第十輪 閑話休題:これからどうしよう(どうもならんわ)

「うん……そうなんだ、キリンジ君」

 木ノ本未来は暗い自室で、スマホを耳に当て生返事をしている。

 暗い部屋の方が落ち着く。彼女は元々、陽の者ではない。普段は無理して振舞っているだけだ。

「うん、うん。その日は私も空いてる。一緒に遊園地行くならその日だね」

 生返事をスマホに返す。相手方は満足したようで、「うん、またね! 二人で会おうね!」などとほざいて切った。

 ああ、やっと解放された、と未来は思った。


 女になんて生まれなきゃよかった。自分は特撮監督として名を馳せる、つもりだった。

 壁際に並べてあるフィギュアを見やる。特撮ヒーローのフィギュアが、それぞれ格好いいポーズで列を作っていた。


 正直、未来が参加している特撮サークルにも面白い人間はいない。誰もがただのオタクで、映像に情熱を傾ける人間などいないのだ。

 自分がやりたいと思ったことができない。それは、死んでいるのと同じことだ。

 未来は自分を取り巻く何もかもに絶望していた。


 しかし、こんな未来に寄り添ってくれる存在が一つだけいる。

 それはある日突然、窓を割って部屋に降ってきたものだ。

 未来はそれを捨てることもできたが、そうはしなかった。

 生き物の鼓動のように明滅するそれを、未来は見捨てることができなかったのだ。


「ねぇ、あなたはどうしたい?」

 座った未来の足元にあるのは、結晶であった。

 日常としては異物として見られるそれは、未来の部屋に溶け込んでいた。


「私と一緒に遊園地、行こうか。きっとあなたも楽しめると思う」

 結晶は生きているように明滅を繰り返した。その姿は、ご存じワカメ怪獣になる前の『平等なる愛』と同一のものだった。


「もし私が『全部、もういらない』って思ったら、その時は……何もかも、めちゃくちゃにしてね」

 未来の口の端が吊り上がった。

 結晶は肯定するように妖しく光った。

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