第120話 鬼の襲撃

「鬼が!」


 太郎はぼおっとしたかすみがかかった世界から一気に現実に引き戻されました!


 昨夜の前夜祭がまだ体のどこかに残るというのに、梅の精のようなあまてらす様がついそこにいるというのに、そんな場に鬼がなだれ込んでくると言う。


「鬼はどこから!」

「ああ、海の向こうからですよ。もうすぐ一番船が見えてくる頃です」

「えっ!」


 広場から島の向こうに見える海。その水平線にまだ船らしき物は見えてきません。


「来る時は一気ですからね、よく見ててください。見物みものですよ」


 鬼が押し寄せるというのにうずめ様は楽しげだ。


「あ、いろはちゃん」

「はい!」

「すたんばった方がいいよ」

「はい!」

「広場のあの線のところね」

「はい!」


 3人娘はうずめ様に言われて、広場の端っこまで行くと、くるっと向きを変えて広場の島の内側、なんだか縁日やいちのように屋台みたいな店が並んでいる方向に向いて、よーいどんの構えを取りました。


「え?」


 太郎には何がなんだか分かりません。


「太郎さんは何かこれって物あります?」

「え?」

「どうしても手に入れたい宝物とか」

「え?」

「特にないんですか?」

「いや、その……」


 手に入れるというか、取り返さないとと思ってここに来たのです。


「まあ、特に目的がなくても参加することに意義がありますから、あたしたちと一緒にこっちの高いところで見物でもしましょう」

「え?」


 太郎は意味不明のまま、うずめ様に勧められるまま、一緒に広場の西側にある、ちょっと高い場所へと移動した。


「いろはちゃんたちーがんばってー!」

「はあい!」

「がんばります!」

「げっとするぜー!」


 洗濯娘たちはニコニコしながらも手首足首をコキコキ回したり、屈伸なんかをしています。


「来たあ!」

 

 うずめ様の声で海の方を見ると、水平線に横一列に小さく小さく盛り上がった波頭なみがしらが空気を押すように、ドドドドドドドドとこちらに迫ってくるのが見えました。

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