第68話~フランス到着~
我! 到着ぅぅぅ!!! ついに来ました海外です。結構長い時間飛行機で飛んでたから暇だったし飼馬食べてたら全部無くなってたんだが? まぁある分だし食べても大丈夫な量だろうし問題なし!
「こいつ、マジで輸送知らずの食いしん坊だな」
お、懐かしいあだ名。最初に沢村さんが付けてくれたんだよな。失礼だよ全く……。いつもお世話やパドック中も傍にいてくれてありがたい。影は薄いけど横川さんと同じぐらい、感謝してるんだぜ?
「ぬぉぉぉ!? 急に舐めるなよ!」
『ファファファファ!』
「こいつ~!」
「なぁに遊んでんだお前らは。にしてもフランスに着いたばっかだってのに元気だなファーは」
荻野さん! てかここフランスなんか。フランスと言えばフランスパン! クロワッサンにポトフ! クイニーアマン! ナポリタン……じゃなくてナポレオンも有名!
……食べ物ばっかじゃねぇか。ていうかここまで覚えてるのになんで前世の記憶は思い出せないんだろう。謎だ……。ま、良いか!
「この後は用意されてる現地のトレセンに向かうんだが……こいつ、仲良くやれるだろうか?」
『任せろ荻野さん!』
「いやー、群れに混じるのは無理じゃないですか? 極力顔合わさないようにしないと」
『任せろって沢村さん!』
「「だよなぁ……」」
『酷いぞ2人ともぉぉぉ!!!』
皆にとって俺の評価ってどうなってるんだろうか? あぁ、タガノフェイルドみたいにボス同士で争いが起こるって言いたかったのかな?
別にボスはしたくもないし相手に譲るぞ? でも喧嘩売られたら買うけど。え? おかしいって? うるせぇ舐められたら終わりなんだよ!
『あ、ボス! お疲れ様です』
『おう…………』
いや、違うのよ? 最初に会った馬が威嚇してきたからやり返したの。そしたら勝手にボス扱いされたの。俺、悪くない。
「こいつ……厩舎、美浦トレセンに飽き足らずフランスでもやるのか」
『俺悪くないっ!』
酷いぜみんなして……。ボスってのはみんなを導いたりする存在なんだよ? 俺がなれる訳ないじゃん。タガノフェイルド、カミングスーン。
『何言ってんだお前?』
『おぉ、とうとうフェイの幻影が見えるまでに。よりにもよってアイツとか俺もおしまいだな』
『ぶちのめすぞ!』
『うーん、グルーミングまで再現とは(ハムハム)。中々質感の良い幻影 (ハムハム)』
『久しぶりに会ったと思ったら(ハムハム)、随分な言い草だなおい!(ハムハム)』
「やっぱコイツら仲良いな」
……ん? た、タガノフェイルドやんけ!? 本物っ!? なんでここにいるの? お前もフランス旅行ですか!?
という訳で何故かフランスでもタガノフェイルドと再会した。……お久~、元気しとった? 俺はGI6勝目をあげてまーす(マウント)。
『なっ、こ、こっちだってGI5勝だが? しかも海外の』
『へぇ……俺も今度走る。特徴とかあるか?』
『む? やけに素直な……まぁ良いか。俺が走ったレースは全部が直線だった』
全部が直線!? なんだそのレース! 俺も1回走ってみたい!!! まぁコース自体は直線では無かったらしいが。という事は俺はフェイより長いレースだろうし、コーナーから東京みたいな長い直線があるって事だな。後は任せろ!
『ふ~ん、確かにこりゃ慣れないと走りにくいな……こう、こんな感じ?』
ちなみに芝はやはり違っていた。シャルルゲートの言う通りだ。強いて言えばゼロスと最後に走った札幌記念の所と似てるか? それと雨降った日のドロドロ馬場にも似てるかも。
まぁつまり、いつも走ってるのとは全然違う。こりゃ走り方も気をつけないと危険だな。深く沈むしボコボコしてるから足捻る可能性もあるかも……?
『まぁ良い。見せてやるぜ俺の実力を! 世界に!』
***
「久しぶりだね! ミスターミヤオカ!」
「やぁ久しぶり。元気そうでなによりだよ」
ファーがフォア賞出走を控えた日の前日、シャルルゲートのオーナー、ベスタロン・オーグナーさんが私に挨拶をしに来た。もちろん英語で……。
「早速で悪いがステイファートムの調子はどうだい? ジャパンCの後もGIを4連勝したそうじゃないか! しかもロードクレイアスを倒して!」
「一切問題ないさ。フォア賞で軽く散歩してもらって雰囲気や芝、コースを覚えてきてもらうのが目的だからね」
「HAHAHA! 仮にも前哨戦のGIIフォア賞を散歩コースに認定とは恐れいるな!」
別に冗談ではない。2013年のフォア賞をノーステッキで勝ったオルフェーヴル。あれを超えるパフォーマンスを期待しているのだ。
オルフェーヴルのように去年好走した訳では無い。きちんとフランスにファートムが対応できるかは謎だ。それでも夢を見るのだ。ファートムが世界でいちばん強いという夢を。そもそも、馬主の私が見ないでどうするというのだ。
「それよりもそっちさ。シャルルゲートの方はどうだい?」
「完璧さ。去年をさらに超える。まさに、君たちを迎え撃つに相応しい出来だよ」
「はは、こりゃフォア賞でファートムはノーステッキで流しながら勝ってもらわないとね」
シャルルゲートは前走で7馬身差を出した後に軽い休養に入ってコンディションを整えているとの情報は入っていたがその通りのようだ。先程の夢を口に出す。
「おいおい、今年のメンツを分かっているのかい? 出走メンバー10頭のうちファートムを除いてもGI馬3頭。他の5頭のうち4頭も重賞馬だ」
「凱旋門賞を勝つならそれぐらい楽勝で勝ってもらわないと」
例年ならばフォア賞にGI馬が出るなどあまり前例のない事だ。ただし今年は事情が違う。それは普段はメンバー層の厚くなりやすいGI愛チャンピオンSに原因があった。
僅か半年で世界最強馬に名乗りを上げたイタリアの太陽、オーソレミオ……彼がそこを凱旋門賞のステップアップレースとして出走するとの報が流れると、瞬く間に有力馬がフォア賞にスライドしてきた。
そのせいでフォア賞は例年に類を見ない豪華なスーパーGIIとして話題を集めているんだよね。レース展開によっては負けても良いと言えるメンツだ。
「なるほど。日本馬の実力は世界トップクラスだ。その日本馬にとってもそれほどの壁と認識されているか。確かに過去の名馬を見ても、まるで呪いと呼ばれるほどに勝てていないからね。コースや馬場、その適性だけで半分以上が振り落とされている印象さ」
「あぁ……それでも私は賭けているのさ。ファートムならやってくれると」
「その調子で頼む。寧ろあのメンツを相手に公開調教で物凄いレースを見せてくれることを期待しているよ」
「ふふ、楽しみにしていてくれ。お互いベストを尽くそう」
そう言って私はベスタロンさんと熱い握手を交わした。そして翌日のフォア賞でステイファートムは伝説を残し、世界中から注目を集めることになる。……悪い意味で。
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