第17話 青空で追いかけた夢
「はい休憩!」
笑顔で私を見ている
たった二時間で、彼女が振り付けも歌詞もほとんど覚えたのは奇跡としか言えない。
私は練習室の入隅に汗だくの
練習は結構大変だったのに、彼女はよっぽど疲れていないようだ。やはり、私はそんな体力とは比べ物にならない。
「すごい……。
「そんなことないですよ。その曲はもともとデビュー曲だったので振り付けが簡単で、歌詞が少なかったんですね」
『簡単』。その一言に、私は少し気が引けた。
「そうなんですか……」
どうやらこの曲は振り付けも歌詞も簡単らしいけど、私が三年前にライブで歌ったときは結構難しかった。いや、今でも難しい。
ーー体力がまだ足りないのか?
「練習はどうでしたか?」
「正直、私にはまだ難しいです」
言って、私は目を伏せた。
「だって練習ですもの! 難しくないなら上達できないでしょ?」
「でも、こんなままじゃ今回のライブは台無しになってしまうんですね」
「いやいや
「そう言われると嬉しいけど……私だって上達したいし、もっともっと上手く歌いたいですよ。それが私の夢なんですから」
「夢があれば、きっと叶うと思いますよ。皆の大好きなあおいちゃんですからね!」
青いドリーマーなのは私。だから、ファンに『あおいちゃん』と呼ばれていた。
彼女がそのあだ名を知っているということは、私のファンだということなのかな?
「あの、なぜその名前を知ってますか?」
「えー? デビュー曲を知っているからファンに決まってるんじゃないですか」
「でも、その時はまだ『
「
彼女の元気な声が私の言葉を遮った。
ーーわくわくしすぎているんじゃないか? 私はそんなに有名じゃないし……。
まあ、ずっと応援してくれるとはすごいけど。本当に感謝している。
「お、応援してくれて本当にありがとうございます!」
「じゃ、練習に戻りましょうか?」
「え、もう休憩が終わったのか!? まだ汗をかいてるんですけど?」
「ちゃんと練習しないと路上ライブの成果は出ませんよー」
「もう、わかってるよ」
吐息を吐いたあと、私は立ち上がり、
一時間の練習、十五分の休憩。それを三回も繰り返したころ、今日の練習はやっと一段落した。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
息を切らせた私と
手足の力が抜けて、私たちは練習室の床板に横たわっていた。
髪の毛を拭く気力もなく、ただタオルをマフラーのように首元に巻いていたまま。
「今日は……この辺にしましょうか……」
「うん、それは……いいと思いますね……」
立ち上がることもできず、私たちはその場で眠りについた。
眠っている間に、私は夢を見た。悪夢か吉夢かわからないけど、何らかのメイド喫茶の中にいた。
客足の少ないメイド喫茶。というか、お客さんなのは私だけだった。
そして、のぞみというメイドが出迎えてくれた。彼女曰く、願い事を教えてあげれば、悪意の願いではない限り叶う。だから、私は次のライブについて語って、マネージャーの言葉も付け加えた。
その後、見たことのない特製のお茶を飲んでーー続きはわからない。なぜなら、目が覚めたから。
薄暗い練習室が視界に入った。
私は立ち上がって、練習室を出た。
今夜の月はとっても綺麗。
しばらく夜風に涼んでから、私は練習室に戻ってきた。
本来ならば、彼女を起こしたほうがいいんだろう。部屋の心地いい布団を思うと、寒くて固い床板で眠りたくなくなった。しかし、こんな遅い時間に彼女を起こしたらきっと怒らせてしまう。
ーーどうすればいいのか……。
「た、
言って、私は彼女の
「
彼女は突然
しかたない。彼女は起きまいだろう。
「許してください、
そう呟いてから、私は彼女の
練習で疲れているせいか、
あまりの軽さに戸惑いながら、私は彼女を部屋まで運んでいった。
♡ ♥ ♡ ♥ ♡
部屋に着くと、私は敷いておいた布団に
彼女はもう熟睡しているのか、練習室から部屋まで運ばれたのに一度も起きなかった。
暴れたりもしなかったので運びやすいけど、そんなに疲れているならもっと早く寝ればよかったんじゃないか。
しばらく彼女の落ち着いた顔を見つめてから、私もベッドに入って、眠りについた。
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