第21話 赤い狂星(9)
「人間に擬態していたから、兄者は人間と同じ成長の仕方だったんだ。封印が完全に解かれれば、それは意味をなくす。そこからは神としての成長になるはずだ。ただ」
「ただ?」
「精神面はどうだろう?」
「精神面?」
「つまりこういうことですわ」
柘那が突然話し出して、ふたりで話していた静羅と紫瑠が彼女の方を見た。
「肉体面は人間に擬態した結果であれ、今のお姿まで精神することは可能です。王子が普通に生きていらしたら、もっと年上の外見に成長されていたでしょうし。ですが精神面の成長は年月に頼るものが大きいのです。最悪人間に擬態することをやめることで逆行してしまう可能性もございます」
「げっ」
嫌そうに呟いてしまう静羅である。
いつの間にか彼らの話に聞き入っている。
信じているわけではないが疑っているわけでもない。
疑うには静羅の中にある確信が邪魔をしていた。
「封印っていうのはなんだ?」
「それは俺たちにもよくわからない。ただ兄者が行方不明になってから発見される現在まで兄者の気配を辿ることができなかったんだ。その理由として考えられるのは兄者が封印されといたということだけだ。ただどういう封印なのかは俺にもわからない」
「王子の封印が解かれたのは15年前。そのときなにかあったのではないですか? なにもなくて何万年も、いえ、もしかしたら何億年も続いてきた封印が解かれるはずがないでしょうし」
「志岐」
「15年前と言えば俺が高樹の家に拾われて引き取られた頃だな」
「拾われて引き取られた?」
「樹海に置き去りにされていたらしいぜ? それを和哉を切っ掛けにして今の両親が見付けてくれて、結果的に引き取って育ててくれたんだ。俺の恩人たちなんだよ」
「その和哉というのは?」
「俺の義理の兄貴だよ。それがどうかしたか?」
「人間なのか?」
ポツリと呟かれ静羅がムッとした。
和哉のことを悪く言われるのは我慢できない。
「失礼な感想を持つんじゃねえよ、紫瑠」
「だが、普通の人間なら兄者の封印は解けない。兄者が言ったんだろう。その和哉という義理の兄を切っ掛けにして拾ってもらったと。そんなこと普通の人間にはできないぞ」
「俺を見付けたくらいでなにを大袈裟に」
「兄者は天界に連なる神だ。その神が封印されていたんだぞ? それを見付け出すことが人間にできることだとでも?」
「ムッ」
腹が立ったが今度は言い返せなかった。
静羅が普通の人間なら問題はない。
だが、静羅が本当に阿修羅の王子なら、確かに神々の封印を解くなんて普通の人間にはできない。
それができた和哉は人間なのかという疑いが出てくる。
「和哉は人間だ。少なくとも俺の知っている和哉は普通の人間だ。それは確かだ」
「兄者の知っていることがすべてだとは限らない。兄者が自分の素性を知らなかったように、そいつもまた自分の素性を知らない可能性は捨てきれない」
断言されて静羅は言葉に詰まった。
もしそうだと仮定して和哉も神だというのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます