第26話 さくらの初陣
昼食を摂ってから、俺たちは会社に戻った。
「もう、お腹いっぱいわね」
歩きながら、
「よかったな。そろそろ会社に戻らないと」
今日は会議があるので、遅刻してはいけない。食堂を出たのは午後一時ころで、今は一時十五分過ぎだ。会議は十五分後に始まるから、余裕があって早く歩く必要はない。
冷房の効いた社内は気持ちいい。
今日は陽射しがやけに強く、炎天下で町を歩いていた俺たちはさっぱりした。
「じゃ、今回は階段を上ろうね」
「お願いします……」
俺に従い、
「どうだった? 疲れた?」
と、息を吐いている
「ちょっとだけ。でもエレベーターよりマシだから、これからは階段を使おうと思ってる。もちろん、
俺は軽く頷いて、会議室の方に向かった。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
全員が会議室に揃っていた。
皆の目が合うように、席はサークルの形に配置された。
俺は
「さて、今日の会議を開始します」
そう言ったのは
彼女は学級担任のように黒板の前に立っていて、チョークを鷲掴みにしている。
静まり返った会議室を見回しながら、
「
言って、彼女はジト目で俺をにらみつけた。
ーー今日の
「はい、案内いたしました」
しかし、今は会議中だからできるだけ彼女を無視しようとした。
「では、
「は、はい!」
と、
「この企画は
ーーやばい。俺と
「秋葉原からアプリの開発を依頼されました。そのアプリは店の客足をデータベースに保存して、わかりやすく表示することができます。それに、アプリのユーザインタフェースをできるだけ可愛くしてください、と話しました。
「わかりました」
ーー正直、そんなに難しそうにない。運が良ければ、休憩を取る余裕もあるかもしれない。
俺と
画面の光が彼女の横顔を照らす。
「さて、始めようか」
溜息を吐いて、
俺は頷いて、パソコンをつける。
「じゃ、俺にはメイド喫茶の知識がいっぱいあるから、アプリを可愛くするのは簡単なことだ。さくーー
「特にないと思うけど……。強いて言えば、コードの推敲かな」
「すごい! 推敲を上手くできる人は大事だよ」
俺が言うと、
「私は……大事?」
言って、彼女は少し顔を背ける。
髪を耳にかけ、恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「開発的な意味、だよ」
俺は頭を手に埋め、そう言った。
「ったく、遊ぶ暇がないぞ」
「す、すみません」
と、
「じゃ、開発を始めようか。俺がコードを書いて、
「はい、そうしよう!」
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
二時間くらいコードを書いたり推敲したりしたあと、開発はようやく一段落した。
「へー、脚が!」
そう
新人だからそういう反応をするのは当然だろうけど、俺は笑わずにはいられなかった。
「ちゃんと休憩を取ればよかったのにな。でも、開発はかなり進んだんで頑張った甲斐があったよ」
「本当にありがとう、
「いや、新人にしては意外と上手い。やるじゃないか、才能があるね」
「……本当? この会社が最高だわ!」
その言葉に、俺は目を見開いた。
ーー入社したころの俺もこんな感じだったっけ? いや、そんなわけないだろう。
「残業したらその意見はきっと変わる。
言って、俺は苦笑した。
しかし、
「じゃ、俺は散策しようと思う」
「そうか。私も休憩を取るかな」
本来ならば、俺は秋葉原に行くはずだった。しかし、俺は名案を考え出した。
それは、依頼者が誰なのかを
客足を増やしたがっていて秋葉原にある店を一つしか知らない。
ーー依頼者がゆめゐ喫茶ではないだろうか?
仮にその店だったら、俺は出張という名目で秋葉原に行くことができる。仕事から電話は来ないだろうし、クビにならないはず。つまり、最高のチャンスだ。
それに、出かけている間、開発を
ーー我ながら、完璧な計画だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます