第14話~GII弥生賞~

中山競馬場第11R:弥生賞ディープインパクト記念 <GII>(芝・稍重・右・2000m)



《さぁ、戦いの舞台は整いました。未だ冷え込むそよ風が吹く中、皐月賞へ向けて3歳の選ばれし若駒達がしのぎを削ります。


1番人気は2戦1勝ながらGI馬2頭との激しい叩き合いを演じたステイファートム1.9倍です。2番人気に若駒Sを3馬身差で圧勝したサザンプール6.1倍。


さらにホープフルS4着の実績を持つジェミニリスト8.5倍。芙蓉S勝ち馬のデュクシーン9.6倍。ここまでが10倍圏内となっております》


《私は断然ステイファートムですね。その強さはもちろんですが、トウカイテイオーの血筋だったりその可愛さのギャップも含んでます


もちろん、実力も折り紙付きですよ? なんと言っても2歳王者ディープゼロスとハナ差、ホープフルS勝ち馬のロードクレイアスと同着。


さらに前走は4コーナーの中盤から一気に末脚を爆発させて5馬身差の圧勝です。この馬がこの舞台で負けるところが正直想像できません》


《私も実力的にはステイファートムなんですが、あえて今回はジェミニリストを推させて頂きます。


ジェミニリストの父は日本ダービーでステイファートムの父ステイスターダムの3着に敗れたマキシマリストなんですよ


個人的には敗れた父の仇を、その息子が討つと言う形に惹かれております》


《マキシマリストも日本ダービーの3着を最後に引退してしまって悔しかったでしょうね……。あ、そろそろ枠入りが始まりました》



 うぇーい! 今回のレースはGIIだぞ! GIの一個下なんだぞ! 未勝利戦? からいきなりめっちゃ凄い所に来てたけど、俺なら行けるから出してくれたんだよな?


 お、枠入り始まっとるやんけ。今回は暴れとる奴はいないな……皆、ゲートに入るのに慣れてきたんか? ならちゃんとレース出来そうやし良かった!



《最後に大外⑯デュクシーンが入りました。全馬体勢が整いまして……スタートしました! おおっと⑥ステイファートムは⑤シラガネギがぶつかって出遅れだ!?


ハナを奪ったのは⑫ジェミニリストっ! GIの舞台で見せたその粘り強い逃げが今日も炸裂するか!


そこから差が開いて④、⑦が続いて2番人気の⑪サザンプールはここにいました。⑧デュクシーンはサザンプールを見る形!


ステイファートムは最後方! 陣営が想定してあえて下げた前走よりもさらに後ろです。得意な好位差しを封じられた形になったが鞍上横川、ここからどうする!?》



 うぎやぁあぁぁぁあ!? なんか横のヤツがぶつかってきたんけど!? 馬鹿なの!? せっかくの、スタートダッシュが全部パーじゃん!


 うわっ、しかもすぐ急坂があるし!? スタートダッシュ決めれてれば楽に登れたのに! しゃあない、1番後ろから頑張るぞい!



「ファー、焦るな。少しずつ、上げてくぞ」



 おうよ! 前のやつが1頭だけ離れてるのが怖いが、とにかくいつもの位置は無理でもこの前のレース辺りまでは上がってく! 体力はある! ……と思うし!



《第2コーナーを回って、改めて位置を確認していきましょう。先頭はジェミニリスト! そこから6馬身ほど離れた2番手、内に⑦、外④。


そして2番人気のサザンプールはここです。その真後ろでサザンプールに狙いを定めたデュクシーン。


そしてそして──がいまして、じわじわと位置を上げています1番人気のステイファートムはここです。また前の馬に並びかけていく。


そして──がいて、ここに居ましたナムサンストックは最後方。先頭からシンガリまで20馬身以上ある縦長の展開となりました弥生賞も第3コーナーを曲がって最後の直線へと差し掛かります》



 うはぁ、1頭1頭抜いていくって考えるだけで疲弊してきた。別に俺にとっちゃ普通の足を使ってるつもりでも、相手を抜くって意識があるだけで余計な疲労まで溜まってくるな。


 お、大体前回の位置ぐらいまで押し上げたぞ。ん、横川さんなんでまだ押してくるの? まだ行けと!? 疲れたと思うから足残しときたいんだけど……はい、行きまーす。


 お、カーブだ。俺ここ好きなんだよね。他の奴らって回り方が下手くそなの。でもここ、走り方を小刻みに、幅を小さく素早い感じに変えた方が走りやすいんだ。


 また1頭抜き去ったどー! さーて、1番前のやつ今どこにいるのかなー? ……は、おい待てよ!? 俺そこまで届くのっ!? 



「ギリギリ……行けるな、ファー!」



 お、おう! 任せろや! めっちゃ先頭が遠いけどやってるやるよ! GIIで負けてたらGIなんて夢のまた夢なんだからな!



《第4コーナーをジェミニリストただ1頭だけが回ってきたぞぉ! 悠々と一人旅! 中山の直線は310メートルと短いが急坂があります


しかしまさか、まさかの逃げ切り勝ちか!? 1番人気のステイファートムは大外から3番手まで進出してきている!


先頭ジェミニリストの足が急坂で鈍った! 一気に差を詰める2番手サザンプールとデュクシーン! しかし、外から一気にステイファートムだ!


2頭の追い比べをあっさり交わした! しかし前まではまだ5馬身ある! 届くかどうか!


いやこれは届くぞ! みるみる差が無くなってステイファートム来た! ジェミニリストか! どっちどっちだ! ステイファートムか!? ステイファートムだ! ステイファートム勝ったぁぁ!


僅かに、しかし確実に1番人気に見事応えましたステイファートム! あの不利をものともしない強烈な捲りと末脚! 最後はクビ差で差し切ってのゴール!


惜しくも2着に敗れたのはジェミニリスト! そして1馬身差の3番手にはサザンプールが入着です。皐月賞への切符はこの3頭が手にしました!》



 あ、危なかった。マジでギリギリだったぞおい! 最初の出遅れがなきゃ絶対もっと突き放してたのに!



「っぶね……でも、勝った……はは、勝ったぞファー! 次は皐月賞だ! ついにGIだぞ!」



 今日の馬場は稍重って言うちょっと雨で湿った馬場だったから、横川さんは汗まみれ砂まみれだった。それでも嬉しそうに喜んでいる姿を見たら俺としても鼻が高い。


 そうだ、疲れたけどこの前も皆が喜んでくれたアレやるか! 帝王ステップって奴だ! 王者の足だぞ!



《うぉおお! またまたテイオーステップです! 観客の皆さんからはゴール直後と遜色のない歓声が湧いています!》



「ぷっ、はは、ファーも嬉しいか。よしよし、一旦戻ったら表彰式だぞー!」



 馬主席って偉い人がいっぱいいる所から出てきた宮岡さんと調教師の荻野さん、ずっと俺の面倒を見たりパドックで引いてくれる沢村さん、生産牧場の館山さんを合わせた5人で記念撮影。


 その後は表彰式だ。それにしても疲れた~。足に若干の痛みはあるけどこれは筋肉痛……コズミだ。走ったあとは良くなるし、トレーニングと自主トレをやりすぎた時もたまになる。


 さて、次は横川さんが言ってた皐月賞って舞台だ! GIって聞こえたぞ! GI! ついにGIか! いやー早くも母さんと妹ちゃんにGI勝利持って帰れるぞー。


 …………ディープゼロスとロードクレイアス、あの2頭さえ居なければな! タガノフェイルド……フェイの奴とは1回もレースで当たってないし、多分荻野さん達が色々調整してるんだろ。だからアイツのことを考える必要はないな。

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