18 開幕!西館チェイス!~激震~
制限時間20分……魔封じの首輪をつけての西館チェイス。4階以外の西館全域が対象となっている。分かりやすい試験内容ね。うん……だけど……さっきから一つ、凄く気になってることがある。
隣を見ると……準備運動してる左茲。やけにやる気になっているリント。真剣な眼差しの阿朱羅。
雲一つない快晴の下、西館玄関に流れる並々ならぬ緊張感。
えっと、最終試験を受けるのはあたしだけのはず……なんだよね?なんでみんなこんなに本気なの……?
「千歳さん。最初の追手ですが、準備は良いですか」
正面から聞こえた紫月の声で無意識のうちに背筋が伸びる。そうよ。これから試験なんだし、集中集中……それにみんなが超真剣なのは何も不思議な事じゃないし。あたしが西館の団体戦に相応しいかどうかを見る試験なんだから、本気でやるに決まってる。
「大丈夫。いつでもいいわ」
試されているのだということを今一度深く胸に刻む。戸惑いはもういらない。ただ意識を研ぎ澄ませて……胸を借りて思いっきり。それだけを考えればいいんだから。
「いい表情ですね。対戦相手兼試験監督の立場ではありますが、応援していますよ。
まもなく腕輪の宝石が赤く光ります。それが開始の合図です」
「わかった。ありがとう」
柔らかく微笑んで、紫月は紫色の羽織を軽やかに揺らしながら遠ざかっていく。行く先は裏庭の方角。
「この首輪つけるたびに思うけど、魔力なしってやっぱり変な感覚だね~」
「……この体の重さ、ほんとに慣れない。頑張って走る……」
「じゃあね千歳!またあとでねー!」
リントは大きく、左茲は小さく手を振りながら一緒に裏庭方面へ。
「じゃあ、俺はこっちに行きますね。無理は禁物ですよ千歳さん」
「うん。大丈夫」
いつもみたいな優しい言葉を置いて、阿朱羅は館内へ。
それぞれの動きをこうやって注意深く見てはいるんだけど……今見た方向に必ずいるわけじゃない。そんな簡単なチェイスじゃないってことはこれを見ればすぐにわかる。
4階以外の窓、扉が全て開け放たれており、いつもより開放的な雰囲気の佇まいの
これなら裏庭に回っても容易に館内に移動できる。館内も同様に外への移動が可能。
魔力無しなのに加え、移動の自由も効く特殊な条件の中、どう動けば捕まえられるのかな……探り探りやって作戦を練っていくしかないわね。
鈴のような澄んだ音と共に腕輪の宝石が輝いた。
――ついに試験が始まったんだ……!
あたしが追手だということを示す赤い光。この色を塗り替えてみせると胸の内で唱え、まずは館内に足を踏み入れる。
そもそもあたしはどのくらいみんなと
えっと、西館は上から見ると口の形をしてるから……一先ずあそこで待ち伏せしてみようかな。
絨毯の赤に心が奮い立って、エントランスホールの螺旋階段を二段飛ばしに跳ね、2階まで行く。
一つしかないこの階段を使うのは、追手と遭遇する確率を考えるとリスキー。だったらみんなはどうするのか……それを、はっきりさせておきたい。使わない選択をした場合……手段の一つとして、一本だけ少し高い庭の木を登り、2階に飛び移って侵入するという方法がある。
誰か一人くらい、この考えの通りに動く人がいたとしたら、運よく捕まえられるかもしれない。
あの木の位置は確か書斎の近く……
そこまでの最短ルートを選び取る。あたりを警戒しながらも、少しわくわくしていた。何故なら、こっちにはみんなの個室がある通りもあるから。
(普段は大外回りだけど……今回は試験だから。真剣にやった結果、仕方なく通るわけだから。いい、よね?)
丸々あたしの部屋になっている4階は1階と同じ、百合と剣の装飾の上に金粉が散らされたクリーム色の壁だけど、ここ2階は百合と狼の装飾の
それだけじゃなく柱の装飾なんかも少し違ってる。銀に光る槍、杖、弓の彫り物は思わず立ち止まって見たくなるほどに綺麗。
身近な場所の新たな発見はまだまだある。けど……みんなに、もしくは神様に改めて断りを入れておく。
あたしは見ようとしてるわけじゃない。そこはわかってほしい。ルール上、扉が開いたままだから部屋の中が見えちゃうの。だからその……なんかごめん!
いけないことをしてる罪悪感の隣に……正直、やっぱりちょっと……楽しい気持ちが爪先立ちしてる。
リントの部屋はやっぱり本と紙が沢山あるな。多分、書斎に収まりきらなかったものだったり、傍に置いておきたい本だったりが集まってるんだろう。
隣は紫月の部屋みたい。埃一つない清らかな空間に色んな楽器が飾られてある。あたしが聴いたあの楽器以外にも弾けるんだ。きっと全部、綺麗な音がするだろうから聴いてみたいな。
その隣は左茲の部屋だ。手前の机の上に畳んである私服が一緒に出掛けた時のものだったからすぐわかった。壁には数字の書かれた紙がいっぱい張り付けてある。もしかして家計簿、とかだったりするのかな……?
残る一番奥の部屋は阿朱羅……のはずなんだけど、ベッドしか物がないし、なんとなくだけど、しばらく帰ってきた気配がしない。ずっと5階の館長室にいるのかな。でも一回あそこに入った時、ベッド無かった気が……いや気のせいじゃないわ。物が少なすぎてびっくりしたのを覚えてる。ロッキングチェアとアンティークのデスクとイスしかなかった。
……ちょっと色々と心配になってくるわ。
角を曲がるとまた雰囲気が変わる。陽の光が和らいでもっと静かな気配が立ち込めている感じがする。書斎に続く通り……一先ず、ここが狙いの領域……
深呼吸する暇もなく、その時は訪れた。
前方約7メートル先。裏庭に面した窓から勢いよく飛び込んできた人影。
「あ」
「あ!」
驚いた顔と底抜けに明るい声。やってきたのはリントだった。
想定通りの大チャンス!絶対に逃がさない!
ほぼ同時にあたしたちは走り出す。魔力が封じられてる今、足の速さに関して自信がなかったけど、逃げるリントの背がどんどん近くなる。これなら捕まえられる!
「千歳すっごく足速いんだけど!」
一歩、また一歩、全速力で追いかけて書斎の前、角を曲がったすぐ後に藍のローブを羽織った肩に手を伸ばす。
あと……もう少しっ!
触れた瞬間、腕輪が瞬く。燃えるような赤から穏やかな若草の緑へと。
「さすが剣士……運動神経いいなぁ!」
「やった……捕まえた……!」
だけど喜びに浸る時間は無い。次のチェイスが始まるまで10秒ほどの間隔しかないから、リントに手だけ振って減速せずに階段の方へと走る。
この滑り出し、上々なんじゃない……?リントよりあたしの方が速いっていう情報も手に入った。他のみんなはどのくらい……?このルールの中で一番有利なのは誰……?早めにそういう情報を把握しておきたい。だから……
5階の館長室からはエリア全体が良く見えそうだけど、そんなのみんなも知ってるはず……考慮して、少し身を乗り出せば見える3階の窓から様子を窺おう。
あまり立ち入らない階だったけど、チェイス再開丁度入り込んだ部屋は弓矢や剣を収納している所で隠れるにはもってこいの場所。
たまたまだけどいい部屋見つけた……!
窓際に積み重なった木箱の影に座り込み、やっと呼吸を整える。
紫月と左茲と阿朱羅はあたしよりも足が速そうだし、簡単には捕まらないだろうから……そうなると、リントはあたしを狙ってくる……のかしら。
じゃあ、この場所に留まり続けるのは悠長かもしれない。タイミングを見計らって移動した方が良さそう。
「……!!」
程なくして、目に飛び込んできた光に言葉を失う。
再開から50秒……あたしの予想は見事に裏切られた。腕輪の宝石に揺蕩っていたのは水底のような深い蒼の光。
阿朱羅がリントに捕まったの……?
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