第141話
ギルマスに指定された日の昼前、俺は約束通りギルドを訪れた。
受付に顔を出すと、俺のことを聞いていたのだろう。
笑顔で「ギルマスがお待ちです」だってさ。
案内されるままに連れて行かれたのはギルマスの部屋じゃなくて、広い会議室の様な場所だった。
「ギルマス、エドガーさんが来られました」
「ああ、入ってくれ」
部屋の中には、高そうな服装の女性とギルマスがいた。
「お客さんなら、待つが?」
「大丈夫だ。こちらもエドガーに用があるんだ」
・・・このタイミングで俺に用がある・・・城主の関係者かな?
「君は仕事に戻ってくれ!あっ!それと、例の準備をするように指示を出してくれるか?」
「はい、分かりました」
受付の女性が部屋を出て行くと、女性は座ったままでギルマスが立ち上がる。
ああーやっぱり、城主の関係者だな。
予想が当たったことを面倒臭く思ってしまった。
「エドガー、紹介しておこう。こちら晴嵐城の城主、ストラスリィーン・ル・セイラン様だ」
・・・城主本人かよ!腰が軽いな。
「セイラン様、彼が大暴走を単独討伐した七つ星のエドガーです」
「なるほど。私を紹介されても驚きもしないとは、なかなか肝が据わっているようだ」
「お初にお目に掛かります。ギルマスに紹介されてしまいましたが、エドガーです」
一応俺も挨拶ぐらいはしないとな!
「先にギルドのことを済まそう。調査の報告は受けた。結果はエドガーの報告通りだった。冒険者が目撃した大暴走の姿は確認できなかった。よって、エドガーの報告を正しい物と判断した。報酬も用意している」
「まあ当然だな。これで大暴走が確認された、とか言われたら、調査に行ったやつを締め上げなきゃならなかった」
「おいおい、物騒だな。後は相談なんだが、素材は売却してくれるんだよな?」
「そのつもりだが、買い取れるのか?」
「勿論全部は無理だ、ギルドだけならな」
はぁーなるほど、それで城主がここにいるのか。
「理解が早いようで結構。私の方でも買取をするつもりだ。せめて装備だけでも揃っていれば、今回の様な場合でも対処がし易かった」
「セイラン様。この街の周辺で、過去、大暴走など発生した記録も無いのですから、仕方が無かったのです。私も今回のことを教訓にしようと思ってますし」
「ギルマス。セイラン様のことが分かって無いようだぞ?たぶん、不慮の出来事に対応するべき城主が後手に回ったのが納得できていないのでは?」
ギルマスの話に、微かに彼女の顔が翳った気がしたのだ。
「・・・分かるか?」
「まあ、それなりには」
嘘も方便、共感してるって思ってもらった方が良いかもって、ただの勘だけどな。
「ふっ!そうか。予算も限られている、多少は勉強してくれるのだろう?」
「・・・適正価格の四割、六割引きでどうです?それ以上は経費も出なくなるので、容赦して欲しいです」
これより下げろって言わないだろって低価格を提示してやる。
「なっ!流石にそれはダメだ!半値以下など、いくら安い方が助かるとは言え、それでは脅迫して買い叩いたと言われてしまう」
「安くしてくれと言われて、次は提示金額を上げろと言われるのは、おかしな話では?」
この街でなければ最大で二割引きまでだろうけど、今の俺は気分が良いんだよな。
あと、討伐報酬だけでも結構な金額になるはずだからな。
「しかし安過ぎる!それでは労力に見合ってないだろう?」
「そうでも無いんです。俺には、新しい従魔ができたって言うメリットがありましたので」
そう言うことなんだよ。
だから感謝してくれよ!
「その猫では、無い、よな?」
「ええ。ニジ出ておいで」
またまた掌の上に呼び出す。
「なっ!オ、オーロラ色!」
「ええ。大暴走のキングだった子です。運良く従魔にできました」
この手の内容で嘘は不味いからな。
「それはっ!・・・凄まじいな・・・それで七つ星なのが信じられん」
「なったばかりなので、これから地道に星を稼ぐつもりです」
「なあ、エドガー?ギルドにも安くしてくれるんだよな?」
「ギルドは金があるんでしょう?」
ギルドも乗っかるのかよ!
「頼む!今回バカみたいに経費が掛かってて、なっ!」
「ふー、分かった!同額で良い。その代わり、明日、経費で美味い飯を食わせてくれ。それぐらいは良いだろ?」
「ほっ!本当か!分かった、良い店に連れて行くぞ!」
いやいや、誰が一緒に行くって言ったんだよ!
行くなら城主と・・・いや、止めよう。
碌なことにならない気がする。
「いや、むさ苦しいギルマスと飯なんて食えないって!一人で行くから、料金だけギルド持ちな!」
「誰がむさ苦しいんだ!」
鏡を見てくれば分かると思うよ。
何やかんやと金額交渉なども終わり、場所を移動した。
場所は、ある程度高い天井の倉庫の様な部屋だった。
「ここに素材を出してくれるか?できれば種類別が良い」
「構わんが、俺達だけで素材を確認するのか?量があるぞ」
「ああー、少ししたら職員が来る。品質確認や数量確認は職員がやる。俺達は、どんな素材があるかの確認だけだ。分配を決めるための見聞ってとこだ」
「了解した。それじゃあ出すぞ」
あっ!名前は虫としているけど、その名前の虫の魔物だからな!
あと小さい物、顎、爪、羽、針、角、毒袋、蜜袋、糸袋など。
魔物石は売らないぞ、アンバーとニジにあげるからな。
まあ、総数二千を超える魔物の素材となれば、仮に蟻系でも甲殻が頭と胸、顎一対、爪十二本、蜜袋となり計十七点となり、単純換算で考えても素材の数が三万を軽く超える。
もっと素材の多いのもあるので、ざっと四万点ぐらいになるんじゃないかな?
この数だと、確認する人間が一人や二人では役にも立たないだろう。
俺は収納してる物を種類ごとに出すだけだが、一緒にいる二人は騒がしかった。
やれ、「状態が素晴らしい」だの「どうやって討伐したんだ」だの「傷が無い」だの、スキルが絡むことを喋る訳が無いだろう。
二人ともが聞きたそうにしてたけど、完全に無視。
素材を出していると、ゾロゾロと職員がやって来た。
ギルマスが言っていた、確認作業をする職員なのだろう。
俺は確認作業を始めた職員を横目に、作業を進める。
あとは最後の中型の蜘蛛の素材を出して終わりになるのだが『こいつは少し大きいから目立つだろうな』と思いながら出せば、周囲からどよめきが聞こえた。
「これは凄い!」
「中型の蜘蛛か?一、二・・・六体分はあるぞ!」
「ギルマス。これは私に優先権が欲しいのだが?」
「四対二で、二がギルドでどうだ?流石に全部は無理だぞ」
「それで良いだろう」
何やら交渉も始まってるようだ。
「これで全部だ。あと魔物石があるが、それは俺の従魔用にするから売らないぞ」
「全部か?少しくらいは・・・」
「ダメだ」
「それ以上強化してどうするんだよ?オーロラなんて、既に最硬度じゃないか」
「まだ上があるかも知れないのに、自分の従魔を強化しない従魔師なんていないだろう?」
「分かった、これだけの素材があるんだ、既に予算オーバーだしな。諦めるさ。取り敢えず三日後に、また来てくれ。それまでに確認と売却額の算定を終わらせる。あと、食事の件は宿に使いをやるからな」
「はいよっ!」
仕事も終わったので、城主にも挨拶してギルドを出る。
さて、また三日も時間ができてしまったな。
何をしようか?
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