無彩色

みらる

第1話プロローグ

無彩色:(むさいしょく、英:achromatic color)は、白と黒との混合で得られる色(白と黒自体も含む)の総称である。また、様々な濃度の灰色が含まれる。


 

 そこには現代では珍しく電話ボックスがひっそりと設置されていた。


電話ボックスの目の前に立ち、ドアノブに手をかける。


異様な雰囲気にのまれてしまいそうになり、カラカラになった喉からかき集めるように唾を飲み込んだ。



 しびれを切らしたかけるが左後ろから声をかける。


「さっさと行っちまおうぜ!なんならお先に~」


そう言って翔は古びた電話ボックスに入っていった。


ドアの建付けが悪くなっているのか軋む音が妙にドクドクとなる心臓に刺さってとおるの動きを更に鈍くした。



電話ボックスの前に立って腕時計を覗いた。


10分は経っただろうか、透はその場に立って居ることさえ不快に思えてきて、思いきってドアノブに手をかけ、そそくさと電話ボックスに入った。



 既に【無彩色】へと行ってしまったのか翔の姿は無く、電話ボックスには古びた公衆電話と令和を感じさせるような貼り紙で埋め尽くされていた。



 【無彩色】という世界が本当に実在するのだと10分以上前にこの電話ボックスに入った翔の消失により現実味が増していた。


 「おーい、翔、冗談なら今のうちだぞー」


微かな希望を打ち消すばかりか、半畳も満たない空間の静けさは増していた。


 透は手に持っていた小包の中身を再度確かめた。兄貴も一緒に同居していた家に1週間前、突然届いたモノだ。



 中には1枚のカードとここまでの地図、数字の書かれたメモと高そうな宝石のついた指輪が1つ。



 そういえば小包が届いた頃に、数年前孤児院で一緒だった松田 翔が兄貴も失踪してしまった透を助けてくれたのだった。



 透は1週間前の出来事を思い返しながら小包からカードとメモを取り出した。


 メモには【631449】としか書かれていなかったが、透はカードがテレフォンカードというモノで、この番号に電話を掛ければいいのだと翔に教わっていた。


腰掛け用の鉄パイプに寄りかかり公衆電話にテレフォンカードを差し込み、数字を打つ。


「631・・44・9と」


手が強張っている所為か声に出しながら慎重に数字を打っていく。


最後に受話器を取るだけだ。


「兄貴を探しに行くんだ・・」


透は小声でそう言いながら受話器を取った。


その瞬間、公衆電話からアラームが「ピーピーピー」と鳴り、ガクンッと底が抜けるような感覚とともに視界が真っ暗になった。


30秒程度だろうか、内蔵が持ち上がる様な体感をしながら物凄いスピードで落ちていく。


気が付いた頃には着地に失敗し、透は電話ボックスの外に投げ出されていた。

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