第19話 赤い狂星(7)
「すれ違ってみませんか。紫瑠さま。そうすれば紫瑠さまにならおわかりになるはずです。肉親にだけ伝わる直感で」
「わかった。意識してみる」
言って信号が青に変わったので歩き出した。
この辺りの知識は天界で先に仕入れている。
でなければ街を無事に歩けなかっただろう。
といっても初めて見たときは慣れるのに時間が掛かったが。
真ん中辺りまで進んだときだった。
静羅が触れるほど近くを通り過ぎる。
ドキンと心臓が鳴った。
知らず知らず視線を向けてしまう。
すると静羅もこちらを見てきた。
不思議そうに見上げている。
「兄者っ!!」
紫瑠は反射的に叫び、静羅の二の腕を掴んでいた。
信号のど真ん中で腕を掴まれ、引き止められた静羅は、危うく転倒しそうになった。
「バカヤローっ!! 信号のど真ん中で引き止めんなっ!! 事故ったらどうすんだっ!!」
そう言っている間も信号は点滅している。
静羅は腕を振り切ろうとしたが、何故か躊躇われてできなかった。
「とにかく信号を渡る方が先だ。事故りたくないだろうが」
そう言って歩き出す。
紫瑠も腕を掴んだまま大人しく静羅に従い、彼が叫んだ名を聞いて柘那と志岐も黙って従った。
信号が赤に変わる直前静羅は渡りきることができた。
間一髪である。
「で? なんの用だよ? 信号のど真ん中で呼び止めるなんて危ないことしてくれて」
「……兄者?」
「はい?」
恐る恐る呼んだ名が意外で、静羅がぽかんと彼を見る。
最近やけにこの手の会話が多いとチラリと脳裏を過った。
「俺にはわかる。兄者だろう?」
「だれがだれの兄だって?」
「あなたが俺の」
「……」
悪質な冗談かと思ったが、相手は至って真面目な目をしていた。
それに何故か悪質な冗談だと言い切れない妙な確信めいたものが静羅にもあるのだ。
未だに掴まれた腕を振り切れないのが、その証拠である。
「タチの悪い冗談だな。それとも新手の誘拐か?」
「兄者っ。俺は嘘は言わないっ。信じてくれっ」
「……確かに俺の身元は不明だ。捨て子だからな。だから、そういう意味ならそういう例えもあり得るのかもしれない。でも、どこに証拠があるよ?」
「証拠ならすぐに用意できる。どこか人気のないところへ行こう。そうしたらすぐにでも兄者だと証明してみせるから」
真摯な声だった。
真摯な瞳だった。
その顔を見ていると静羅はイヤだと言えなかった。
「わかった。手短に済ませろよ」
逃げないようにか二の腕を掴んだままで、名乗りもしていない青年が歩き出す。
しかしこの外見で静羅を兄と呼ぶとは感覚がおかしいのではあるまいか。
どう見ても静羅の方が年下である。
静羅の外見は15なのだから。
それも普通の15歳より幼く見える15歳なのだ。
18、9歳の青年が静羅を兄と呼ぶのは、どう考えてもおかしかった。
それを疑わずついていく静羅もおかしいが。
人気のない公園まで行くと彼はやっと腕を放した。
それから静羅に向き合う。
「これからすることを黙って受け入れてほしい。証を引き出すにはすこしの手間が必要なんだ」
「証ってなんの?」
「待っていてくれればすぐにわかる。なにをされても拒否はしないでほしい」
「なにをされてもって……」
さすがに待ったを掛けそうになる。
すると青年の手が項に触れた。
反射的に悪寒がしてしまう。
それを防ぐようにまた二の腕を掴まれた。
「なにもしない。生気を送り込むだけだ。警戒しなくてもいいから」
「生気を送り込む?」
マンガや小説でしか聞かないような言葉だ。
しかし確かに触れた項から、なにか暖かなものが注ぎ込まれているのがわかる。
身体が熱くなるのを感じた。
どのくらいそれを繰り返したのか、身体の熱をもて余す頃、相手がホウッと吐息を吐いた。
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