魔法使い、オフ会に行く。

一都

前編 シューティングスターライト

 俺、真泥女京一マドロメキョウイチは居酒屋の前で待っていた。

超人気ソーシャルゲームのトップ1位から500くらい下に数を数えた位置にいるソシャゲーである時、チャット欄でオフ会に行こうという話になったのだ。最初は行く気がなかったが、決まっていた一人が急遽これなくなったので白羽の矢が俺に立ったため、今日このオシャレな居酒屋の前で緊張して立っているのだ。



 友達って漢字の意味が虚無と同じ意味だと勘違いしているくらいには交友関係がないため、俺は緊張と嬉しさ、そして不安にあふれていた。対人性能低すぎてバイト仲間と昼休憩のご飯を食べた時にする会話も緊張してろくにできないのだ。それを顔も知らない人間同士で集まるなんて狂気の沙汰だと思う。



「あのー。マドロメちゃん一号さんですか?」

「あ、はい!そうです!そういうあなたは、悪の炎を抱いて眠れさんですか?」

「あはは・・、そうです。何かハンドルネームで呼び合うの恥ずかしいですね」

「そうですね!恥ずかしいです!」

  俺は悪の炎を抱いて眠れのハンドルネームを使っている身長は高いが痩せている男が話しかけてきて、返事を返した。悪の炎を抱いて眠れは長いので悪の炎さんと呼ぶことにする。いわゆる悪の炎さんは失礼ながらヒョロガリな属性を持っている人だった。



「10分くらい遅れるから先に居酒屋入ってって。ソシャゲーのギルドチャットでギルドリーダーが言ってたよ」

「そうなんですか?じゃあ先に入りますか」

 俺たち二人は外が寒い事もあって、そそくさと居酒屋の予約している個室に入った。



 そして、対面で座る俺と悪の炎さん。失礼だが見るからに陽キャではない!どちらかと言えばこちら側の仲間だ!そうに違いない!滅茶苦茶失礼な事を思ってはいるが、安心して少し解けた緊張を出すように俺は息を吐いた。



「緊張してる?オフ会は初めてだっけ、マドロメ一号さん」

「マドロメちゃん一号です」

「あ・・ごめんね。マドロメちゃん一号さん」

「緊張しますよ。陰キャの俺にオフ会なんてハードルが高すぎますよ」

「二日前に急に頼んでごめんね」

「一人家の用事でこれなくなったから仕方ないっすよ」



 二人で喋っていると扉が開き、二人の人間が入ってきた。



「いやーごめんね。道が混んでてさ」

「ほんとまじサイアクだよ」

 イケメンとオシャレな女の子が入ってきた。



 あれ?なんだこの最強の違和感は。


 

「ほんとサイアクだね。注文は何か頼みました?」

 俺が黙っていると悪の炎さんが答えた。

「まだですね」

「じゃあ飲み物先に頼んじゃおうか。後は適当にノリでってことで。お酒は二人とも飲めるよね」

「ぱーっと騒いじゃいましょー!」



 はははは?おいおい、陽キャじゃねえか。



「二人とも、陽キャじゃねえか!」

「え?陽キャ?」



「心の中の声を言ってしまったが。でも陽キャじゃん!ギルドチャットでめちゃめちゃオタクの会話してたじゃん!あれ、全部ドッペルゲンガーなの??俺もう怖い!帰りたい!」



「そんなわけないじゃん・・落ち着けって。まだ僕達自己紹介してないからまずはそこからしよっか」



「ぜーぜー」俺の興奮した息の声だ。

「ぜーぜーって口で言う人初めて見た・・。えーっと、オフ会私もね、そんなに乗る気じゃなかったのよ。まあ、リーダーに押し切られて来ました、猫の尻尾ふりふりです」

「あなたふりふりだったのか」

「そうでーす。ふりふりでーす」

 オシャレな女の子は猫の尻尾ふりふりと名乗った。名前は長いのであらため、ふりふりと呼ぶことにしよう。



「ギルドリーダーのたんぽぽ仮面です。で、二人も自己紹介をお願い」

 イケメンはギルドリーダーたんぽぽ仮面と名乗った。短い名前なのでそのまま略さずにたんぽぽ仮面とイケメンは呼ぶことにする。



 そして、悪の炎さんも自己紹介をして、俺も名乗った。その後、少し俺の興奮も冷めてきて、店員さんに色々注文をして、飲み物が来たので乾杯をすることにした。



「それではーー。ギルド宿命の青と終焉の赤騎士団のますますの発展を祈念して!」



「「「「カンパーーイ!!」」」」

 四人でカチャーンっとグラスを当てて飲み物を飲んだ。



「俺たち、陽キャじゃん・・」

「やけにそれにこだわるね、マドロメちゃん一号さんは」

 イケメンたんぽぽ仮面は俺にあきれ顔を見せながら言った。

 


「いやでも、まさかリアルでたんぽぽ仮面さんや悪の炎を抱いて眠れさんと会うとは思わなかったっす」

「ちょっとちょっと!猫の尻尾ふりふりをナチュラルに省かないで」



「ごめんなさい、オシャレな女の子はソシャゲのガチャでしか見慣れてないから・・」



 俺はふりふりさんに怯えながら言った。



「なにもそんなに震えなくてもいいよ・・。同じ人間なんだから。それに同じギルドのメンバーだよ。チャット欄では結構話してたよねマドロメちゃんとは」



「マドロメちゃん一号です」



「え?う、うん」



「まあ、たしかにそうですね。同じギルドの仲間ですもんね」



「二人ともマンガの話良くしてますもんね」

 悪の炎さんが話に入ってくる。



「まあ、そうですね。悪魔にきび団子を強引に食べさせて退治するやつや不良を一人一人更生させて水泳選手にする漫画とか、共通して好きなマンガが多いかも」



「二人とも結構変わったマンガ好きだよね」



「でもマドロメちゃん一号さんが好きな音楽でドーナツちゃん好きなの意外だったな」

 ふりふりさんが顎に手を載せて言う。



「そうですか?まあ映画の主題歌にもなったので聞く機会が何度かあって気づいたらはまってましたね。リアルな肉体を見せないでネットのドーナツアバターだけで活動しているのも好印象です」



「へー、私もドーナツちゃん好きだから同じ推しなの嬉しいかも」



 俺はそれを聞くなり言った。



「悪の炎を抱いて眠れさん、一緒にトイレに行きましょう」

「え?まだいいよ」

「はははは、我慢してると体に悪いですから!さあ!ほら!」



 俺は強引に悪の炎さんとトイレに行った。



「急に何なんですか?」



 俺はトイレの壁にもたれかけながら言った。

「猫の尻尾ふりふりさん、俺に惚れてるわ」



「こいつやべーな」

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