IX:Symphony

 トゥール公国 主要地方都市 フィデス市 中央西通り


―― The Creafariss River progresses straightly toward the season which comes to an end.

If its way is lost, a figure is changed and it is merely running intently.

Daytime is in a solar light together with that wind. Night draws a new crescent itself ――


(風の道標……)

 ウェインは唄っていた。

 優しい笑顔で、瞳を閉じて。それは、他の誰でもなく、カレンただ一人のために歌ってくれているようだった。

 そんな彼の前に、まだ子供だった、幼い自分の姿があった。

 ただ綺麗なものが大好きだったあの頃、カレンにとって、クレアのピアノとウェインのギターはキラキラとした宝石のように輝いていた、カレンの大切な宝物だった。


―― The setting sun burns a blue horizon. One flower shakes to a wind and tells early summer.

The traveler who loved the wilderness rides on a horse and makes a highway run freely all day long.

Draw the blue sky which is not forgotten on a dream.

The guitar is played and a morning is felt with usual music.

How far do you take the body which took a solar shower today?

Shower my body with sunlight Where can you take me today Where can you go on from here

Don't be worried. It is audible. Your voice ――


 そして、不意に途切れたメロディ。

 こんな時にでもアルトは唄い、自分を勇気付けてくれる。ウェイン譲りの優しい瞳が、カレンを支えてくれる。

(ウェインおじさん、アルト……)

 星彩が、風が、風の子と星彩の子の行くべき途を示してくれた。

 そして、その先へ……。

 新たな星彩は、風が示した道標を行き、風の先にあるものを見つける。

 そして鮮やかな彩で風の先を照らし始める。

 カレンの指がそっと鍵盤にかかる。

 ほどなくして、優しい、緩やかで、広大で、暖かな旋律が流れ始める。


 ――瞬間、人々の足が止まった。


「……星彩の途」

 様子を見にきていたツェッペル爺さんが呟く。

「星彩の途?」

 穏やかで優しい調べの中、ツェッペル爺さんの隣にいた男性が小声で訊いた。

「知らんのか?クレア・ランズウィックの残した遺産じゃよ。そして彼女はそれをただ独り受け継いだ者」

「じゃああれは、本当にカレン・ランズウィック本人だって言うのかい?爺さん」

 さきほどまでカレンを認めていなかった者達も驚愕を隠せないようだった。

「ぬしゃあ本当にフィデスの人間か?演奏を聞いて判からんのか?……壮大で、こんなにも優しくも美しい、透き通った調べを奏でているというに……」

 ツェッペル爺さんはその者達の耳を疑うかのように静かに言った。

 そして皆がその旋律に耳を傾け始めた。

「……さっきまでとは全然違う」

「これが、カレン・ランズウィックのピアノ……」

 そう呟いた人々を見てツェッペル爺さんは満足そうな、しわくちゃな笑顔になった。

「すごいなんてもんじゃない……」

「それなら、何でコンテストには出ないんだい?あの娘……。今日は母親の、クレア・グリーンウッドの名を冠したコンテストだろう?」

 ツェッペル爺さんの声が届く僅かに数名が同じことを思っていたのか、ツッペル爺さんの隣にいた男の言葉に数人が頷いた。ツェッペル爺さんはやれやれ、と大げさに肩をすくめ、囁くように言う。

「楽団に属する者でこれほどの演奏ができる者はおらんよ。欲など持たない者だけが行き着くことのできる旋律を、あの親子はよぉく知っておるんじゃ……」

「……」

 ツェッペル爺さんのその言葉を最後に、その場にいた者全てがカレンの演奏に言葉を失っていた。


 無心で最愛の曲を引き終えたカレンに待っていたのは、割れんばかりの拍手喝采だった。

 知らないうちに無数の人垣ができ、信じられないほど多くのチップが宙を舞った。カレンはピアノから立つこともできず、ただ茫然とそれを眺めることしかできないようだった。

「……やったな、カレン!」

 カレンの肩を叩きトムスは言う。そのおかげで、カレンもやっと我に返ったようだった。

「こりゃあ凄ぇや!こんだけ集まりゃあ御の字だぜ!」

 喚起の声を上げながらチップを回収するトムス。カレンは慌てて演奏を聞いてくれた人々に深く頭を下げ、トムスの手伝いを始める。



「トムス、ありがとう……」

「べ、別にさ、たいしたことしてねぇよ。これは全部カレンの力だってことさ。俺にあんなこと言わせたのも、これだけの人達の心を惹いたのも、全部、さ」

 そう言いながらトムスの顔面からは炎が噴き出しそうなほどの熱を持っていた。

「違うよ、やっぱりトムスと、みんなのおかげだよ」

「違わないって。みんながカレンに協力したのも、アイツを助けたいって思ったのも、カレンとアルトの力なんだ。そんで、カレンはこんなにピアノが好きなんだってことがさ、一番強いってことなんだ」

 自分で言っていて、訳が判らなくなってくる。それもこれも、カレンがトムスの背中に覆い被さっているからだ。

(アルトのこと、好きなくせに、こんなことするなよなぁ……!)

「早く金、拾えって!」

 とうとう耐えられなくなり、トムスはカレンの抱擁から抜け出すと、カレンの頭を拳でぐりぐりしながら言った。

「いったぁい!何よ、せっかく感謝してるのに!」

「うるせぇな、いいから早くしろって!」

 トムスの一言で二人はいつもの調子に戻っていた。

 レイナはそんなことなどお構いなしに、無心にチップを拾い集めていた。



 同市 フォン・フリッツ大学 医学部 医療棟


 夕刻、カレンはクレイトフの下へ駆けつけた。

「無事、手術は終わったよ……」

 カレンの顔を見るなり、クレイトフは穏やかにそう言った。しかし晴れやかな表情ではないことをクレイトフは自覚していた。

「良かった……」

「……」

 カレンは安堵の溜め息を漏らしたが、クレイトフの表情は固かった。

「父さん?」

「勿論、アルトの生命を救えて良かった、とは思っているよ。しかし、私はあの病に打ち勝った訳ではない。アルトは、左腕を失ってしまった……」

 アルトにはギターのほかにまだ誇れるものがある。頭では判っていたが、実際に手術を終えてみれば、それは狂言だったのかもしれない。後悔の念がそうさせている。この病に対し、憎悪と言っても過言ではないほどの念があった。アルトの意思がどうこうというその前に。

 それがアルトに最も過酷な選択を強いてしまったのではないかという罪悪感がある。勿論この罪悪感が咎だというのならば、クレイトフには生涯を持って償う覚悟はある。アルトに告げたあの言葉は決して虚言でも、ましてや狂言でもない。

「でも、それでも、アルトが死なないで良かったって、わたしは思ってるよ……。病気には勝てなかったかもしれないけれど、母さんの時みたいに救えなかった訳じゃないよ、父さん……」

 カレンは言って、父の手を取った。

「……そうだな。ありがとう、カレン」

 少しだけ微笑んで、クレイトフは言った。アルトを誰よりも大切に想っている娘にそう言われれば、少し心が楽になる。

(後は、アルト本人がどう思うか、だ……)

 そう心の中で、クレイトフは呟いた。

 死への途を選べば残されたわずかな時間でもギターは弾けた。その僅かに残された時間と、ギターを失くしてしまったこれからの時間。

 どちらがアルトにとって大切になるかは、これからのアルト次第だ。ギターを失くしてしまったアルトにもはや選択肢は残されていないのだ。だからこそ。

(アルト……。君が笑顔を取り戻すまで、私はなんだってする)

 だからこそ、どうか、自らの意志で、まだ残されている輝きを見つけて欲しい。



「……」

 アルトはあまりの眩しさに目を覚ました。

 手術の前に麻酔を打たれ、そのまま眠っているうちに手術は終了し、朝になっていたのだということはすぐに判った。

 麻酔のせいで頭がぼけている、ということもなさそうだ。アルトは体を起こそうとしたが、上手く起きあがれずに、再び仰向けに倒れてしまった。

「そっか……。もう、ないんだよな、左……」

 アルトは包帯が巻かれた自分の左腕を見た。肘より少し上、上腕のあたりから先がなくなっていた。体を起こすときの些細なバランスが狂ってしまうのも当然なのかもしれない。

 しかし、アルトはバランスを崩すもう一つの原因に遅まきながら気付いた。

「……んん」

 ベッドの脇で椅子に腰かけたカレンが、アルトの腹あたりにその小さな頭を乗せて、眠っていたのだ。アルトは最愛の女性の寝顔を見て、知らず微笑んでいた。

「……アルト?」

 ほどなくしてカレンは目を覚まし、目を擦りつつアルトの顔を見上げた。

「おはよう、カレン」

(何だ。意外と簡単に笑えるもんだな……)

 そう、ひどく自然に笑顔になれたことがアルトにとっては意外だった。

「うん。おはよう、アルト」

 カレンは答えたが、その表情は曇っていた。優しいカレンのことだ、アルトがどれほどのものを失ってしまったのか、というアルトの無念を考えれば、簡単に笑顔にはなれないのだろう。

「気にするなよ、カレン。こうして生きているだけでも良かったっておれは思ってるんだからさ」

 カレンの髪を撫でながらアルトは優しく言う。結局のところ、手術を承諾したのはアルト自身の意志だ。恐らくクレイトフはアルトがどれほどに拒んでも手術を強行しただろう。そして、罪の意識に苛まれてしまう。この先一生。クレイトフにそんな思いをさせたくなかった。

 そして、クレイトフが言った誇れるもの。それがあるのなら見つけ出したい、と思った。

「うん……。でも」

「おれにはまだ誇れるものがあるんだって。クレイおじさんが言ってた。……だからおれはそれを探さなくちゃならないんだ」

 倒れる前に思っていたことをするべきだ、とアルトは思っていた。今まで父、ウェインと周った街を、自分の足でもう一度巡ろう、と。そうすればきっと何かを見つけ出せるような気がする。

 そしてそれが見つかった時には、またこの街に戻ってこよう。そうアルトは考えていた。そうすれば、カレンにもこの街の人々にも、恥じることなく立つことが、きっとできる。

「出て行かなくても良いんだよ、アルトは!わたし達、みんなでアルトを助けたいって、この街にいて欲しいって思って頑張ってお金、集めたんだよ!だから、アルトは出て行かなくったって良いんだよ!」

 アルトの言葉にカレンは慌てて言った。そこに、何人もの意思があった。アルト自身の思いと同じように。

「……そうは、言ってないけど」

 見抜かれた、とアルトは思った。

 身動きが取れるようになればすぐにでもこの街から出て行こうと思った。

 しかし。

「みんなで金、集めたってどういうことだよ……」

 アルトはカレンの言葉に突如疑問を感じ、問い詰めた。

「リエリーは東通りでバイオリン弾いてくれた。女神の調べ亭の常連さん達はアルトのために手術代、少しずつ寄付してくれた。わたしも西通りでピアノ出して……。みんなアルトが好きなんだよ。この街にいて欲しいって、例えギターが弾けなくなったって、ここにいて欲しいって思ってるんだよ。わたしだってずっとそばにいて欲しいって……」

 カレンは一気にまくし立てた。

「ピアノ出したって……。コンテストはどうしたんだよ、カレン!」

「……」

 アルトの驚愕に満ちた言葉にカレンはただ無言を返した。

 その無言でアルトは全てを理解した。

「なん、何でだよ!こんな、使い物にならなくなった左腕を捨てるために!クレアおばさんとの約束は、おれとの約束は、どうしたんだよカレン!」

 アルトは右手で額を押さえ、カレンに言った。いや、怒鳴ったと言った方が良いほどだった。何に対する、何から来たものかも判らないまま、その怒りが言葉を詰まらせる。

「コンテストなら来年、またあるよ。だけど、アルトはたった一人なんだよ……」

 穏やかな表情でカレンは諭すように言う。

「だけど!」

「いいの。もう、コンテストには出ないつもりだし……」

 アルトの頬に手を添えて、カレンは微笑んだ。その表情から狂言でも強がりでもないことが判る。カレンの言葉には諦めと言ったような感情が感じ取れないのは確かだった。

「出ない?」

 あまりに穏やかなカレンの表情と、思ってもみなかった言葉にアルトは唖然としながらそう言った。

「うん……。アルト、わたし、確かに言ったよ。母さんみたいなピアニストになるって……。でもね、考えてみて。わたしは母さんみたいなピアニストになりたかったの。わたしが生まれる前、父さんと結婚する前はわたしの母さんじゃなかったでしょう?」

「クレア・ランズウィック……」

 クレア・グリーンウッドではなく、クレア・ランズウィックのようなピアニスト。カレンが目指していたのは、交響楽団に属していたころのクレア・グリーンウッドではなかった。カレン本人も今まで気付けなかったことなのだろう。

 クレアと言えば誰もがかつてフィデス交響楽団に所属していたことを思い出すだろう。そして、カレンがクレアのようになりたいと言えば、やはり楽団を目指すということは避けては通れない道だと、誰もが思うだろう。

 カレンでさえ気付けなかった、本当の意味での、なりたかったピアニスト。

 確かにコンテストで優勝することができれば、フィデス交響楽団に入団はできた。しかしそれは、或いはクレアに近付きはできたのかもしれないが、追い越せはしない。

 カレンは自分自身の力で、それを見つけられたのだ。

「わたし、自分の目指すピアニストっていうのがどういうものだったのか、やっと判かったの……。アルトのおかげなんだよ」

 カレンはアルトの頬から手を離し、右手を優しく包みこんだ。

「おれの?」

 カレンの言葉が何を意味するのか、アルトには判からなかった。だから、そのままカレンが話し始めるのを待った。

「そ。わたしね、街で弾いていた時、アルトを助けなきゃ、お金を集めなきゃって、そればっかり考えてて、まともな演奏できなかった。街の人達もあれがクレア・グリーンウッドの娘なのかって、色々言ってるの、聞こえてきて余計にだめになっちゃって……。もうだめだって思った時、トムスが言ったの。俺とレイナはクレアおばさんのピアノ、覚えてないんだ、だから、カレンのピアノ聴いて初めてピアノが凄いんだって判かったんだって」

 アルトの右手を掴むカレンの手に、少しだけ力が入った。

「それは、トムスのおかげじゃないか。だいたいおれはカレンに何もしてやれなかった。カレンの言ってること、おれには判んないよ」

「違うよ。トムスのおかげっていうのもあるんだ、確かにね。でもやっぱりアルトのおかげなの。アルトがあのとき言ってくれた一言でもう一度演ってみようって、思えたから……」

 カレンは恐らくアルト自身覚えていないあの言葉に救われた。

 二度も救われたのだ。

「一言?」

「それからすぐにね、ウェインおじさんが唄ってくれたの、風の道標。……わたしのために唄ってくれたんだよ、ウェインおじさんが……」

「親父が?」

「うん」

 自分の大切な宝物を自慢するかのように、カレンの表情は晴れやかで清々しい。

 それでもアルトには悔恨の念が残る。

「その後にね、アルトも唄ってくれた。わたしだけに聞かせてくれたあの唄。確かに聞こえてたよ。アルトが一番大変なのに、勇気付けてくれたんだよ、風の先へで」

 カレンは大切な宝物を自慢するかのように、嬉しそうに、満足そうに微笑む。

「だからって」

「ウェインおじさんのこと、母さんのこと、そして、一番大好きなアルトのこと。想いながら弾いてたら気付いたの。母さんみたいなピアニスト、お金とか名誉のために弾くんじゃなくて、音楽を愛している人達、音楽を知らない人達に素敵な音楽を聴かせてあげられるピアニストになりたかったんだって……」

 カレンはそう言って、アルトの右手を離した。

「アルトと初めて出会ったあの夜、ウェインおじさんはお金のために風の道標を弾いたんじゃない。たった一人、愛する子供のために、風の道標を弾いたんだよ……。それはきっと、母さんや父さん、レイおじさん達、本当に、心から音楽を愛する人たちに囲まれていたから……」

「……」

 アルトにもそのことは充分に判っていた。何度も優しく、照れ笑いをしながらアルトの頭を撫でてくれた父の手の温もりを昨日のことのように思い出せる。金のために音楽を使いたくない、と言っていた父が、金の為にそのギターを弾いた時の状況は、少し思い返せばすぐに判る。だからこそ、ウェインはアルトにとって偉大な父であり続けた。

「愛するアルトの為だけに、一生懸命に弾いたあの風の道標で、幸せになったのはアルトだけじゃないんだよ。ウェインおじさんとアルトの二人だけじゃ、ないんだよ」

 判っていた。たった一曲の、旅の楽士が奏でた曲で、みんなが繋がった。レイブックは、クレイトフは、クレアは、幸せそうな笑顔だった。そしてカレンに出会うことができた。

「凄いな、カレンは……」

 カレンが目指したかったピアニスト。愛する誰かのため、音楽の素晴らしさを伝えてあげたい誰かのために自分の持つ能力を最大限に使う。確かに、クレア・ランズウィックというピアニストと同じ想いを持ち、実際にアルトを救うために演奏してくれた。その時に救われたのはきっとアルトだけではなかったはずだ。街を行く多くの人が、コンテストに出場したピアニストの誰よりも素晴らしいピアニスト、カレン・ランズウィックの星彩の途を聞いただろう。

 それに比べ、アルトはもう何もできはしない。

 カレンにギターを弾いてあげることもできない。

 自分の唄もウェインの唄も、もう。

(?)

 何かを、掴んだような気がした。

「……?」

 自分の誇れるもの。

「親父は、おれは、唄ってたんだよな……」

「う、うん、風の道標と風の先へ」

 アルトは確認するようにカレンに言う。

 アルトは今、模索している。

 何かが、そこにあるのだ。

 確たるものが。

 手を伸ばせば、すぐそこに。

 しばらくの沈黙の後、アルトは静かに呟いた。

「……見つけた。おれにはまだ、誇れるものがあったんだ」

「……そっか!」

 カレンはアルトと同じ答えを導き出し、歓喜の声を上げた。

 ギターを弾くことはできなくなってしまったが、アルトにはまだ唄声が残っていた。ギターの音色に良く合う声をアルトは持っている。アルトの声があまりにもギターとの相性が良かったせいか、アルトの声質そのものの良さには誰も気付かなかったのだ。いや、気付いてはいたが、ギターと歌声とが溶け込みすぎていたのだ。だから、誰もがギターを失うことが、アルトの音楽すべてを失うことだと思い込んでしまっていた。

 アルト自身、それに気付かないほど、あまりに自然に、アルトの唄声はギターとともにあった。

「ははっ……。なんか間抜けた話だな。こんなに近くにあったなんてさ」

「ふふっ、本当だね!」

 いつも一番近くで、誰よりも長く見ていた母がカレンの本当の目標だった。

 いつもギターと共にあった、自分自身の歌声がアルトの誇れるものだった。

 カレンもアルトも、すぐそばにあった、本当に大切なものを見失いかけていた。

「でも、カレンのおかげだよ。ありがとう、カレン」

 今度はアルトがカレンの手を取った。

「ふふっ、可笑しいね、わたし達って」

 カレンははにかむように微笑むと、軽く身を乗り出し、一瞬だけアルトの唇に口付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る