第13話 到着、そして恒例のスキル鑑定

「イノシシ発見!」


馬車の屋上からピーカブーさんの声が聞こえる。


そのまま屋上から、矢が2時の方角に飛ばされる。矢が飛ぶ方向を見極め、ライオン娘とウマ娘が駆けて行く。


「イノシシだと!?」


荷馬車の横を歩いていたムカデ娘が、馬車の横に取り付けていた槍と刃物を取り外し、ウマ娘達の後を追いかけて行く。


ふむ。魔物ではなくて、イノシシか。料理番のムカデ娘が行ったということは、つまりはそういうことなのだろう。


「イノシシか、ここいらで大休止にするか、ピーカブー、川はあるか?」と、ジークが馬車の屋上にいるピーカブーさんに言った。


「ある。もう少し先」と、屋上から声が聞こえる。


「よし。ムー、千尋藻、もう少ししたら休憩だ。そこでイノシシを捌こう」と、ジーク。


「はぁ~い」と、ムーが返事をする。


俺とムーは、かれこれ3時間くらい馬車を引っ張っている。


ムーは汗だくになりながら、いい加減、足腰が疲れてきたのか、少し引くペースが落ちてきている。


俺はというと、まあ、おそらくチートな体を貰ったのだろう。このくらいのペースだったら、まだまだ余裕だ。



・・・・


河原に到着する。ピーカブーさんは、匂いで川の位置が分かるらしい。凄い。

同じ軟体動物でも、俺にそんな芸当は出来ない。


「さて、大休止だ。ムー、千尋藻、ご苦労だった」と、ジークが言った。


大休止とは、1時間くらいの休憩のことを指すようだ。お昼休憩のこととほぼ同じ使われ方をしている。


ムーは、「つっかれたぁ」と言って、馬車を曳くロープの付いた棒を下ろす。

俺も一緒に棒を地面に置き、「確かに疲れた。後どれくらいだ?」と、ジークに聞いた。


「今のペースで、あと二時間くらいだろう。十分、日暮れ前には着くはずだ」と、ジークが返した。


河原に着くと、早速、イノシシを担いだウマ娘とムカデ娘が、仕留めたイノシシを川の水に浸けている。ああして肉を冷やしているのだろう。

そして、さくさくと捌き始める。手慣れているな。野営中は、山で食材を調達することもあるのだろう。


川縁に、ピーカブーさんとギランがいて、何かを警戒している。


俺がその様子をぽかんと眺めていると、「あれは、川に出る魔物や獰猛な獣を警戒しているのよ」と、トカゲ娘のシスイが言った。


そうか。山には山の攻略法があるのだろう。これは個人ではなかなか行商なんて出来ないなと思った。



・・・


今朝焼いたパンで昼食が始まる。ミノタウロス娘のムーなんかは、速攻で飯を食べ、水浴びを初めてしまった。男衆がいるのにぽいぽいと全裸になり、天真爛漫に川に入っている。巨乳と巨尻がぶるんぶるんと揺れる。目のやり場に困る。


「ねえ、あんた達、街に着いたら何すんの?」と、俺の隣に座るオオサンショウウオ娘のギランが言った。


「とりあえず、ギルドに行って、仕事探しかな」と、ダイナミックな水浴びをチラチラと覗きながら言った。


「ふうん。うちで働けばいいのに」と、ギラン。


どうした? 別れるのが辛くなったのだろうか。


「俺達には、目的があると言っただろう? ずっと、キャラバンのお世話になるわけにもいかんし」


「でも、また悪鬼が出てきたらどうしようって思うと……」


「まあ、ギラン、悪鬼が出てくるより、盗賊やレイプ魔に襲われる方を心配しなさい。今回のことはとても希なことよ」と、トカゲ娘。


悪鬼は、普通は出くわさないらしい。だけど、なんでこんなに恐れて噂になっているかというと、強い悪鬼が出たら、とりあえず逃げて、国や神殿が保有する悪鬼討伐隊の助けが来るまで、その逃亡生活が続いてしまうから。要は、大迷惑をこうむるのだ。


なので、大迷惑を被った人々はそれを忘れないし、中には噂に尾ひれが付いて広まることもあるだろう。


ギランは、少し口を尖らせて「でもぉ」なんて言っている。少し可愛い。まあ、顔の造形は元々可愛いのだけれど。


「ところで、このキャラバンの次の目的地とかって?」と、聞いてみる。地理なんか知らないけど。


トカゲ娘は、「私達は、今向かっているネオ・カーンの街で馬車の手入れとキャリアを仕入れたら、次はウルカーン。その次はノートゥンに行こうと思っている」と言った。


「ウルカーンやノートゥンとやらに何しに?」


「私達の国は、色んな特産品があるけれど、一番外貨を稼いでいるのは、実は傭兵業。全国各地に同族がいるの」と、トカゲ娘。


「傭兵といっても、うちらは原則国家間の戦争には加担しない。ほとんどが迷宮攻略や王宮の護衛かな。それから、悪鬼討伐隊専門の方もいるの」と、ギラン。


「なるほど」


モンスター娘の特殊能力を生かして、傭兵として外貨を稼いでいるのか。それに、あるのか迷宮……


「彼女らに会いに行って情報収集するのと、傭兵契約の更新をしたり、それから、子種を貰う交渉とかね。だから、大都市は大体回る。国に帰ってくるのは、1年後かしら」と、トカゲ娘。


この国の人達は、ずっと、そうやって生きてきたのだろう。


「なんか、頑張って欲しいとしか言えないな」と、呟いてしまう。


「何か冷たくない? あなたって、ひょっとして既婚者?」と、ギランが言った。するどい。


「まあ、な。国には嫁も子供もいる」と、正直に言った。


「あら、そう。ピーカブーは童貞だったって言ってたけど?」と、ギランがジト目になって言った。俺のことを疑っているらしい。失礼な。


ここは自分の名誉のために、「やり方が分からなかっただけだ」と言った。


ギランは、「ふうん。そっか」と言って、下を向く。


「どうした?」


「いや、私達ってね、結婚とかはしないから。添い遂げるってことはしない」


「ほう」


「子種を貰って、島に帰って、子供を産んで、皆で育てて。子供は女しか生まれないから、島は皆女だらけ。女だらけで育って、歳頃になると、キャラバンを結成して男を捜しに旅立っていく」と、ギランが言った。


「そんな文化もあるんじゃないか?」


「ヤッたら気持ちいいのにね。好きな人と一緒にいたいっていう気持ちも、あるのにね、不思議。なんでこんな風習なんだろう」


ギランが言いたいのは、夫婦という風習がない母国への疑問らしい。


「若いうちに、色々考えることは良いことだ」と、適当に流しておく。


「そっか。あんたはおっさんだったわ。でもね、私達の中には、人の社会に溶け込んでいる人達もいる。その人達は、普通に結婚して街で生活してるんだって」


「ギランはそれに憧れる?」


「うん。少しね。でも、私の肌や尻尾じゃ無理か。基本的に気味悪いって思われる。アンタは違ったけど」


俺は、何も返せずにお昼のスープを啜る。確かに、指の本数が違ったり、尻尾があったりしたら、気味が悪いって感じる人もいるのかもしれない。


俺の斜め前では、トカゲ娘が面白そうにやり取りを聞いている。こいつの性格は、何だか一貫しているな。見学に徹しているというか。いや、色んなことに興味があるのだろう。


「そうか。お前はまだ若い。色々経験して、そして判断を下すべきだ」


「もう、子供も産める体なんだけど」と、ギランに返された。


「精神が未熟」と、言ってみる。でも、そこまで未熟ではないと思う。


「アンタも、精神はそこまで強くないくせに」と、言われてしまった。


まあ、そうかもしれない。仕事で悩み、家族関係で悩み、人の形をした化け物を殺して悩み、そして、今は女性関係で悩んでいるのかもしれない。

悩みがあったからこそ、昨日は、目の前の女性のお誘いを断り切れなかったのだ。


「まあ、いいや。これでお別れってわけじゃないし。ねえ、あんた達の旅の目的は知らないけど、いつかは私達の島に会いに来てよ」とギランが言った。


「え? 行けんの? その島。女人島」


「許可を得たら行ける。ああ、でも駄目だ。あんただったら、もみくちゃにされて、私なんか見向きもされないかも」


「なんで?」


「あの島って、男に飢えてる女性で一杯」


なるほど。なんで、世の中の男はそんな素敵な島を放っておくのだろう。


おそらくだけど、それは彼女達の造形……まあ、それは次の街に行ったらはっきりするだろう。


そんな会話を続けていると、河原から「捌き終わった。いつでも出発していいぞ」と、ムカデ娘の声が聞こえた。


先ほど仕留めたイノシシを、およそ1時間掛けて捌いたようだ。


その声を聞いた周りの皆は、テキパキと片付けを始める。

水浴びを終えたミノタウロス娘のムーは、今はちゃんと服を着て、肩や足腰のストレッチを始めている。


さて、あと二時間時くらいで到着か。午後の部頑張りますかね。



・・・・


森を抜けると、そこは平野だった。街道が平野を貫き、その向こうに城壁が見える。あれがネオ・カーンなのだろう。


移動午後の部は、特に何事もなく過ぎていった。


街に近いと、魔物も獣も少ないのだろうか。


平野の街道は、途中で別の街道と合流し、徐々に同業者と見られる馬車と併走する。


俺達の馬車は人力で曳いているから、結構目立つ。でも、そこまで珍しい光景ではないのか、特に声をかけられるでもなく過ぎ去って行く。


そして、街の城門の前まで到達する。街と言いつつも、結構立派な城門が屹立している。高さは5メールほどだろうか。


「到着だな。俺達は行商用の許可証を持っている。お前達は俺達が雇っているんだから、行商用の城門を通過できるはずだ」と、ジークが言った。


その城壁と街道がぶち当たる地点に巨大な城門があり、そこで人々が列を作っている。


俺達は、行商用の門の方に進む。そこは、比較的いていた。


「許可証があると言っても、荷物の税金が余計に取られないだけだ。スキルチェックはあるからな」と、ジークが言った。


まあ、俺はスキル無しだから良いんだけど、問題があるとすればケイティだ。あいつは『マジカルTiNPO』という卑猥なスキルを持っている。魔法のチ○ポをまろやかな感じにしたネーミングなんだろうが、卑猥なものは卑猥だ。


なお、小田原さんのスキルは、『怪力』『回復魔術』『木魔術』『シャイン』『鉄拳』『投擲』『言語理解』というもので、少々攻撃系のスキルが入っているが、ジーク達が言うには、そのくらいは別に問題ないということだった。なお、シャインというのは、体の一部が光るという謎スキルだった。小田原さん曰く、無意識のうちにそういうスキルを望んでいたそうだ。夜に便利なスキルらしい。


むしろ、俺のスキル無しの方が、怪しまれかねないとかなんとか。どうなることやら。



・・・・


「マジカルTiNPO、だと?」と、検問のおっさんが言った。


「はい。私の特技です。このスキルで、女性を楽しませるのです」と、ケイティが言った。


数日前の童貞ケイティとは、全く異なる対応だ。男とは、やれば変わる生き物なのだ。


検問官は、後ろのモンスター娘達をチラリと見ると、何故か納得したような表情をした。


だが、検問官は、「雷スキルかぁ」と言った。


「はい。護身用として身に付けています」と、ケイティ。事前に、ジークから多少の攻撃魔術を覚えているのは特に問題ないと聞いていたのだが……


「いやなに、我が国は、。現在は国交も回復しているが、その国の得意魔術の一つが、雷なんだ。一応、警戒しているんだよ」と、検問官。


「ふむ。私達は東の島国出身ですので、その隣国とやらとは関係ありません」と、ケイティが言った。


検問官は、もう一度後ろのモンスター娘達をちらりと見て、「通ってよし」と言った。なかなか話の分かる検問官だ。


そんな調子で、お次は小田原さんの番に。


「あなたもタケノコ関係者ということですよね。それにしても怪力スキルと鉄拳スキルですか。拳で勝負なさるんで?」と、検問官。


小田原さんは、「はい。私は基本素手で戦います」と言った。


「このシャインというスキルは大変珍しいですなぁ。体の一部が光るスキルですか……暗闇で便利そうなスキルですね。まあ、通ってよし」


そんな調子で小田原さんも通過する。


そして俺の番……


何故か、ギランが隣に付いてくれている。


検問官のおっさんは、「ふむ。お前は、なんだ? これは、スキルなし、か……でも、タケノコ関係者か。まあ、よし」と言った。


なかなかいい人みたいだ。隣国関係で少し引っかかっただけで、細かい事をあまり気にしない。日本のお役所とは全く異なる。


そして、城門を潜ると、そこは、外の荒野とは全く違った風景が広がっていた。まるでどこかのテーマパーク……


石畳の街道に石積の建物。


そして、人、人、人……


すごい。街を歩く人は、髪の色も肌の色も様々で、まるで人種のるつぼ。あまり色のついていない服装の人達が多い気がする。皮鎧で腰に剣を下げている人もいる。帯剣はOKなのだろう。隣のギランも腰に武器を下げているし。


そして、街の至る所に火がともっている灯籠みたいなものがある。ここが炎の神『ウル』を信じる街であることが窺える。


俺達日本人三人がぽかんと街を眺めていると、「驚いたか? これがネオ・カーンだ。とりあえず、荷馬車の駐車場まで運んでくれ。契約はそこまでだぞ」と、ジークが言った。


俺の仕事はまだ終わっていない。


俺は、ミノタウロス娘のムーと一緒に、荷馬車を駐車場まで曳いていった。

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