0 残る火傷

 遠くで足が地面に擦れる音がする、何かが空を切る音も。


 カンッ


 これは木と木が激しくぶつかる音。

 ぼんやりとしているけれどわかる手に伝わる重い衝撃。


「今日こそはわたしが一番だから!」


 その声を聞いた瞬間、視界に光がさして体の感覚がクリアになった。


「もらったっ!」


 油断している間に相手は鋭く突きを繰り出してきて、手元が狂い、持っていた木刀が天高く舞い上がる。


「何してんのよ対戦中にボサっとしちゃって」


 尻餅ついたあたしに手を差し伸べるその子の強い紫の瞳も、橙の切り揃えられた髪も、勝気な笑みも忘れるはずがない、けれど……なんでいるの。


「は?どうしたのよ千歳?」


 間違いない、これはまた悪い夢。

 だってこの子は


「さてはまたジメジメしたこと考えてたんでしょ!……わたしが直々にその性根を叩き直してあげる!もう一戦やるわよ!」


 大きな木刀を構えてニヤリと笑う女の子は、あたしを助けてくれた恩人は


「なによ。立てないの?もっかいだけ、頑張りな。ウルーズ荘のみんなもいる……わたしもいるじゃん。根性見せな、千歳」


 ごめん。ごめんなさい。


 あの暖かな場所はもう無い。全部全部、あたしのせいだ。


 火花が散って、瞬きの間に燃え広がる。あたしがいる限り、この火はすべてを焼き尽くす。

 何度でも。絶対に。


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