第8話

「おっ!やっと気持ちが解れてきたか?」

思わぬ言葉に「ぅへぇっ!」って変な声が出たよ。


「まあ、ギルド長とか大人が悪いとこばっか見せてるから緊張してるんだろうけどよぉ!俺は信用しても良いと思わねぇか?」

俺・・・気を張り詰めてた?

俺の気持ちを解そうとしてた?


「絶対に嘘だ!後から取って付けたような理屈で誤魔化そうとしてるのバレバレ!」

どう考えても二人で楽しそうに漫才をやってたぞ!


「えーーー、そんな事ないぜ」

「諦めるんだわい。この子はアンタより賢いんだわい」

えっ?また始めるの?と思わず二人を見つめる。


「何か疑われてる犯人の気分?」と愚痴るデズットに「バカ、呆れられてるんだわい。だけどねぇ、私も一緒に呆れられるのはいただけないわい」とゼルシア様まで愚痴り出した。

少しウザイ感じになってきたし「二人の掛け合いは面白いんだけど、時と場所は考えた方が良いんじゃない?あと、くどくなり過ぎると呆れられると思う」と釘をブッ刺す。

「「グッ」」と二人同時に息を呑む姿は、やはり息が合ってるんじゃないかな?


グダグダになってしまったが話を元に戻して「で、ゼルシア様は何で付いて来られたんですか?」と聞く。

だって強力な助っ人なのに、リザベスさんだけに見張りを任せるのも悪い気がしないか?


「ああー、何たって今は資材庫の整理に行ってるんだから良いんだわい」

はっ?資材庫の整理?何で?


「あやつらは真面目だけが取り得なんだが、真面目さの方向性が悪いんだわい。堅過ぎて柔軟性が足りんわい」

そこから聞いてみれば、ゼルシア様の言う事に納得できた。


要は、真面目なんだけど融通が聞かない堅物タイプで型に嵌った仕事なら問題無いが、少しでイレギュラーが起きると途端に仕事が滞るんだって。

他にも、元々が幹部候補として教育されてきて、そのまま管理者になっているので下の仕事が分かってなかったりして、色々とギルド内で不満が出てたんだそうだ。

今回の事を良い機会だと思って、一番下の仕事から一通り経験させて、仕事の内容を覚えさせれば職員の不満も理解できるようになるだろうって事らしい。


「で、その回復薬の件は?」

「まあ、余り知られて無いが、例が無い訳じゃ無いんだわい」

「えっ!後天的にスキルを授かった人がいるんですか?」

「おるわい。と言うか、新神教の勢力圏以外の国では普通の事だわい」

やっぱり、そうだったか!

だから旧神教の神殿でスキルを授かれたんだな。


「そうなのか?」

デズットは、よく分かって無い様子だ。


「まあね。一般的な生活で不便に感じるほどじゃないだろうから知らなくても、おかしくない事だわい」

そう言って説明してくれた。


旧神教も新神教も元は一つだったらしい。

内部で派閥みたいな争いがあって分裂したんだって。

で、真面目だった派閥が旧神教として追いやられ。

金銭的に汚い派閥が金にモノを言わせて新神教として幅を利かせてるらしい。


あれ?でも、スキルの儀式って無料だったよな、金に汚いなら無料にするか?

何か納得できずゼルシア様に聞いてみた。

「それはな、金のある所から取っておるんだわい。平民からは信仰を、金持ちや貴族からは金銭をと分けておるんだわい」


平民が無料で、金持ちや貴族が有料って事?幾ら見栄や矜持があるにしても、金持ちや貴族から不満って出ないのか?

「これも金を持った者しか知らん事だが"授かったスキルを消す事ができる"そんなスキルもあるらしいわい。欲しいスキルになるまでやり直しができるとなれば、そのために金を出すやつは多いんだわい」


えっ!ずるい!

でも、勿体無い!って俺だけか?そう思うの・・・



他にも、裏で汚い事をやっていると言われているみたいだが、証拠らしい証拠が無くて追求できて無いって。

俺・・・証拠の在り処・・・知ってるぞ、この街の神殿だけだけど。

ゼルシア様は信用できそうだけど、どうしたもんか?

この街の神殿だけ潰しても蜥蜴の尻尾切りにあいそうだしなー。

・・・もう少し様子を見た方が良さそう?


「・・・でも、新神教の神殿には知られない方が良いんでしょ?」

「そりゃあ、そうだわい。面倒は嫌なんだろう?」

「ええ、今でも面倒ですもん」

「ハッハッハッハッハ!確かにそうだわい!」


少々話し込み過ぎた。

回復薬作りの話もしないとな。


「ところで、回復薬ってどうなるんです?」

「最初の契約通りで問題無いってよ!」とデズットが教えてくれた。

それに続くように「あの部屋は元に戻してあるでな、馬鹿な覗き魔はもう出んわい」とゼルシア様が心配していた事に答えをくれる。

だけど、ギルド長の心配も分かるんだよな・・・


「ゼルシア様、もし薬師をしたいって人がいるなら、手解きしましょうか?」

回復薬は冒険者のリスクを減らすには必要だし、俺も何時かはこの街を離れるつもりでいるからなー。


「良いのかい?」

「スキル無しで作るには手間暇が掛かるし、最初は低級未満の回復薬しか作れませんから」

そんなもっともらしい理由を付けておく。

ただの保険なんて事は言わないし、言えない。


「エドガーが良いんなら、人を探してみるわい」って凄い嬉しそうだった。


そのまま俺は専用の部屋に向かったのだが、デズットがついて来た。

「良いのかよ?製法教えて?」って聞きたくてついて来たみたいだな。


「良いんだ。いくらスキル持ちだからって冒険者全員の回復薬を一人で作れないし、何かあったら困るだろ」

「エドガーって良いやつだな!バンッ」

「痛ってー!」

思いっ切り背中を叩きやがって、あんた冒険者だろうが!

力が有り余ってんだろうけど、限度ってもんを考えやがれ!


デズットは俺の背中を叩いて、そのまま歩き去っていて、俺が痛みから回復した時には姿は無かった。

その事に気付いた瞬間『いつか倍返ししてやる』と心に誓った。


頭を切り替えて部屋に入る。

回復薬に必要な素材は大量に準備してあって、材料的には幾らでも作れる。

ただ、余り作り過ぎると価格が下がり過ぎて問題になるし適度に数量を抑える必要がある。

何でか?って、俺は調薬スキル持ちって言ってるけど、既に通り越して製薬の上の錬金術師にまでスキルが成長してるんだ。

あっ!スキルの成長は、調薬→製薬→錬金術師って感じな。


で、生産系のスキルは、上のスキルになるほど生産効率が上がるし品質も向上するんだ。

どの位かって言うと、調薬で回復薬を一つ生産する時間で、錬金術師なら三十個ぐらい生産できる。

まあ、ざっと三十倍。

そんな感じで回復薬を生産すると、絶対"やり過ぎ"になると思ってる。

この考えは間違ってないはず。

だから、抑え気味に生産しないと不味い訳だ。


調薬スキルで作れる数量は時間的に考えて・・・一日三十個程度かな?

となると、なんだかんだと準備や片付けも含めても・・・一時間で終わるだろう。


残る時間は、七時間・・・

さて、一番の問題は・・・空いた時間をどうやって潰すかって事かな?

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