第32話 運命の星(1)
「静羅。ちゃんと寝てたか?」
和哉が帰ってくる直前に部屋に戻ってこられた静羅は、ベッドに横になったまま内心でホッとしつつ不機嫌そうに答えてみせた。
「寝てるぜ? 和哉は早かったんだな」
「おまえのことが心配だったからな。買い出しは東夜と忍先輩に任せた。今日はおじやだ。ちょっと暑いだろうけど」
「やめてくれよ。昨日は確かにちょっと体調崩したかもしれねえけど、今朝には治ってたんだぜ? なんで病人食なんだよ」
「おまえが倒れるなんて滅多にないからな。ここ2、3年の間では」
含みのある口調に静羅が複雑そうな顔になる。
静羅はほとんどの薬が無効だし、どんなウイルスにも影響されない。
となると倒れたこともないんだろうと思われがちだが、実は常習犯とまでは言わないが時折体調を崩すことがある。
そうなると何ヵ月も寝込むので、和哉には随分迷惑を掛けてきた。
まあ滅多にならないというのが救いだろうか。
だから、和哉は静羅がたまに倒れると、とても心配性になる。
倒れたときの様子が様子なので尚更だ。
そのくらい倒れるときの静羅は普通ではなかった。
「気にしすぎだぜ。これはいつもの発作じゃねえだろ」
「そうだけど。おまえって頑丈そうで結構ヤワイからな」
言いながら部屋に鞄を置きに行こうと静羅の部屋を後にした。
「よかった。バレなくて」
抜け出したことがバレなくて静羅はホッとした。
和哉は妙に勘が鋭いので、もしかして微妙な違いでバレるかと思っていたのだが。
「しかし俺が阿修羅の王子、ねえ? 眉唾にしても壮大なホラだよな。でも」
3人とも嘘を言っている眼じゃなかった。
嘘や偽りを見抜くことは静羅の得意とすることだった。
だからこそ彼らの話も聞く気になったのだ。
嘘か誠かは直接、自分で判断すればいいと。
そして彼らの説明を聞いている間、静羅の得たものはそれらがすべて真実であるという確信だけだった。
彼らが嘘をついているようには見えなかったのだ。
しかし信じられるか?
静羅が神。
それも天界で闘神の帝王とまで呼ばれる重要な位置にいる神だなんて。
しかも和哉も神である可能性があるなんて。
さすがにすんなり信じることはできない。
どちらにせよ、彼らもなんらかの手を打つだろう。
行動を決めるなら彼らが動いてからでもいい。
でも、今日の目的は果たせなかったな。
まあ一応静羅が狙われる可能性は無ではないとわかったことだけが収穫と言えるだろうか。
彼らが関わってきてから行動を決めるとして和哉になんて言おう?
身内だと名乗る者が現れたなんて。
両親も和哉もこういう話題には敏感だった。
素性を探していた頃はともかく諦めてからは、静羅を見付けた別荘にすら行ってない。
まあ今はもう手離してしまったということもあるのだが。
静羅を引き取って育てはじめてから、両親は何度か静羅を見付けた別荘に訪れた。
静羅の身内がいないかと探すために。
でも、それも静羅が大きくなるほど回数は減っていった。
もし見付かったら育てている静羅を引き渡さなければならない。
その思いが足を遠ざけたのである。
静羅も行かなくなって違う意味でホッとしていた。
何故ならあの別荘の近くでは意識を失うことが多かったからである。
向こうに行くとすぐに眠って、そのまま何日も起きなくて眠ったまま東京に戻ったことが何度もあった。
それで東京に戻ってくると和哉に起こされることで起きれるのだ。
これは理由はわからないが事実である。
だから、行かなくなって静羅は違う意味でホッとしたのだ。
周囲には誤解される反応だったが。
「そういや俺が発見された樹海って神域になってたっけ」
御神木のある一帯で周囲はすべて神域。
神域であるため、勿論禁足地である。
禁足地ギリギリに別荘を建てたのは、高樹家が大財閥であったため、煩わしさから逃れるためだと聞いている。
そこで生まれたばかりの和哉を連れて、両親は静養に来たのだがやってきた当日に何故か和哉が姿を消したのだ。
慌てて両親が探すと和哉は禁足を地の近くで頻りに大声をあげて泣いていた。
その傍には眠り続ける赤ん坊がいたという。
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