第22話

神殿の極秘捜査から三日、今日はいつもと違う業務になると分かっていた。

それは、俺の下に五人の部下が付くからだ。

部下?って思うかもしれないが、回復薬を作るための部下って事だ。


今日から、ゼルシア様とリザベスさん付き添いの下、五人に指導する事になってる。


ゼルシア様がここにいて良いのか?心配だったが、既に領主の抱きこみは終わってて、後はタイミングを見ているらしい。

どうやら違法な人身売買の現場を現行犯で押さえるのがベストだと判断したらしいのだ。

まあ、それだと神官も言い訳が難しいだろう。


効率化を図って回復薬の増産をしていた事で、在庫に六日分ほどの余裕ができている。

何とか、六日で形が整えば嬉しいが・・・


リザベスさんがゼルシア様と五人を連れてやってきた。

紹介された五人とは、既に守秘義務の契約をしているらしい。

そうじゃないと、ここに連れて来ないだろう。


さて、と考えごとを止めて五人に向き合う。

一度に全部の工程を教えるのは難しい。

人それぞれに要領を掴むまでの時間が違うからだ。

なので、一つずつの工程を教え込むつもりで道具などを用意してもらっていた。

そんなに道具を用意しても無駄になるのでは?という意見もあった。

だが、今後も人員の入れ替えや新人の教育があるかもしれない事や、用意する道具に高価な物が無い事を理由に押し切った。


「まず最初は材料である薬草の洗浄だ。これは根に付いている土や汚れを落としたり、小さな虫を取り除くために行う。注意する事は、水中で洗う時に薬草を傷付けない事。傷付けると、そこから薬草の成分が水に溶け出して薬効が落ちる。薬効が落ちた状態では回復薬として使えない物になってしまう可能性がある。手早く傷を付けないように注意して作業してくれ」


そんな説明をしてから見本をとしてザル一杯分の薬草を処理して見せた。

勿論、同じようにできるとは思っていないし、目標にでもなれば良いか?ぐらいの気持ちである。


それぞれに作業をさせながら、その内容を確認して所々で注意をしたりもする。

一通り終わったところで次の作業だ。


「次は洗浄しても取れない異物の除去と葉選別だ。異物は分かるだろう。薬草を束ねていた紐が絡まっていたり、違う草が紛れていたりするからそれを取り除く。それから葉の選別は、枯れているものや変色してるものを取り除く。この時絶対に手で千切ってはダメだ。取り除く葉の根元をナイフでカットする事。千切ったところは早く傷み始めるから、薬効が落ち易くなるし、品質がばらつき易い」


ここでも前と同じように作業の手本を見せるのだが、違うところは、どの葉を取り除くのか、どうやって取り除くのかという説明をもう一度やりながら作業をした事だろう。


五人に作業をさせて、その様子を見るが、二人ほど手際が良くて的確に作業を進めている。

なかなか見所がありそうである。

逆に一人マゴマゴしていて、チラチラと他の作業を盗み見ているのもいた。

気付いた時は、不器用なのか?と思ったが、どうも作業に集中できていないみたいだ。

何となく俺の勘が、コイツにこの後の作業を見せない方が良い、と感じていた。

他の二人は作業は丁寧なのだが、時間が掛かっている。

真面目だが慣れていないからだと思った。


「全員終わったな。今日の指導はここまでだ。一度に全部の作業を憶える事は難しい。今日の残り時間と、明日は手分けして教えた二つの作業に慣れてくれ。何か質問はあるか?」

全員を見回してみるが、誰も質問する気は無いようだった。


「・・・無いようだな。じゃあ・・・」

「儂から一つ言いたい事があるわい。エドガーがここの責任者だわい。彼には効率良く回復薬を作るために作業の分担をしてもらうように依頼しとるわい。それぞれに得手不得手があると思うが、彼の判断で作業が割り振られるわい。簡単な作業も難しい作業もあるが、どれも回復薬を作るうえで重要な事に変わりないわい。責任を持って割り振られた作業をして欲しいわい」


おおー、ゼルシア様が上手く場を締めたな。

五人の内一人を除いてヤル気が見えるようだ。

何か、気になるんだよなアノ一人・・・


ただの勘ではあるが気になって考えているとリザベスさんが声を掛けてきた。


「まだ初日が始まっただけだけど、どう?」

どう?と言われても、正直言って、まだ何ともとしか答えられない。


「だよね。この六日間はできるだけ確認には来るけど、ヨロシクね」

分かっていた事だし遠慮無くどうぞって感じかな。

ただ、ゆっくり話してる時間は無いと思うけどね。


「大丈夫よ、分かってるから」

にこやかに、そう言われると後は何も言えないな。


「エドガー」

背後から聞き慣れた声がした。

あの時、ゼルシア様が良い所で締めてくれて助かった言いながら振り返る。


「歳の功ってやつだわい。それより、ラズーレが藍銀と黄金について話してやって欲しいと言ってたんだわい」

ああー、あの時の資料に書いてあったやつだ。

でも、俺はその言葉の意味を知らなくて・・・確か神殿関係の隠語だったか?


「知ってる方が少ないわい。後で時間がある時にでも聞きに来れば良いわい」

口調はアレだが、ゼルシア様も優しいよな?


「さて、そこの二人は洗浄を。残り三人がもう一つの作業を時間一杯までやってくれ」



何とか形になってくれよな。

主に俺のためだけど・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る