1-4 視線
「大源は娘の尻拭いを行うも、想定外の上級霊、もしくは呪により失敗。防空壕にいた中級霊の、さらに奥にいた何かを呼び起こし、娘を供物として祭り上げてしまう。少将は呪血を使い防空壕へ。部下たちは行動不能」
「少なく見積もってもS−級、やばければS+級ってところか」
招集命令に従い集まった中将である後藤と鏑木は、任務内容の反芻をしながら車に揺られていた。
「何人呼ばれてるんだっけ?」
「6人」
「はあ? まったく足りないな。S−級だとしても10人は必要だ」
「あれ、鏑木は俺たちの任務が何か聞いてないのか?」
「詳細は着いたら説明するから急いでくれって言われて。連絡最後だったのかもな。増援じゃないのか?」
「そんな決死隊みたいなことする訳ないだろ。俺たちの任務は元帥の誘致準備。祓いはしない。勝ち目がないし」
「そうなのか! なんだ、一安心だ」
「怪異殺し」
「は?」
「呼ばれてる元帥」
「なるほどな……」
鏑木は増援に行くと覚悟をしていた頃より神妙な面持ちになり、ため息をついた。
「タバコ吸っていいか?」
「着いてからにしろよ」
「だよな」
「おう」
2人は深いため息をついた。暫くして現地付近に到着。4名の中将と合流し、現地に赴いた。
「おい、しっかりしろ!」
源が従えていた部下たちは倒れたままだった。鏑木と後藤は部下達の背中に手を当て、呪を唱えた。
「【発】」
「……がはっ!! はぁ、はぁ! 鏑木中将、申し訳ありません。増援感謝しま……ごほっ!」
部下たちは残りの呪を全て吐き出し、涙目で感謝を伝える。
「気にするな、動けるか?」
「は、はい。我々は大丈夫です、それより大源少将が__」
「そっちは俺達ではどうにもならん。隅に移動しとけ、怪異殺しを誘致する」
「ええ?! か、畏まりました」
怪異殺し。まるで架空の存在のように語り継がれている、本部の切り札であり、現存する霊媒師、呪術師、とにかくありとあらゆる異能者の中で最強を誇る存在。
噂によると、バディで活動し、10歳ほどの少女と20代の青年の姿をしているらしいが、実年齢は老人だという。
中将に呪解してもらった大源の部下達は、半ば憧れのように噂話に花を咲かせていた。
しかし一部の中将達はその恐ろしさをS級以上の大祓の際に確認しているため、浮ついた空気は一切なかった。
大源が作った霊道に中将達は血と酒を注ぎ、霊力や呪力を注ぎ、最大限まで強化した。
さらにその周囲に中将達の部下を配置、2重の空間を結界で囲い込み、部下たちにも霊力を流し込んだ。こちらが本当の中将達の仕事である。
鏑木の部下が本部に連絡を完了。30分後に到着予定と伝え、配置に戻った。
「ふう。本部より連絡。元帥は30分後に到着予定」
「了解。へへ」
「なんだ、浮ついてんな」
「おっと、バレたか。怪異殺しと一緒に仕事出来るの初めてなんだよね。後藤と鏑木は経験済みだったよな」
「榊原ははじめてか。浮ついてられるのも今のうちだよ」
「どうしてだ? 元帥との共闘も初めてなのに、最強と名高い、あの怪異殺しだからな。負ける気がしない」
「負けはしないだろうな、勿論」
「じゃあ何が怖いんだ?」
「会えばわかる」
「相棒が出来るまでの咲元帥は命を奪う力があったから恐れられてたけど、バディになってからは問題ないんだろ?」
「奪うじゃなくて、喪失だ。まあな、当時は恐れられてるどころか、お会いすることも禁じられてたからな」
「お、おい!」
興奮気味な榊原と、自分を落ち着かせるためにも談笑していた鏑木は、後藤の声のする方を見ると肝を冷やした。
白装束を体の半分のみ着崩し、いやらしく微笑む女が、左手一本で大源少将を引きずって出てきたのだ。乳房が露出されているが色気はなく、肌の色はまるで死人、何より内包されている呪力はどう考えてもS級を超えていた。
一斉にしゃがみ込み、中将達は霊道に霊力を注ぎ直す。
静香の姿をした呪いが、右手をかざすと、紫色の巨大な腕が出現し、丸太の振り子のように後藤に向かい飛び出してく。
「ぐぅううう!!」
中将6名で強化し直し、結界の維持のみに全力を割いているが、突破されるのは時間の問題だった。10名でも戦力不足どころか、2重結界のために意識と霊力もそちらに削がれている。
「くそ、大源の娘だなんて、器が良すぎる。このままじゃ自壊する前に適合されるぞ」
「元帥到着までもてばいい! 最大限まで出力を高めて2重結界を保持しろ!」
「了解!!」
鏑木の指示に従い全員が腕をナイフで傷を作り血を流し、塩結界を強化する。
「ううううううううううううううう」
地響きに近い唸り声と共に、結界空間に向かい巨大な拳が叩きつけられ続ける。
中将達は経験したことのない勢いで呪力、霊力を消耗していく。
「鏑木、大丈夫か!」
後藤が鏑木の表情が苦痛から無に近づいていくのに気づき声をかけた。意識が遠のいている証拠だ。
「ま……だ大丈夫だ。あ、タバコ吸い忘れてた」
「終わった後の一服はうまいだろうなあ!」
榊原が大声でわざとらしく叫んだ。それを聞いて他の中将達も笑った。これでいい。余裕のあるフリは精神を回復させる。
しかし、中将の1人がついに黒い吐瀉物を撒き散らしながらたおれてしまった。
一人一人にかかる負担が増加する。
静香の姿をした呪いはソレに気付き、ゲラゲラと笑いながら直接結界を蹴り始めた。
「ぐぅぅううう!! もう数分ももたないぞ!」
そう榊原が叫んだ瞬間、全身の鳥肌が天を突く勢いで跳ね上がった。今目の前に対峙しているS級の呪霊が赤子に思えるほどの存在感。それがこの狭い結界内に間違いなく居る。
「なんだこの気配……!! とんでもない呪力だ、こんな時にどうして!!」
奥にいるという報告があった霊、もしくは呪いだろうか?
いや、しかし恐らくその強化された呪霊が対峙している対象なはず。だとしたらこの気配は__。
「とーちゃく!」
「おうおう、エロい姉ちゃんがいるじゃねぇか」
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