていたデートプラン通りには、ならないようだ。やっぱり、うまくは出来ない。そして、これから私はどんなお店に連れて行かれるのだろうか。心配になってきた。
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